第45話

 俺の提案を聞いたマモンは呆れたような顔をした。


『馬鹿なのか? 確かにお前は強くなったが、レイドボスをソロで討伐できるほどじゃない。ちょっとステータスの高いプレイヤーがソロ討伐できるような難易度なら、そもそもレイドクエストになってねぇんだ』


 彼女の指摘は実に正しかった。

 本来、レイドクエストとは十数人規模のレイドでクリアする事を想定した難易度となっている。通常のプレイにおいて、ソロでのクリアは不可能に等しい設計なのだ。


 でもよ、そんなことはわかりきってんだよ。

 重要なのは他のプレイヤーに獲物を奪われない事だ。

 つまり、共闘相手がプレイヤーでなければ問題無い。


「別に一人で戦う必要はねぇだろ?」


 そう返して、俺は余裕の笑みを見せた。



 ◇



 レイド対象を独占討伐する事に決めた俺は、帰還石を使って一度アルレに戻る事にした。

 何度でも言うが、すげえ便利なアイテムだ。ザイオンにだってすぐ戻れるし。

 ただ、取引所の相場を見ると1個20万円もするんだよな。そこが残念過ぎる。


 それはさておき、アルレに戻った俺が真っ先に向かった場所──それは騎士団の駐屯地だった。


「どうぞ、こちらでお待ちください」


 急な来訪にも関わらず、丁重に応接間へと通された。

 なぜこうも待遇が良いのかと言うと、俺の名声ポイントが高いからである。

 蒼鰐竜ラギラトス討伐に、盗賊団の殲滅。

 俺は報酬目当てだったが、それが結果的に治安維持に大きく貢献してたってわけだ。


「……用件というのは何だ」


 しばらく待つと、フラヴィアが応接間に入ってきた。

 何やら不機嫌そうに目を細めてマモンを睨んだ後、俺の正面へと座った。

 気分でも悪いのか? さっさと結論から話した方が良さそうだな。


「ザイオン……〝魔の荒野〟に山喰らいベルグステンが出たって話は知ってるか」

「勿論だ。騎士団に所属していれば情報はすぐに回ってくる」

「なら話は早いな。俺と一緒に山喰らいベルグステンを討伐しないか?」


 俺が単刀直入に言うと、フラヴィアは目を丸くした。


「……それは他の魂装士アニマの招集を待たずに我々だけで倒すという意味か?」

「あぁ、当然だ。そのためにはフラヴィア……お前の力が必要なんだ」


 ドラマのワンシーンみたいな台詞だと我ながら思う。

 とはいえ、これは彼女の感情を揺さぶる為でも、ましてや口説き文句でもない。

 その言葉通りの意味である。

 レイドボスをソロ討伐するためには彼女の能力スキルが必要不可欠なのだ。


(【断罪テミスの剣】……このスキルならレイドボスも確実に倒せるはずだ)


 実を言うとダークネス戦でマモンを覚醒させて以来、俺は【鑑定眼】でフラヴィアのスキル詳細が確認できるようになっていた。

 そこで見たスキル詳細は以下だった。


断罪テミスの剣】

 効果:ボスクラスの魔獣や邪悪な存在(プレイヤーを含む)を攻撃時、威力が12000%増加。


 対象が限定されるものの、凄まじい威力倍率を誇るぶっ壊れチートスキル。それを彼女は持っていた。


 けどまぁ、別にそこまで驚くことじゃない。

 ゲームである以上、この世界には竜や魔人等の凶悪な存在が数多く登場する。

 そいつらに世界や文明を滅ぼされないための最終防衛システム的な存在は、NPC側にも必ず用意されているはず。そして、彼女はそれに該当するのだろう。

 プレイヤーがクエスト失敗する度に、国や街が滅んでたら世話が無いからな。


『ククッ、その通りだ。良くも悪くもこの世界は上手い具合に管理されてんのさ』


 俺の思考を読んだのか、マモンの声が頭の中で響いた。

 隣に座ってるのに念話的なので話しかけられると変な感じがする。


 何はともあれ、ボス特攻キラーのスキルを持つネームドNPCである彼女となら山喰らいベルグステンを討伐するのも夢ではない。

 いやぁ、やっぱ持つべきものはネームドNPCの知り合いだよな!

 

「それは本気か? ……いや、君はそういう男だったな」

「はっ、そりゃ褒め言葉か?」

「ふふ、当然だ──良いだろう。君の気概が私は好きだからな」


 フラヴィアの返答は予想通りイエスだった。

 彼女は英雄的な行動が大好きっぽいからな。絶対に乗ってくると思ってた。


「恩に着るぜ。それじゃ早速ザイオンに行って──「ところでだが……」


 いい感じに話が纏まった所で、フラヴィアがまたもや目を細める。

 そのジトっとした視線は隣に座るマモンへと向けられた。


「彼女は君の何なのだ……確かにそういうことは構わないとは言ったが、その……流石に目の前に連れてくるのはどうかと思うぞ」


 あれ、まさかマモンの事をソウルギアと認識してないのか?

 俺の気配を察知するくらいだからとっくに気付いていると思っていた。


「何だ気付いてなかったのか。コイツは俺のソウルギアのマモンだ」

『あぁ、俺様はソウルギアだ。だからアンタの事もよく知ってるぜ……よろしくな熱血騎士サマ』

「これは驚いたな。人の姿になれる魂装ソウルギアなんて初めて見たぞ」

『クク、自分でも驚いてるさ。そういう訳で、騎士サマの恋路を邪魔するつもりはないから安心しな』

「……っ!」


 マモンが意地悪そうにギザ歯を見せると、フラヴィアは少しだけ頬を赤くした。


『けどよ、コイツを落としたいなら急いだ方がいいぜ。コイツの周りは女だらけだからな。この前だって、ちっこい女と仲良く盗賊狩りをだな……』

(おい、余計な事を言うんじゃねぇ……変なクエストでも発生したらどうすんだよ)


 ──そう思った矢先にピコンと通知が鳴った。

 

<フラヴィアの休日①>

 受注条件:フラヴィアに嫉妬心を抱かせる

 達成条件:フラヴィアとのデートで彼女を満足させる

 報酬:初級スキルブック(正義乙女)、フラヴィアの親密度向上

 説明:休日に彼女とデートしよう。


 あぁ、ほら。言わんこっちゃない。

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