ネトラレトラレトラレトラレトラレトラレ……

春海水亭

NTRTRTRTRTRTRTR……

 敗北射精の日々だった。

 初めて出来た彼女をチャラ男に寝取られ、そのチャラ男と寝取られた彼女のセックスを映した俗に言うネトラレビデオレターの映像と屈辱と怒り、そして俺とのセックスで見せたこともなかった彼女の淫猥な表情をおかずに一人勤しんでいるのである。

 勝利射精は画面の中に荒い画質で映っている。

 ネトラレビデオレターはこの令和の時代にわざわざビデオテープで送付されてきた。古いタイプのビデオカメラが彼女の趣味らしいが、不貞の厳しさを元彼に見せつけるんだから、ブルーレイと言わないまでもせめてDVDには焼く優しさを見せてほしい。

 まさかネトラレビデオレターを視聴するためにネット通販をはしごすることになるとは思わなかった。


『オタクくんごめんね……でも、チャラ男くんのチンポはオタクくんのチンポより大きく、分厚く、重いの。チンポというにはあまりにも大雑把すぎるの』

『いぇーいオタクくん見て……俺のって、それ……褒められてるのか……?』

 画面に映るチャラ男の顔が青ざめているように見えるのはビデオテープゆえの画質の悪さだろうか。

 いずれにせよ、俺は永遠に敗北射精を続けるのだろう。

 心の傷はいつかは癒える、けれど傷口が塞がらないように、永遠に膿み続けるように俺はこのビデオテープで彼女との日々を汚しながら生きていくのだろう。


「……うう、うう」

 映像が進む。

 泣いているのか、喘いでいるのか、自分でもわからなかった。

 心を蝕む昏い愉悦と共に下半身から涙を流そうとしたその時である。

 俺の部屋のインターホンが鳴った。

 はっきり言って射精を優先したいところだが、流石に射精よりも社会を優先したほうが良いぐらいの社会性はまだ残っている。彼女を寝取られて敗北射精しても人生は続くのだ、悲しいことに。


「どなたでしょうか……」

「あ、あのさぁオタクくん……」

 インターホンの荒い音質でもわかる、こっちはビデオテープで散々そっちの声を聞いている。


「テメェ!!チャラ男!殺すぞ!!」

 寝取られ敗北射精には暗い夜の沼の中に身を投げ出すような淀んだ快感がある、たしかにあるが、それはそれとして寝取った奴をボコボコにした方が楽しいに決まってるんじゃねぇか、俺は咄嗟にUSBマウスを引っこ抜くと鎖鎌のようにぶんぶんと勢いよく回しながら玄関に向かっていく。


「どのツラ下げぇアァァァァァァ???????死ァ!??!?!」

 もはや言語の体を成していなかった、俺は下半身をむき出しにした一匹の獣だった。だが、その剥き出しになった野獣こそが俺を冷静にさせた。パンツ履いてねぇ。一度開けた扉を叩きつけるように閉める。言葉にすれば断絶を表すいい感じの行動だがパンツ履きに戻っただけなので、サマにならない。剥き出しの野獣が服を着たチワワになり、俺も若干落ち着いた。警察のお世話にならないように冷静に殺さなければならない。


「何の用だよ」

 服を着たチワワと一緒に、感情のポジションを直し俺は再び扉を開く。

 チャラ男の顔に寝取られビデオレターの中の快活さは無い、ひどくしょぼくれた……まるで雌ライオンに金玉を噛まれた雄ライオンのような顔をしている。

 ぶらりと力なく下がった両の手のその片方にはビデオテープが、そしてもう片方にはコンビニ袋が握られている。

 寝取られビデオレターの直接配送か?

「オタクくん……俺、お前から寝取った彼女を寝取られた……」

「受けすぎて受け杉謙信になった」

 心の中で俺は呵々大笑していた。

 別に愛の勝利とかではないし、誰が一番の敗者かで言えば負けたやつに負けた俺なんだけど、それはそれとして嫌なやつが負けるのは気分が良い。


「で、元々お前の彼女で元俺の彼女から寝取られビデオレターが届いたんだけど、ビデオデッキ無いから再生できないんだよ……オタクくんの家で上映会開こ……色々買ってきたからさ……」

「誰とでも仲良く出来る積極性を俺に発揮しようとするなよ」

 その積極性と大雑把なチンポで俺はお前に彼女寝取られてんだぞ。

 とは思ったが、俺はしばし考えた後にチャラ男を迎え入れることにした。

 チャラ男のしょぼくれたツラは餌を取られてショックを受けるモルモットぐらい愉快だし、又貸しされた彼女の寝取られビデオレターは俺にとっては知り合いの出ているAVぐらいのものだ。


「まぁ、上がれよ」

「ありがと……あ、こたつあるじゃん。お邪魔するね、みかん食って良い?」

「お前いきなりぐいぐい来んじゃねぇよ、あ、ドラッグストアでしか見ないタイプのコーラじゃん。チャラ男ってそういうコーラも飲むんだ」

 俺たちはこたつの上に宴の準備を整えた後、寝取られビデオレターの再生を開始した。

 思い出の中の彼女は鮮明なのに、実際の映像の中の彼女の画質は荒い。

 ラブホテルだろうか、筋肉で服がパツパツになった男と淫猥な服装の元カノが映っている。奇妙なことに俺の隣にカノの隣に元の字をつけたやつがいるというのに、そいつにとっても元カノなのだ。


『ええ、どうも。チャラ男さん見てますか。君の彼女は私が寝取ってしまいました』

『ごめんなさいチャラ男くん……♡でもね、彼のチンポはチャラ男くんのチンポより一回り大きくて……しかも虹色に光るの♡』


「「ちょっと待て!」」

 俺たちは全く同じタイミングで叫んだ。

 自然に手が一時停止ボタンに伸びる。


「光るって言ったか?」

「あ、やっぱ?俺の聞き間違いじゃなかったんだ」

「えっ、光るって……やっぱ真珠が埋め込まれてるみたいな……そういうキラメキ?」

「まぁ、そういうことか……いや虹色って言ったよな!?」

「比喩表現……?とりあえず続きを観ようか」

 俺たちは一旦疑問を飲み込み、再びビデオを再生する。


『そしてこれが私が大好きになった彼の光るチンポです』

 元カノが現在の彼氏のファスナーを下ろすと同時に、虹色の輝きを放つ性器がボロンと現れた。

 一時停止。


「光ってる……」

「マジじゃん……」

「えっ……すご……」

「マジで、えっ、光るチンポ……チンポって光んの……?」

「わかんないけど……SSRじゃん」

「あ、たしかに……ファスナー下ろして虹色の輝きが出てくるのSSR演出っぽいよね」

「えっ、チャラ男もソシャゲとかやるんだ」

「いや、やるよやるやる。今日日ゲームとかオタクくんだけのものじゃないしさぁ」

 画面で留まり続ける種付確定演出を見ながら、俺たちの話は不思議と弾んでいた。

 趣味も性格も全く違う俺たちだけど、この寝取られビデオレターの続きが見たい、その思いだけは共通していた。


 画面の中のSSRチンポがゲーミングのキラキラとした輝きを放ちながら、元カノに白濁色の種を蒔くところを見た俺たちは興奮を隠せずにいた。


「精液は普通の色なんだなぁ」

「っていうか逆になんでチンポだけが虹色なんだろね」

「そういう生物なのかな」

 俺たちが虹色に光るチンポに興奮を隠せないでいるところに、再びインターホンが鳴る。

 玄関に向かえば、先程まで虹色に光るチンポを俺たちに見せてくれた男が玄関に立っていた。

 鍛え上げられた筋肉、高い身長――そしてしょぼくれたツラ、そして右手にはビデオテープ。


「君、オタクくんさんですか?」

「あーっ!あーっ!」

「あ、お前!あっ!マジじゃん!マジで!」

 興奮を隠せない俺たちに対し、チンポが光る男は深々と頭を下げる。

「あっ!チャラ男くん……縁もゆかりもないのに彼女寝取った上に煽ってごめんなさい……」

「いいよ!いいよ!すっげぇーもん見れたし!あ、そうだ早く入りなよ!チンポ見せてよチンポ!」

「いえ、あの今日は彼女が寝取られまして……それでビデオデッキがこちらでレンタル出来るとのことでして」

「じゃ!上映会しよ!上映会!俺らもさっきまでアンタのセックス見てたとこだから」

「家主は俺だぞ~」

 そう言いながらもウキウキは止まらなかった。

 正直チンポが光る男の寝取られビデオレター自体はどうでもいいが、光るチンポ自体は生で見てみたい。そういう点で言えばチャラ男の積極性は望むところだった。


「いえ、そんな……私のチンポなんて……」

 玄関の扉が閉まる。

 それと同時に、チンポが光る男の股間から虹色の輝きがまろび出る。

 俺は思わず「おお」と感嘆の声を上げ、チャラ男は「なーむー」と拝んでみせた。そしてチンポが光る男は「恐縮です」と照れくさそうに頭をかく。


「チンポが光ってたら、銭湯とか大変じゃないですか?」

「やっぱり注目を集めちゃいますからね……行かないようにしています、サウナブームに興味はあるんですが……」

「じゃ、サウナ付いてる家族風呂知ってるから俺らで行こ!」

「でも私、あなたの彼女を……」

「ダイジョブ、ダイジョブ、俺もオタクくんの彼女を寝取ってっからさ」

「軽く言ってんじゃねぇよ、殺すぞ!」

 俺たちは軽口を叩きながら、ビデオデッキに寝取られビデオレターをセットし上映会の準備を整える。

 チンポが光る男には大変に申し訳ないことだが、もうここまで来ると俺にとっては全く関係のない話なので余裕で見ていられる。


『八時のニュースです』

「あれ、ビデオ間違えた?」

 ニュース映像が五秒ほど流れた後、ラブホテルらしき場所と二人の男女が映し出される。そりゃたしかに今日日新しいビデオテープは無いだろうけど、もう少し丁寧に上書きしてほしいと思う。


「グハハハハハ!!!シャイニングチンポマンよ!見ているか!貴様の女は儂が寝取ってしまったわ!!」

「ごめんなさい光るチンポくん……♡でも、彼ってチンポが二つ付いてるの♡」


「「「マジで!?」」」

 咄嗟にビデオを一時停止する。

 生で光るチンポを見た後でも流石に動揺を隠せなかった。

 チンポが光る男も、彼女が寝取られたことに対する以上の困惑の表情を見せている。


「チンポって二つ付いてる人いるんだ……」

「いや、さすがの俺も驚いたわ……すげぇ……」

 俺たちが言葉を交わす横で突如としてチンポが光る男が泣き崩れる。


「あああああああああああああああああああ!!!!勝てるわけがない!!!たかがチンポが光る程度で!!!!チンポが二つある男なんかに!!!!」

「まぁ、元気出せよ……アンタ、俺よりチンポでかいし、オタクくんよりもっとデカいからさ。ほら、オタクみんなにチンポ見せてやれよ、この場でチンポ録画してないのお前だけだぞ」

 チンポを見せる気は欠片もなかったが、チンポが光る男があまりにも哀れだったので、俺はファスナーを下ろして自分の息子を見せてやった。


「「ウケる」」

「うるせぇよ!不貞した割に寝取られやがった奴らがよ!」

 怒りに任せて、映像を再開する。


『これが今私の一番愛おしいオチンポ様です♡』

 元カノが男のズボンを勢いよく下ろすと、二本の男根が縦に並んで屹立している。


「「「すっげー!!」」」

 チンポが光る男も先程までの嘲笑も屈辱もすっかりと忘れて、ビデオテープで録画された人体の神秘に夢中になっている。

 俺たちは二つの男根が二つの穴ではなく、敢えてのダブルぶっかけフィニッシュを遂げるところまでビデオを見終えると、ただただ性的なものではない興奮に話を弾ませていた。


「いや、やっぱ人体の神秘だわ……」

「なんだかコロコロを読んでいた頃の純粋な少年心を思い出しますね」

「正直映像が無修正であることに感謝したの、このビデオが一番かもしれないな……」

 この勢いのまま、三人でどこか遊びに行こうか――そのように話がまとまりかけた時、再びインターホンが鳴った。


「オタクくん殿の邸宅はこちらか……?ビデオデッキを借りれると聞いたのだが」

「どうぞどうぞ上がってってください!」

 玄関には期待通りの男がしょぼくれた顔でビデオテープを持って立っていた。俺たちは前置きも抜きに家に招き入れる。

 

「あ……オヌシはシャイニングチンポマン……うぬの彼女を寝取って悪かったのう……」

「いえ!あんな凄いもん見せてくれたんだから、チャラです!いや、それよりも見せてくださいよダブルチンポ!」

「あ、見たい!見たい!」

「俺も見せてほしいです!」

 チンポが二つある男は若干躊躇していたようだが、覚悟を決めると股間の二匹の龍を室内に召喚した。いや、それだけではない……画質の粗さ故に気づけなかったが、男の金玉には『双竜』の痣がある。


「その痣は……?」

「これは我が一族に代々伝わるこの特異なる身体を持つものの証よ」

「そういう一族なんだぁ……」

「あっ!ところで貴方は銭湯とか行かれてるんですか?」

「我が身体に恥ずべき部分は何もない……そう言わせてもらおうか」

「「「おお……」」」

 二つのチンポを持つ男の堂々たる声に、俺たちは思わず嘆声を漏らした。

 

「やっぱり私にはそのような度胸が足りなかったんでしょうか……」

「いや、人の彼女を寝取る時点で度胸はあると思うし大丈夫っしょ!それよりビデオ観ようぜ!」


 俺たち四人はこたつに入り、寝取られビデオレターの再生を開始する。

 二つのチンポを持つ男から寝取った男――信じられないようなものが見られるに違いない。


『ごめんなさい貴方ぁ……♡私ぃ……♡貴方の二つのチンポよりも……♡女の子の一番気持ち良いトコロを知ってるぅ……♡女の子に夢中でーす♡』

『そーそー、やっぱり女の子のことは女の子が一番……えっ、二つのチン……比喩表現?』

『というわけで今から私がぐっちょり寝取られるところをたっぷり見ていってね♡』

 そして始まる女性同士の性行為、俺たち四人は声も出さずに静かに股間を屹立させながら見守っていた。


「……あー」

「いいもん見たな」

「見ましたね」

「……叡痴であった」

 映像を見終わった俺たちは、語るべき言葉を持たなかった。


「この時間でもやってる飲み屋、俺知ってるよ」

 しばらくの沈黙の後、チャラ男が立ち上がって言った。


「行きましょうか」

 チャラ男についで、チンポが光る男が立ち上がる。


「やらいでか」

 双竜もまた、どっしりと立ち上がる。


「ま、しょうがねぇな……!」

 今日出会った新たなる友との出会いに感謝し、俺も立ち上がる。


 その時、インターホンが鳴った。


「ごめんオタクく~ん!彼女が寝取られちゃってぇ~!」

 今日散々に聞いた、彼女の声だ。


「あー…………」

 俺の中の感情の天秤が複雑に揺れ動き、そして言った。


「これから四人で飲むんだけど、行く?」


【終わり】

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