第14話

 隼疾竜ラプトールから降りてマモンを構えると、大猿たちが一斉にこちらへ駆けてきた。


『囲まれるなよ。アホ面だがシルキーウルフより知能は高いぞ』

「もうちょいマシなアドバイスをくれよな。囲まれたらやばそうな事くらい、みりゃわかるっての!」

『馬鹿言うな。それ以上は有料だ』


 金取るのかよ。全く、誰に似たんだか。


「ま、とりあえず叩き斬ればいいだろ!」


 飛び掛かってきた大猿に向かってスキルを放った。


「【黒欲舞刀フレキスヴァルト】ッ‼」


 放たれた黒い斬撃は、大猿の胴体を真っ二つに裂いた。


「ゲギャアアアアッ⁉」


 さらに、斬撃は貫通して後方にいた別の大猿の腕まで切り落とす。

 そのままトドメと行きたいところだが、一旦は後回しだ。

 サイドから大猿どもが石を投擲してきたので対処することにした。


「ヲタクの反射神経を舐めんなよ……ッ!」

 

 無数に飛来する石礫。その全てを俺はマモンで弾き、砕き、裂いた。

 数多の限定グッズ争奪戦から配信時の最速コメントまで。

 ヲタクには、至る所で極限までの反応速度が求められる。

 その全てを制覇してきた俺にとって、この程度のことは造作もない。


『やってることは凄まじいんだが、なぜか気持ち悪いな……』


 文句の多い野郎だな。戦闘中くらいは黙ってろよ。

 心のなかで不満を垂れつつ、俺はいくつもの斬撃を放つ。

 斬り裂かれた大猿たちが光の粒子になって消えていった。


 いまさらだけど俺のスキル強くね? かなり高火力だよな。


『ククク、当然だ。この俺様が与えた力だぞ?』


 俺の思考を読んだのか、マモンがすかさずドヤる。

 いや、大元は俺の金だろ。なんでお前が偉そうなんだよ。


「後は……さっき後回しにしたやつだな」


 既にダメージを与えているので、スキルは使うまでもない。

 先ほど傷を追わせた大猿の元に俺は駆け寄り、そして一閃する。

 手負いの大猿は断末魔と共に消えていった。


 ひとまず俺の方に向かってきた一団は処理し終えた。

 後はフラヴィアの方だが──


「はあぁぁぁッ!」

『ゲギャブッ⁉』


 視線を彼女の方に向けると、ちょうど大猿を剣で切り裂いたところだった。

 流石はネームドNPC。援護の必要は無さそうだな。

 何らかのスキルを発動した様子もなく、ただの通常攻撃で猿どもを屠っていた。


(つか騎乗しながら戦闘しているのか)


 彼女は隼疾竜ラプトールに騎乗したまま戦っていた。

 どれだけ騎竜が好きなんだよ。


『ありゃ騎乗スキルを活用してんのさ』

「騎乗スキル……あぁ、そういうことか」 


 そういやダメージ30%増加の効果があったな。

 それに悪路走行スキルも険しい山道での戦闘には向いてそうだ。

 

 それからしばらくして、俺たちは襲ってきた大猿たちを全て撃破した。


『アイテムを獲得しました:怒髪猿の剛毛✕20』

『アイテムを獲得しました:怒髪猿の牙✕8』

『アイテムを獲得しました:中級強化石✕2』

『アイテムを獲得しました:憤怒の首飾り✕1』


 嬉しいことに戦利品には装備アイテムが含まれていた。

 恐らく【貪欲な鉤爪】に付随するレアドロアップの恩恵だろう。

 流石は100万のスキル……これならネームドを倒した時も期待できそうだぜ。ふへへ。


「ふぅ、無駄な時間を食ったな。ケイよ、怪我はないか?」


 落ち着いたところで、フラヴィアが話しかけてきた。


「見ての通りだ。あれくらいなら余裕だ」

「そうか、愚問だったな」


 俺が得意気に返すと、フラヴィアはふふっ、と小さく微笑んだ。


「それより、早くお目当ての竜を探しにいこうぜ。これだけデカい山なんだ。騎竜の足があっても時間がかかるだろう?」


 今日も21時からウルちんの配信があるんだ。

 それまでに絶対クエストを終わらせねーと。

 ちなみに現在の時刻は11時。ソウルブレイド内の時間で30時間ほどの猶予があるわけだが、この雄大な大自然の中を探索するとなれば少し怪しいところだ。


「それなんだが、さっきの猿どもを見て目星はついたぞ」

「それは本当か?」

「あぁ、私たちに襲いかかってきた怒髪猿レイジングエイプだが、元々は山の中腹にある大穴に巣食っていた魔獣だ。そいつらがここまで追いやられているということは──」


 彼女の言いたい事をすぐさま理解した俺は、その続きを答えた。


「……ラギラトスに奪い取られたってことか」

「あぁ、そういうことだ」

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