第37話 滅んだ王国の子ども
「女王陛下は私たち姉妹のことを
「何処までって…どこまでこの場で言っていいのかしら……?」
周りで突っ立って固まっている男子らを見て女王が戸惑う。
「隠してもいずれ話すことになる。もう全部どうでもよくなってきちゃいました……」
と乾いた笑いをするエレン。
その後に発された言葉にルーク達は耳を疑った。
「エレンちゃんもレオナちゃんも、ここではない別の惑星にある研究所に囚われていて……エレンちゃんは『ヴィルジール』という人の人体実験に使われた"実験体"だった」
「「「実験体……!?」」」
男子三人は各々動揺しざわめいた。
エレンはその反応を嫌がるように目を伏せた。
「その研究所に連れてこられる前は確か──────」
女王は考える仕草をした。
「たしか二人は────ルミエール王国の『王女』だった」
「「「王女っ!?」」」
再び男子ズの声が重なる。エレンの肩がびくりと震える。
「ちょっと待って頭が追いつかないよ」とアシュレイが澄んだ蒼い目を右往左往させる。
「だから任命式の時、一人だけ大勢の観客前に平気な顔してたのか」とルーク。
「緊張はしてたよ!けどむしろ懐かしい気がしてたんだよね……」とエレン。
「王女なら私はそのなんとか王国の王女だって言えばチヤホヤされてたかもなのに」とラティ。
「ルミエール王国ね。由緒ある家柄でこの今居る王国よりもはるか昔からある、世界で最も古いとされる王国よ」と女王。
「実験の影響で過去の記憶が断片的で、自分が王女だって思える思い出が無いの。
……それに今は私は"一市民"なのよ」と嘆くエレン。
彼女の水色のリボンの髪飾りや首元の青いネックレスが一際強く寂しさを示していた。
静まり返るその場。曖昧な彼女の記憶。
そんな中、とある家来の話し声が聞こえてきた。
「
「分かんないけど、二人とも女のくせに強い魔力持ってるし、何かヤバい能力でも有るんじゃない?レオナさんの事もあるし、エレンさんも病気を流行らせるとか……」
「うわ、ありそー。あの人あんまり笑わないし何考えてるか分かんないからねー。レオナさんは赤い髪で炎みたいだし、血の魔女って感じ。
例えるなら、"真っ赤な毒リンゴ!!"」
「それなー!めっちゃピッタリなあだ名
長い長い廊下伝いに響き渡る噂話。
一同が眉を顰める。
──────"女のくせに"──────
「ッ……」
棘のある話を間接的に聞くのに耐えかねたエレンは従者たちの声とは反対側に駆け出した。
「えっおっ、ちょっと!!」
ラティは咄嗟に手を伸ばしたが引き止めることは出来なかった。
「エレン!」
アシュレイとラティも其方へ走っていった。
残るルークと女王。
「行かないの?」と女王。
「別に、追いかけるような仲じゃないですし……」と目をそらすルーク。
「エレンが実験体だったってどういう事ですか」
「それは本人の口から聞いてちょうだい」
「ですよね……すみません」
しばらくして女王が口を開く。
「彼女は魔力の気配を消すのがとても上手だわ。でも今は、ほら向こうへオーラが残っている。追おうと思えば追えるわ」
陛下は彼女が走っていった方を指して言葉を続けた。
「あの子は貴方たちにも自分のことを話してくれると思うわ。それに光術の派生の基礎五術を網羅するシエルの卵は
良き理解者になってくれるはずよ」
「……」
ルークは黙りこくったままだった。
「私はもう行くわ。あの
……あ、王宮の書室は闘技場の鍵と同じだから、自由に出入りして構わないからね。
ルークくんは本が好きみたいだから」
と、女王は本が入った彼の学生鞄を見やった。
「……お気遣いありがとうございます。……俺も追います。お忙しい中突然お邪魔してしまってすみませんでした」
ルークは深々とお辞儀した。
「いいのいいの!むしろ来てくれて嬉しかったわ。私の話し相手いないんだもの。夫が亡くなってからチェスの対戦相手も居ないし。
……今度チェスの相手お願いしても宜しいかしら?ハーブティーも用意しておくわよ」
女王殿下は目をキラキラさせて言った。
「はは…じゃあ今度伺いますね」
ルークがもう一度礼をし、別れた。
目には見えないけれどルークの魔力が強い分
、同じ魔力の強いエレンのオーラが天の川のようにキラキラと輝いて向こうへ続いていた。
初めて感じる彼女の魔力。
強いから勝手にオーラも威圧的なものだと思っていたが実際は儚く頼りなさげな
ほのかに月が顔を出す空の下、城を飛び出し追うルーク。暫くしてラティとアシュレイに追いつく。
「ルーク!」
乱れた呼吸を整えながら顔を上げる。
そこにはごく普通の一軒家。
────エレンの家か…?
ラティを見やると既に家のチャイムを鳴らしていた。
────ピンポーン……
ガチャリと戸を開けて出てきたのは琥珀色の髪の青年。
「
制服姿の三人を見て目を丸くする青年。
「んーと、エレンの兄ですか?」
と不躾に聞くラティ。
「そうですよ、
とその青年─────衣吹は優しい物腰で言った。
どことなく女王様の雰囲気に似ていた。
するとコツンというローファーのヒールの音と共にエレンが屋根からふわりと制服のスカートを靡かせて着地した。
「あ、エレンおかえりなさい」と何事も無かったかのように衣吹が言う。
泣き腫らした目を逸らし、気まずそうに、でもはっきりとした声で言った。
「家の中で、全部話すから」
衣吹を含めた五人はリビングの椅子に座った。
先に四聖星を座らせ、席が足りないことに気付いた衣吹がキッチンの方からゴトゴトと折りたたみ椅子を持ってきた。
「えっ、俺たちが立ちますよ」とルークが立ち上がるも「いいのいいの」となだめる衣吹。
エレンは静かに落ち着いた口調で
思い出せる限りの故郷の王宮での姉妹の思い出も、エレンが
エレンの話が終わり、雑談をしばらく交わした後に三人は各家庭へと帰っていった。
仲間の背中が見えなくなるまで衣吹とエレンは手を振り、開けた玄関のドアを閉めた。
「驚いてはいたけれど、拒絶するような人じゃなくて良かったね」と言う衣吹に小さく頷くエレン。
全て打ち明けたことで肩の荷がおり、一息ついてエレンが自室に戻ろうとしたその時、視界がグラリと揺れた。
「ッ!ゲホッゴホッ」
咄嗟に体内から込み上げてくるものを手で受け止めた。
恐る恐る手を口元から離す。
エレンの白く艶のある手指の間から、どろりと赤黒い血がしたたり落ちていった。
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