第13話

 フラヴィアからの依頼を受けた俺は、共に北東のラグド山脈に向かう事となった。

 世界地図ワールドマップを見る限り、領内ではあるが街からはそこそこ遠いようだ。

 そのため、俺は騎乗マウントアイテムを借りることになった。


「ほら、この子に乗るがいい」

「ああ……さんきゅー」


 騎士団が保有する竜舎に来た俺とフラヴィア。

 フラヴィアは待機する騎竜のうち一匹を連れてきて、俺に手綱を渡した。


『騎乗アイテム:隼疾竜ラプトール(レンタル)を獲得しました』


 名称:隼疾竜ラプトール

 騎乗速度:400

 騎乗効果:攻撃ダメージ+30%、HP回復速度上昇、悪路走行

 説明:このアイテムはストレージに保管できません。クエスト終了後に回収されます


 騎士団が保有するマウントアイテムだけあって、なかなかの性能だ。

 さっき取引所で見かけた馬だと速度270とかだったしな。


 ちぇ、どうせならレンタルと言わずにくれたらいいのに。

 この手のマウントアイテムは高額なのだ。

 どのゲームもそうだが移動効率の上昇は、育成効率や攻略速度アップに等しい。

 ワールドの広いMMOゲームにおいて、その需要が減るわけがない。

 あー、そう思うとめちゃくちゃ欲しくなってきた。


「ふふ、この子たちは個人の所有物ではないからな。諦めてくれ」


 物欲しそうにしていたのが顔に出ていたのか、フラヴィアが苦笑した。

 

「あ、いや……そんなつもりは……」

「隠す必要はない。私も初めてこの子たちに騎乗した時は同じようなことを考えたさ。彼らに背に乗っていると風になったような気分になれるからな」


 俺は純粋な資産的価値から騎乗アイテムが欲しかったのだが、フラヴィアは違うようだ。

 きっと彼女は騎乗そのものが好きなんだろう。そんな顔してる。


「……お、おう? あー、そうだな! あの疾走感というか、人馬一体になった感じ? 堪んねえよなぁ! わかるわかるー!」


 高級スポーツカーをコレクションとして見るか、憧れの乗り物として見るか。

 それくらいに俺たちの価値観は違うのだが、気分を害しては後々面倒なので話を合わせておいた。

 乗ったことねーから死ぬほど適当だけど。


「ふっ、なかなか話のわかる男だな。気に入ったぞ。この戦いが終わったら私の屋敷に来い」

「へ? なんでだ?」

「騎竜が欲しいのだろう? 私が飼育している子たちを見せてやろう」

「まさか譲ってくれるのか……?」


 俺が訊ねると、フラヴィアは微笑んだ。

 それと同時にシステムアナウンスが流れる。


『サブクエスト〈フラヴィアの趣味①〉を発見しました。解放条件:〈蒼き閃光〉のクリア』


 まさかのサブクエスト発見。

 こういうイースターエッグ要素もあるんだな、このゲーム。


 それはさておき。

 彼女の表情から察するに騎乗マウントアイテムが手に入るクエストに違いない。

 こりゃ、今のうちからしっかりゴマすっとかねぇとなあ。


「あんた最高だよ。この戦いが終わったら一緒に走ろうぜ」

「……! ふふ、そうだな! 楽しみだなぁ」


 うっとりとした表情を見せるフラヴィア。

 彼女が今どんな気持ちなのか、ヲタクの俺はよくわかる。

 これはを見つけた時の顔だ。

 それがどういう意味かは……語るまでもないよな?


『……適当なこと言いやがって。後で面倒なことになっても知らないからな』


 怖いこと言うなよ。ネームドNPCに目をつけられるのは御免だぞ。


「もっと語りたいぐらいだが、そろそろ行かねばな」

「ああ、そうだな」


 雑談を切り上げて俺たちはラグド山脈に向かう事にした。



 ◇



 騎竜を走らせること約40分。俺とフラヴィアは目的地についた。

 ここからは険しい山道になるのだが、悪路走行スキルを持つ隼疾竜ラプトールなら問題はない。そのまま騎竜の背に乗ったまま山道を進んでいく。


『ここは推奨ステータス1500以上だ。気を抜くなよ』


 エリアに足を踏み入れた途端、マモンが警告してきた。

 流石はネームドモンスターの住まう山脈といったところか。

 通常の魔獣もそこそこ強いエリアのようだ。


「ところでその……ラギラトス……? ってのはどこにいるんだ?」

「すまない、正確な場所は私にもわからないんだ」


 先導するフラヴィアに質問してみたが、そんな返事だった。


「ってことは実物を見たわけじゃないのか」

「あぁ、私が見つけたのは奴の雷鱗だ」

「雷鱗?」

「ラギラトスの特徴の一つだ。帯電性の特殊な鱗を持っていてな。雷を自在に操るんだ」


 雷を操る竜か。属性攻撃を扱うってだけで相当強そうだ。

 報酬に目が眩んでソロで受けちまったが不安になってきたな。

 一応、街を出る前にお守り程度に中級ポーションは購入しておいたが……。

 使う余裕があるか怪しいところだ。


「……気をつけろ。何かがこちらに向かってきている」


 何かを察知したのか、フラヴィアが手を広げて俺を制止した。

 異変に気づいたのは彼女だけではないようだ。

 隼疾竜ラプトールも警戒するように鳴き始めた。


「早速ボスのお出ましか?」

「いや、ラギラトスではないな。このの気配は群れだ」


 探知系のスキルを持たない俺には、彼女の言う気配とやらがわからない。

 だが、しばらく待てば、何が起こっているかわかるくらいには周囲がざわついた。


「「「──ゲゲゲッ‼ ゲゲッ‼」」」


 前方から、おっさんみたいな汚い鳴き声が響いた。

 最初は遠くの方で響いていたが、除々に大きくなっていき。

 確実に俺たちへ近づいてきていることがわかった。


「なんだ、こいつら……」


 やがて、俺たちの前に姿を現したのはマンドリルに似た大型の猿だった。

 それもかなりの数で、樹木の上や岩の上など、いたるところにその姿があった。


「チッ、レイジングエイプの群れか! こんな麓まで降りてくるとはな!」


 フラヴィアが叫ぶと同時にこぶし大の石が飛んできた。

 どうやら大猿の一匹が投げたようだ。

 彼女は引き抜いた剣でそれを真っ二つに裂いた。


「応戦するぞ! 得物を抜け!」


 フラヴィアの指示を受け、俺はマモンを引き抜いた。

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