第4話特別講師
教室に入れば、そこはライバルたちのギスギスとした世界だ。愛美は特に、他の女子から妬まれ、仲良くできそうな人はいない。
誰とも挨拶することなく、自分の席に着く。
いつもこんな感じだ。
愛美以外のクラスメイトたちは、仲良く仲間と「今日、結果楽しみだね」などと、楽しそうに話している。
自分にはそれができない。
馴れ合うつもりもないし、無理して仲良くしたら、足の引っ張り合いになりそうだ。
そんなことを考えながら、一人過ごしていると、ようやくホームルームが始まるチャイムが教室に響いた。
「それでは、ミュージカル「アリア」の主役発表していこうと思いますが、その前に、脚本を書いてくださった夏目さんにお越しいただきましたので、お話してもらおうと思います」
授業の冒頭で担任から紹介を受けた夏目は、この大学の卒業生である。プロの脚本家として活動しているが、大学の講師として、招かれているため、大学にもよく顔を出していた。
「ただいま紹介にあずかりました、夏目です。今回のキャスティングは僕も携わらせていただきました」
夏目という名前は脚本を執筆名で、本名は誰も知らない。プロだから、野暮なことを聞く生徒もいなかった。
夏目は優しそうな雰囲気で、眼鏡をかけている。少し襟足を長くした髪も、清潔感があり、そこに色香にも感じる生徒が多いだろう。
愛美はよく校内にある教会へ立ち寄ると、夏目がいることが多々あり、次第に仲良くなっていた。
大した話をしているわけでもない。
最近観た舞台の話しや、夏目の携わる舞台の話。たまには本の話もする。
そんな些細な時間が心地よくて愛美は教会へ向かう。
しかし、そんなことを話して仕舞えば、きっと皆、コネだのなんだのとつぶやくだろう。愛美は夏目とのことを誰にも話すことはなかった。
「それでは、まず、メイン以外のキャストから」
そう、このミュージカルは舞台科全員ではなく、選ばれた人しか演じることを許されていない。
特別なミュージカルなのだ。
一般のお客様を呼び、プロのようなセットで演技ができる、プロを目指すこの大学の一番の大舞台だ。
それがきっかけで、学生のうちからプロから声がかかり、舞台で活躍する人も稀にいる。
そして、ファンになる人もこの舞台から、売れる前の役者を見つけて応援することもあり、この舞台に出演できる実力ある役者の卵とみんな認めるほどの大切なミュージカルとなるのだ。
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