第25話

『全ステータスが大幅に向上しました』

『武装スキル【黒欲魔爪ゲレスヴァルト】を獲得しました』

『称号スキル【貪欲なる者アヴァリス】の対象範囲が拡大しました』


 ゲーム開始から一週間も経たないうちに伝説級へと覚醒したマモン。

 その刀身は、より美しく洗練されたものへと変貌を遂げていた。


 今さら説明するまでもないが、これこそが俺の秘策だ。

 経験で劣るなら、ステータス差で圧倒すればいい。

 強さが明確に数値化されたゲームだからこそ、俺はその仕組みを最大限に活用させてもらおうじゃねぇか。


 ちなみに資金面の心配は不要である。

 昨日、取引所に出した蒼鰐竜ラギラトスの素材は、10分も経たずに売れたからな。

 恐らく世界の魂刻アカシックレコードを見た上位層が、素材売りを期待して待機してたのだろう。


「ひぅ、そんな……ありえない……」

「は、残念だったな。俺のソウルギアはそういうモンなんだよ」

「くふぅぅぅぅ……ッ‼ 【瞬影シャドウブリンク】ッ‼」


 憤怒を滲ませた叫びを上げると、ダークネスの姿が消えた。

 俺はすぐさま周囲を見回してヤツを探した


「くひひひひひひッ‼」


 その姿を視界に捉えた時には、既にヤツは攻撃動作に入っていた。

 不可視のソウルギアのひゅんと言う風切り音だけが響く。


「──おい、その振り方はさっきぞ?」 


 だが、不可視の斬撃が俺の身体を貫くことはない。

 俺がマモンを振るうと、カンッと甲高い音が響いて何かを弾き返した。


「くひっ……? ななな、ななんで……?」

「なんでって、そりゃ一度見たら覚えるだろ。スキルで操作してないなら飛んでくる箇所は大して変わんねーだろうし」

「お、覚えた……? くひいいい、わ、わけわかんない……」


 何を言ってんだコイツ。

 

「それより、よそ見してる暇があるのか? ──【滅雷】」

「ひっ……」


 俺が忠告した直後、雷球から無数の雷撃が放たれた。

 ダークネスは咄嗟に瞬間移動ブリンクして、それを回避した。

 雷撃が石床を穿ち、瓦礫と砂煙が舞った。


「──【黒欲魔爪ゲレスヴァルト】」


 俺は転移先を確認すると、一気に距離を詰めてスキルを発動させた。

 マモンを覚醒させた俺のAGIは約1200。

 さらに装飾品のオプション効果が発動すれば1700を超えるのだ。

 いくらコイツが優秀な瞬間移動ブリンクスキルを持とうと、再詠唱時間クールタイムが空けるより早く接近されれば対応のしようがないだろう。


「ひぎゃっ……⁉」


 俺の斬撃をまともに喰らい、ダークネスが悲鳴をあげた。

 ステータスが大幅に上昇しているため威力は申し分ない。

 だが、この新たなスキルが持つ真価はそこではないのだ。


致命傷クリティカルダメージを与えました──〝貪狼の爪〟が発動します』


 さらなる追撃のために、俺は剣を振るう。


「くひっ──【瞬影シャドウブリンク】」


 ダークネスは再び瞬間移動ブリンクスキルで離脱を試みるが──、


「あ、あれぇ……?」


 それが発動することはなかった。

 間抜けな声を漏らすヤツを俺は問答無用で切り裂いた。


「ひぎゃあああっ……なな、なんで……スキルが……くう⁉」

「貪狼の爪は対象のスキルを一定時間封印するんだよ」

「そそ、そんな……」


 嘆くように呟くダークネス。

 もはや戦意を失ったのか、不可視のソウルギアで応戦してくる様子もなく、


「──【黒欲烈閃ファヴニル】ッ!」


 俺の怒涛の連撃によって、ダークネスは呆気なく倒れた。


『き、決まっちゃいましたぁあぁ‼ 勝者はケイ選手なのですッ!』


 シエラが宣言すると、今日一番に大きな歓声が湧き上がった。

 観客席には俺の名をコールする集団まで現れ、観客のボルテージは最高潮に達していた。


 会場が熱狂に包まれる中、俺は冷静に視界のログを眺めていた。

 

『──【貪欲なる者アヴァリス】を発動しますか?』


 なるほどな。対象範囲の拡大っつーのは、こういうことか。

 未だに発動条件は不明だが、この際そんなことはどうでもいい。


「あぁ、発動だ」


 俺は迷うことなく了承の意を返した。


『──【貪欲なる者アヴァリス】の効果により、武装スキル【瞬影シャドウブリンク】を複製しました』


 獲得したのは、俺が期待していたスキルだった。

 嬉しさのあまりに顔がにやけてしまう。


 ふひひ……初めて見た時からと思ってたんだよなぁ!

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