第3話幼馴染と学校の友達

瑛太は気を取り直したように、愛美に話しかける。


「今日、またカヤちゃんの様子見に行くのか?」


洗顔をしながら、顔をあげた愛美は、少し悲しそうな表情を浮かべる自分を見つめた。


「いくよ。最近、容態良くないの」


愛美も、気を取り直して髪を結い上げ、洗面台を出た。


「そっか、また、美奈瀬に会ったらよろしく伝えといて」


美奈瀬は瑛太の彼女だ。

警察官と看護師のカップルはなかなか忙しくて互いに会う時間が取りにくいのだ。


それで、幼馴染が入院しているため、お見舞いにいく愛美が、よく二人の言付けを頼まれたりする。


「了解、行ってきます」


「はい!行ってらっしゃい」


瑛太は愛美を見送ると、真剣な眼差しに変わり、リビングへと戻っていった。



電車に揺られる愛美は憂鬱な表情で、満員電車に身を委ねていた。


ドアにもたれて、ドアの窓に映ってしまう自分の姿に、ため息が出る。


なんて、酷い表情だろう。

原因は分かっている。


瑛太には話していないが、オーディションは終わって、今日、結果が出るんだ。


しかし、自分の実力を出し切れたとは言えない。


練習中にドレスで足元が見えない中、足を引っ掛けられたり陰湿なものが多く、ミスが目立つのは自分だけという先生の印象を与えてしまう。


打破する方法が今の自分には見つからない。

無力な自分が、情けなくてもっといやになる。


そんなことを、考えていると自然と降りる駅に到着して、いやでも一番に電車を出ていった。



「愛美、おはよ」


学校の門をくぐると、優香が愛美の肩を叩き、隣を歩く。


「優香、おはよ。今日は遅いね、練習ないの?」


優香は芸術大学の音楽科に通っていた。愛美とは、試験のときに、隣同士になり、仲良くなった。この学校で、唯一の愛美の友達だ。


しかし、音楽科は忙しく、いつも朝練で早い時間に学校へ登校している。


「私、念願の指揮者の方へ行けそうでさ、今日はそれのお話があるから、楽器の練習はないの」


「凄いじゃない!優香、ちゃんと目標通りに進んでる。いいなぁ、おめでとう!」


優香は成績もよく、他の科でも知っている人が多い。明るく、社交的で、愛美には羨ましくも、こうして仲良く出来ることを誇らしく感じていた。


「愛美だって、今日でしょ?ミュージカルの主役決まるの。結果出たら教えてよね」


「うん、わかった」


そういう愛美は自信なさげに頷いた。


「愛美なら大丈夫だよ、歌も上手いし、演技はまだみたことないけど、顔も綺麗だし、主役になれる要素はたくさんある」


優香は明るくそういうと、他の友人に話しかけられ、「じゃあ、またね」といって、他の友人のほうへ行ってしまった。

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