EP:03 剣工場
エリクサーは社会全体に認知されるほど有名な組織ではない。新進気鋭な企業ハイドラルギルムコーポレーションや安心と実績のASA(armed staffing agency)、国家としては最大規模のエドワード王国。
そういった組織とは違った目的、違った方針で活動しているため、名が広く知られていない。
名の知られている組織と競り合うは無理でも、そこらの組織とは絶対的な違いがあると思っている。
社員は基本的な仕事をしながらも戦闘員としてASAの一般派遣員、エドワード王国の下級警備兵とは絶対的な力の差がある。
その理由はエリクサーの主な活動が理由だろう。
社会の悪を排除する。社会全体にとっての薬となる。
そのために悪人は、独裁者は殺す。
営利企業でも、国家機関でもない。民間軍事組織、もしくは反社会派組織と認知されるのも致し方ない。
アラネア「それで、その子は今何しているの?」
命令に従い、任務を達成して帰ってくる。その後は報告書を書いて、提出。そして、自室に帰る。
いつも通りなら、そのはずだった。
戦場にて偶然出会い、強敵スカルリカプカーとの共闘を果たし、エリクサーの本拠点まで何故かついてきた白渚 雅。彼はエリクサーに所属したいと願い出てきたのだ。
帰路
テミス「何故ついてくる」
白渚「行くあてがないからだな。あんたが入ってる組織には少し興味があるし」
テミス「…組織についてそれなりには話してやる。それでまだついてくるのなら知らん。拠点にいるやつにお前は任せる」
白渚「ありがたい…!」
そして、私は軽くではあるがエリクサーについて教えた。正直なところ、今エリクサーは戦力不足に陥っている。単独の戦闘能力を優先していたが故に組織的な戦闘能力が不安点として焦点が当てられた。
適度な実力の人員を補充、もしくは単独戦闘能力が高い優秀な人員のスカウト。
組織の戦力を拡大する点においてはこの男はスカウトしておいた方が良いと判断した。
エリクサーは社会悪の根絶、もしくは抑制を目的と活動しており、暗殺、デモ、様々な手段を用いて社会にとっての害を排除し、健全な社会を実現する。
テロリストと同じように見られるが無差別なことはせず、警告などをしてから武力行使に及ぶ。
時折あるパターンだが、市民や被害者からの依頼で武力行使に及ぶこともある。
勿論、依頼が入れば、それも行う。
白渚「依頼ってどんな?」
テミス「そうだな…建築を手伝ってくれとか、豊作で人手が足りないから収穫を手伝ってくれとか…行方不明の人を探すとかだな」
白渚「へぇ、なかなか面白そうだな」
テミス「……そうか」
エリクサー本拠地
テミス「あいつは今、3階の客間に居ます。先ほど連絡してみたら、城下町の方を散策したいと言っていた…」
ギア「へぇ〜、二人がかりでスカルリカプカーと戦ったと言っていたね。彼の実力はどんなレベルなんだい?」
地面に足がついておらず、足をぶらぶらとさせている少年、ギアはエリクサーの技術部隊の隊長兼幹部の一人。
見た目こそ、150cm程度の身長に紺色の髪、顔半分にむき出しな機械部品は彼がホムンルム族であることを明確に示していた。
テミス「私と同等ではあるはずだ。今回、私は『カルマ』を使っていなかったとはいえ、相手はあのスカルリカプカーだった。ただ、まだ未知数ではある。弱いということはないだろう」
現在、幹部たちが集まって会議をする首領会議室に集まっている面々は先ほどまで技術者、戦闘員、医者、組織に必要な多数の人材を集めるための計画準備をしていたのだが、私が今回の報告の中に実力者、雅がエリクサーに入りたいということ含めて報告したため、それについて軽い会議が始まってしまった。
普通の希望者なら人事部の方に回すのだが、今回はあのスカルリカプカーと互角に戦える実力者、さらに経歴不明、裏表やどう言った人物か、その情報が一切ないのだ。
プレイニー「そいつを引き入れるかどうかは俺はどっちでもいいが、スカルリカプカーが何故わざわざ、あんなちっぽけな愚図どもの犯罪者組織に接していたかが俺は気になる。奴らは仮にも非条理に排斥されたものたちの為という大義を掲げている。犯罪者のような立派に罪を犯した生きてる価値のない馬鹿野郎どもと関係があるなんてバレたら面子に泥を塗るのと変わらんぞ」
机に乗せた足を組み、制服を着崩し、茶髪をオールバックにした大柄の男、護衛隊の隊長であるブレイニーはどうやら、雅の参加の件よりもスカルリカプカーの方が気になるようだ。
セクト「ブレイニー、今はその話は後よ。話題からずれてしまうわ」
白衣を着て、ウェーブがかかった長い髪を結ぶことなどはせずにそのまま下ろしている女性は紅茶の入ったマグカップを両手で包んで、香りを楽しんでいたが、ブレイニーが今の話題からズレかけていることを指定してくれた。
彼女はエリクサーの医療班のリーダー、セクト。
会議に出てくれることは少ないが今日はどうやらアラネアとお茶会をしていたようで参加してくれた。彼女がいると会議は早く進む。
なるべく、参加して欲しいのだが…本人が会議は嫌いらしい。
今この場にいるのはエリクサーの首領アラネアに、行動隊の3トップのうちの二人、そして技術班リーダーに医療班のリーダー。錚々たる顔触れだった。
ここに新人が居たら、怯えて竦んでいただろう。
ギア「これ美味しいね〜♪セクトちゃん、これどこで買ったの?」
セクト「あら、酷いこと言うのね。これはアラネア様が作ったのよ?」
アラネア「酷いわ〜、ギアくん、しくしく( ; ; )」
ギア「ひぇ!すんません!許して!」
ダメだ…わかっていたが、ギアとセクト、そしてアラネアが一緒にいると雰囲気が会議に適したものじゃなくなる。ブレイニーに関してはひたすら私が提出したスカルと犯罪者組織についての情報や記録についてのデータを電子端末で読み漁っていた。
大慌てで平謝りしているギアとそれを茶化すセクトを急に無視をして、アラネアはこの雰囲気をどうしようかと悩んでいた私に視線を向けてくる。ピンク色の瞳は人を魅了することだろう。同性である私でも見惚れてしまうほどに彼女は容姿が整っていた。
もちろん、私が慕っているのは容姿が整っているからと言う薄っぺらいものではない。
アラネア「それで、あなたはどうしたいの?作戦行動隊幹部、そして、エリクサーのエース部隊であるホワイトディーラー隊の隊長、時雨のテミス」
彼女はよく、相手に判断を委ねるとき、相手が付いている立場や称号、あだ名を含めて尋ねてくる。私用の時ではない場合でのみだが、この尋ね方は相手の意思と考えを尊重しながらも責任が伴うことを認識させてくる。
あまり、気分が良いものではないがその選択がどのようなものか、誰かに委ねることも聞くこともできずに自分の考えで、思いで選択する機会を与えてくれていると思えば、アラネアなりの慈悲なのかもしれない。
テミス「…加盟させた方がいいと思う。あいつの実力は確かだし、上手く手懐ければ、優秀な一員となる」
私がそういえば、ギアの人懐こい瞳が、セクトの満足気な瞳が、プレイニーの疑うような瞳が私に向けられる。
だが、誰も反対というわけではないらしい。
アラネア「……ふふ、後で人事部からカードキーを発行してもらってね。今日は遅いから、カードキーを発行してもらったら貴方の部隊に編入させるから、あなた達の部屋に案内してあげてね」
テミス「わかりま………編入?」
私の部隊、ホワイトディーラー隊は男子二人、女子三人で共同生活を送っている。ここでは部隊ごとに共同生活をすることが基本だ。もちろん、多少の例外はありはする。基本的にキッチンにトイレは勿論、男女別の寝室とリビングがある。風呂は全体共同の温泉、キッチンはあるが食堂もある。
編入させること自体は私には何の問題もないのだが、同メンバーの面々がどういった反応をするのやら…説明をするのも面倒だ…
アラネア「あら、いいわよね?」
テミス「…ああ、問題ない。じゃあ、彼を連れて人事部の方に行ってくる」
私はそう言い終われば、部屋を出ようとする。
アラネア「あ、ちょっと待って」
扉のドアノブに手をかければ、アラネアが私を呼び止める。ドアノブから手を離さずに後ろに視線を向ければ、彼女は慈悲が込められた眼差しで微笑んでいた。
アラネア「お仕事、お疲れ様」
テミス「……ああ。次の任務はまた後日教えてくれ」
満足感と充実感が胸を包み、顔が緩む。ギアとセクトのわいわいとした談笑と、ブレイニーの生真面目さ、アラネアの微笑み。それらはなんだか、暖かく、落ち着く。
仲がいい友人、兄弟、肩を並べる同胞。
エリクサーはやっぱり、私にとっていいところだ。
現在地:エリクサーの拠点内部。
座る心地が良いとは言えないソファーが二つ、膝ほどの高さの机が一つ、ぱちぱちと燃え上がる暖炉が心地よい音をたてている。ガラス窓から見える景色は煉瓦造りの暖かい色味の建物が規則正しく並んだ町並みは寒冷地の中世を彷彿とさせる。
机の上に置かれた珈琲から湯気はもう立っておらず、出されてから時間が経過したことをそことなく伝えてくる。
時計に視線を向ければこの街(?)に到着した時刻から5時間ほど経過している。
白薙「まぁ…暇つぶしのものが多いから大して苦ではなかったが…」
手元にあった六色の四方体をガチャガチャと動かして、バラバラだった色を揃えていく。数十秒もすれば、それは3×3×3のルービックキューブが綺麗に揃う。
ことり、と机に置いてから隣にある5×5×5のルービックキューブを取り、それの色も揃えていく。
そのまま、難易度が上がっていくルービックキューブを揃えようと苦戦していると、扉が開く。
テミス「…どうやら、お気に召したようだな。そのオモチャ」
黒い髪、そこまで気にしたことはなかったが、彼女はキャットルフという種族のようだ。猫のような耳と尻尾、うん、彼女本人の美貌と相待ってめちゃくちゃ可愛いし、綺麗だと見惚れてしまう。
白薙「ああ、気に入ったよ。ここの景色も、このおもちゃ、ルービックキューブってやつも」
自分が座っていたソファーの正面に座り、ポケットに入っていたカードを机に出してくる。
テミス「エリクサーに所属するなら、コードネームが必要なんだが…何か思いつくか?エリクサーでのお前の名前みたいなものだ」
机に置かれたカードを手に取れば、WD所属と書かれており、テミスから自分の個人情報をまとめたものだと伝えられる。カードキーのようなものらしく、基本的に所属部隊と、配属箇所、コードネーム、部屋番号が書かれているようだ。
所属部隊と配属箇所の違いについても教えてもらった。
配属箇所は本人がどういった仕事をするかを書いており、医療班、技術班、行動班といった大きく分けているものでー自分の場合、行動隊Ⅱ配属らしいー所属部隊は配属箇所の中の部隊、ということらしい。
……え、わかるずらいって?俺にそういうのを求めるな。テミスにでも聞け。
白薙「へぇ、コードネーム…。俺が考えるのか?」
テミス「私はアラネア、エリクサーの首領につけてもらった。まぁ、自分で決めたらどうだ?」
コードネームと言われても、何か考えてみるものの思いつかない。
しばらく、カードキーをじっと見つめる。
白薙「……そうだな。ヒュージエッジにするか」
テミス「ヒュージエッジ…莫大な剣……ぷっ、ふはは、面白いコードネームにしたな」
ヒュージエッジ「そうか?まぁ、これからよろしくな」
面白かったのかくすくすと笑うテミスによろしくと伝えれば、手を差し出してくる。一瞬、どういう意図かわからなかったが、すぐに理解した。手を差し出し、お互いに握手をする。
白薙(思ったより、柔らかいんだな。あんな剣戟を放てるから、もっとゴツゴツしてると思ったんだがな…)
テミス(……硬いな。剣士の手…というよりもただがむしゃらに鍛えたような手だな…)
手を離し、カップを取り、残っていた珈琲を飲み込む。
カードキーに書かれた部屋番号に向かおうかと思いながら、立ち上がれば、テミスも立ち上がる。
テミス「WD、ホワイトディーラー隊は私の部隊だ。これからよろしくな、エッジ。あと、部屋は私たちと共同だ」
………ん?なんだって?共同生活するの?待て待て、それ以上にホワイトディーラー隊ってテミスの部隊だったのか…?
エッジ「……あ、ああ。よろしく、隊長」
戸惑っている自分を他所にテミスは俺の方に手をポン、と置いてから部屋を出ていく。
エリクサーがどんな組織に所属している人物たちが悪い人でないといいなということと、共同生活を送ることになったテミスと彼女の部隊の人たちに大して僅かな不安と期待を抱きながら、俺はテミスを追いかけて、部屋を出た。
現在地:国境線の森
ざくざくと落ち葉を踏み抜く音は心地いい。体を戦闘服に身を包み、ガスマスクをつけたその男は森の中を歩いていた。
ふと、誰かの気配がすることに気がつき、そちらに視線を向ける。どうやら、目当ての人物と合流できたようだ。同じように戦闘服とガスマスクを装備した人物たちは木に寄りかかるか、座り込んでいるか、それぞれが待機時間を過ごしていた。全員が骨のワッペンを貼っていた。
部隊員「よう。スカルリカプカー、やっと帰れるな」
部隊員「お帰りなさい、リカプカー。無事で何よりです!」
それぞれが帰還した隊長を出迎えるとそれぞれが嬉しそうに声をかけてくる。慕われているのは明確だった。
そして、奥から違う服装の人物が現れる。
スカルレンジャー隊のワッペンは同一ながら、赤い戦闘服ではなく、紺色の戦闘服とゴーグルとスカーフで顔を隠しているこの人物にスカルリカプカーはゆっくり近づき、優しく抱擁した。
リカプカー「…ただいま、ロスト」
ロスト「…お帰りなさい、兄さん」
スカルレンジャー中隊の配属、スカルロスト小隊隊長、スカルロスト。彼女はスカルリカプカーを愛おしそうに抱きしめていた。
その二人の様子をロスト隊の面々は微笑ましそうに見つめていた。それだというのにスカルリカプカーの直属隊は何処か白けた瞳で兄妹二人を見つめていた。
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