第46話

 フラヴィアの協力を得た俺は、そのまま彼女を連れてザイオンへと戻ってきた。

 それにしても、まさか話を持ち掛けたその日のうちに来てくれるなんてな。

 彼女のフットワークの軽さには驚くばかりだ。


「悪いな。職務中だってのに」

「気にするな。私個人が動く分には副団長という立場は色々と融通が利くのだ。それに近頃は事務が多くてな。ちょうど退屈だったのだ」

 

 彼女がそう答えるように、騎士団の職務に関しては特に問題ないらしい。

 副団長ともなれば書類仕事の方が多く、後々で調整できるそうだ。


「またアンタか。さっきも言ったが今は……」


 特徴的な仮面を着けてるせいか、俺だと気付いたようだ。警備兵は呆れた表情をこちらに向けてきた。

 だが、俺の隣を歩く人物を見てすぐに顔色を変えた。


「フ、フラヴィア様……⁉ どうしてここに⁉」

「ご苦労。警備は順調か?」

「は、はい! 問題はありません!」


 アルレから遠く離れたザイオンの警備兵ですら彼女が何者なのかを知っているようだった。

 ネームドNPCというのは俺が思うよりずっと凄い存在なのかもしれない。


「それは何よりだ。ところで私はこれから〝魔の荒野〟に調査に向かう。通してくれるか?」

「はっ! ……え? あ、えっと、そのような話は聞いておりませんが……」

「さっき決めた事だ。なに、心配する必要はない。ザイオンの騎士団には私からも言っておくから、君の首が飛ぶことはないぞ」

「はぁ……ですが……」


 本当に通してしまって良いのか判断がつかず、警備兵は渋る様子を見せた。

 いくらフラヴィアの地位が高くとも彼女の所属はアルレであり、彼の直属の上司ではない。だから渋るのも当然の事なのだが──、


「何か問題でもあるのか?」

「ひっ、い、いえ……問題ありません!」


 フラヴィアの圧に負けた彼は、あっさりと道を空けた。

 ひどいパワハラを見た気がする。少し気の毒だな。



 ◇



 門を抜けてからはシロに騎乗する事にした。

 ちなみにフラヴィアは騎士団の隼疾竜ラプトールを連れてきていた。

 そんなわけで俺の後ろに乗るのは人型になったマモンだ。


「……むぅ」


 何やら視線が痛いが気にしない事にした。

 そもそもマモンはソウルギアだ。嫉妬されても困るのだ。


「む、そろそろ〝魔の荒野〟に入るぞ」


 しばらく走っていると、次第に景色が様変わりしていく。

 途中にある岩稜地帯を抜けると、そこから先は荒廃した大地が広がっていた。


「ここが〝魔の荒野〟か。確かにそれっぽい雰囲気が漂ってるな」 


 視界のミニマップに表示された『魔の荒野』の文字を確認しつつ呟く。

 地面には殆ど草木が生えていない。転がっているのは岩や魔獣の骨くらいだ。

 それと荒れているのは大地だけじゃない。

 上空は常に黒い雲が漂っており、昼間だと言うのにとても暗かった。


「門を抜けてからそんなに距離が離れてないのに、ひどい変わり様だな。いったいどうなってんだ?」

『〝魔の荒野〟に指定されたエリア一帯は大地から瘴気が噴出してる。それがあの黒雲を生み出してんのさ』

「その通りだ。……日光が無ければ植物も育たない。そのせいでここの大地はこんなにも荒れ果ててしまったのだ」

「へぇ……」


 所詮はゲームと甘えて強引にマップを生成してるのかと思ったが違ったようだ。

 一応ちゃんとした設定があるみたいだな。


「しかも瘴気による害は黒雲だけじゃないぞ。あれは魔獣を惹き寄せるのだ」

「あぁ、なるほど……だから強い魔獣が棲み着いてんだな」

「そういうことだ」


 瘴気に侵された魔の領域。

 そこに巣食う山喰らいを探して俺たちは進む。


「グルルルルッ……」


 荒野を駆けていると、突然シロが脚を止めた。

 どうやら魔獣の気配を察知したらしい。

 シロは低い唸り声をあげながら警戒するように姿勢を低くした。


「……山喰らいベルグステンか?」

「まさか。それならとっくに姿が見えている。これは別の魔獣だ」


 俺が確認するとフラヴィアは首を横に振った。

 それもそうか。衛兵曰く、とんでもなく巨大な魔獣らしいからな。


「それより戦闘に備えた方がいい。お目当ての魔獣では無いが、なかなかの大物だぞ」


 そう呟くフラヴィアの視線の先──そこにいたのは、真っ赤な瞳をギラつかせた悪魔だった。


 悪魔は山羊に似た頭部を持ち、背中には悪魔の象徴たる蝙蝠のような翼を生やしていた。

 その既視感のある姿は宗教絵画で見るような悪魔そのものだ。


「でけぇ……」


 身の丈は3メートルくらいあるだろうか。

 身体つきは筋肉隆々で、手には大鎌を持っていた。


『カプリコーン……こんなのがフィールドを歩き回ってんのか』


 マモンが珍しく驚いた表情を見せた。

 気になった俺は、魔獣の強さを測るべく【鑑定眼】を発動させた。


 種族名:カプリコーン


 HP:12474 MP:22590

 STR:2422

 VIT:2175

 DEX:2295

 AGI:1524

 INT:3482


「は? 強くね⁉ 合計ステ余裕で1万超えてんぞ⁉」

『当たり前だ。このエリアはパーティープレイ推奨だからな。ソロで挑む物好きはお前くらいだ』

「マジかよ……それにしたってインフレしすぎじゃねぇか⁉」

『そもそもMMOなんてそんなモンだろ?』


 そう返されてぐうの音も出なかった。

 確かにその通りで、終盤エリアの雑魚MOBが中盤のボス並みなんてのは、MMOに限らず全RPGに言える事だった。


「仕方ねぇ……強けりゃその分ドロップも期待できんだろ……行くぞマモン!」

『クク、そう来なくっちゃな!』

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俺の武装だけ課金で強くなるんだが? ぷらむ @Plum_jpn

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