第24話

(なッ⁉ 瞬間移動ブリンクッ⁉)


 気づいた頃にはもう遅かった。

 背中を針で突き刺すような痛みが襲った。

 そして衝撃ノックバックによって俺の身体が大きく弾かれた。


「ちくしょうッ!」


 痛みに耐えながらも俺は、ダークネスが出現した方向へと黒の斬撃を放った。

 設置していた【滅雷】もターゲットの座標移動に反応して追加の雷撃を発射した。

 だが、それらの攻撃が到達する前に、ダークネスの姿がまたしても消えた。


「くふふふ、こっちだよ……」

「くッ⁉ また瞬間移動ブリンクかよ⁉」


 またしても瞬間移動したダークネスは指揮するような動きを見せた。

 刹那に襲い来る不可視の攻撃を受け、さらに俺の体力が削られていく。


「くそッ……」


 目に視えないソウルギア。

 再詠唱時間クールタイムの短い瞬間移動ブリンクスキル。

 どちらもPVPに適した能力だけあって厄介極まりない。


「くふふふ、世界の魂刻アカシックレコードの保有者に勝ったら……みんなにもっと注目してもらえるかな……」


 訳の分からないことを呟くダークネス。

 言葉の意味はよくわからんが、とりあえず──、


「まだ俺は負けてねぇーっつうのッ‼」


 俺はダークネスを目がけて疾走した。

 確かに瞬間移動ブリンクスキルは厄介だが、再詠唱時間クールタイムがゼロということは無いだろう。

 ならば、俺は高いAGIを活かして喰らいついていくしかない。設置した【滅雷】の自動攻撃と連携していけば、ダメージを与える機会は必ず訪れるはずだ。


「くひっ……」


 不気味な笑い声を残して奴の姿が霧散した。

 すぐさま背後を振り向き、ダークネスの姿を探す。


「くひひひひっ……!」



 2秒ほどの時間をかけてヤツの姿を見つけ出したが、既に遅かった。

 不可視の攻撃が俺の身体を突き刺した。


「痛ッ……この野郎⁉」


 体力ゲージが削られるのも厭わず、俺はカウンターの【黒欲舞刀フレキスヴァルト】を放った。


「ひぎゃっ……⁉」


 流石に瞬間移動ブリンクスキルは再詠唱時間クールタイム中で使用できなかったらしく、ダークネスはそのまま俺の放った斬撃を受けた。

 続けざまに【滅雷】による追撃が放たれたが、そちらは瞬間移動ブリンクによって回避されてしまった。


「くふふふ……なかなかやるね。でも残念。それくらいじゃボクは倒せない……」


 ようやくダメージを与えることができた。

 だが、ダークネスはまだまだ余裕といった様子だった。


『チッ……受けた被害の割には大したダメージになってねぇ! このまま同じ戦法を続けてもダメージレースで負けちまうぞ⁉』

「あぁ、わかってる」


 マモンの言う通り、今のままではダメージ量の差で俺が負けるだろう。

 この不利な状況を覆すには、少ない手数で一気に勝負を決める必要がある。


「ちっ、ここまでか。予定よりちょっと早いが……を使うか」


 今の俺では、ダークネスに勝てない。

 ヤツに勝てなければ、より上位のランカーにも勝てない。

 覚悟を決めた俺は──システム画面を開いた。


『ど、どうしたのでしょうかケイ選手⁉ 戦闘中に立ち止まり、何かを操作しちゃっています……⁉ まさか降参しちゃうのでしょうかっ⁉』


 俺が見せた謎の行動に、ざわつく観衆。


「くひひひっ……降参するのかな?」


 シエラの推察を信じたのか、気色悪い笑みで話しかけてくるダークネス。

 すっかり油断しきっているソイツを無視して、俺はとある画面を呼び出した。


『追加課金することで、マモンの能力を解放できます。ただし、最低課金額を満たす必要があります』


 そこに表示された文面を見て、俺はマモンに質問を投げかけた。


「なぁ、今から二段階強化するのにいくら必要だ?」


 俺の言葉に歓喜するように、マモンは刀装具をカチャカチャと鳴らし立てた。


『ククッ、お前にしては、いい質問だな』

「いいから早く答えろよ」

『……600万円だ。現金が無いならゴールドで建て替えても構わねぇぜ?』

「ふひっ……」


 マモンの言葉を聞いて、ついつい口元が緩んだ。

 そうか、600万円か。ゲームの課金にしちゃ、かなりの高額だが……。


 まぁでも……すぐに回収すりゃ実質無課金みたいなもんだろ。

 

「金ならくれてやる。だから俺に力を寄越せ──マモンッ!」


 そう言い放ってから、俺は躊躇いなく課金ボタンをした。すると手に持っていたマモンの刀身が光に包まれた。


「くひっ……? ふ、ふぇ?」


 驚愕のあまり間抜けな声を漏らすダークネス。

 だが、それも仕方のないことだ。


『ソウルギアの等級が一段階上昇しました』


 なぜならヤツも俺と同じプレイヤーの一人だからだ。

 当然、この光が何を意味しているのかを理解しているだろう。


英雄級エピック伝説級レジェンダリー

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