第5話
しかし、周辺に赤い塗料の
腕組みして赤い文字をニラみ上げていた若い刑事は、ふいにドングリ
「さては、
「ああ。
「
「…………」
警部は無言で。
たしかに、非常に奇妙ではある。
現場の状況からみて、被害者の女性は、ドライバーで首を突き刺された状態で
犯人が、誰かにヌレギヌを着せるため、被害者に
やがて、血文字が記されたシャッターの店の
午前4時をまわった頃だった。
警視庁の警部と若い刑事は、女性の前に歩み寄った。
刑事が、ツッケンドンな調子で問いかける。
「被害者の女性と、知り合いなんです?」
「は、はい。1年前まで、同じ職場でしたし。同期入社で、部署も一緒で。プライベートでも親友だったんです」
女性は、ヒックヒックとしきりにシャクリあげながら答える。
被害者女性と同じ26才。
カフェオレ色のふわふわした柔らかな髪を肩の上にふるわせながら、あどけなさの残る丸顔にレースのハンカチを押し当てて泣きじゃくる様子は、妙に
いかんせん、
被害者の親友を自称するこの女性の名前が、被害者がシャッターに血文字で記した名前と同じだからだ。
女性を犯人だと決めてかかっているから、性急にたたみかける。
「アナタは、被害者が"シャッター通りのバンクシー"だということを知ってましたか?」
女性は、ビクリと肩をはずませ、
「は、はい。彼女が商店街に絵を描くときは、いつも、わたしが手伝いをしてました」
「じゃあ、今夜も?」
「いいえ! 今夜この商店街で絵を描くなんて、彼女、ヒトコトも教えてくれてませんでした、わたしに」
「本当に?」
「本当です! だって、わたしの店もうじきオープン目前なんです。いろいろ準備が忙しくて」
ここで警部が、ピクリと片眉を跳ね上げると、口をはさんだ。
「ほう。なんの店を開くんです?」
「画材の専門店です。
「なるほど。前職のキャリアを生かすんですね?」
「え、ええ。まあ」
女性は、バツが悪そうに顔をそむけた。
警部は、すかさず問いつめる。
「1年前まで、被害者と同じ『あじさいペイント』の商品開発部にお勤めだったんですよね? 会社をおやめになったキッカケは?」
「…………」
「お聞かせ、願えませんか?」
「
「
「ええ。わたしと彼女が社外で勤務時間外に発明した
「で、どう解決を?」
「わたしと彼女の2人だけで
「なるほど。ってことは、彼女が亡くなった今、アナタが
「そんな言い方! ヒドい……っ」
女性はハンカチに顔を伏せ、ひときわハデな泣き声をあげた。
警部と若い刑事が
「近くの通りでウロついていた
現れたのは、予想外に
異様な視線に気付いたのか、女性も、ふっと顔を上げて青年を見るなり、白い顔を真っ青にこわばらせた。
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