都市巡り

第31話 ピュルテの丘

週末、朝早くから四聖星シエル四人は首都であるスぺクタルフェリックに集合した。




ラティが集合場所に着いた時には既に他三人が居た。


時は五月の上旬。少し風が冷たいと思う頃。


ラティは袖に英字のロゴがプリントされた緑色のパーカーにデニムジーンズ、ルークは白のワイシャツに灰色のズボンを合わせ、茶色のカーディガンを羽織っていた。


アシュレイはココア色のセーターに蜂蜜色のズボンで紺色の薄手のコート。

エレンは白の袖がくしゅっと縮まったデザインの上衣にスカート型になったオーバーオールを着て、ルークのカーディガンに似たベージュ系の上着を着用していた。






「全員いるね?ではではレッツゴー!最初どこ行く?近い所だとピュルテだな、アシュレイの地元!」


ラティに背中を押されて前に強制的に立たされたアシュレイを先頭に一行はピュルテへ向かう。





ピュルテに近づく度に家は減り自然物が増え、彼らは木々に囲まれた一本道を進んだ。



15分ほど歩くと森の中にある集落が見えてきた。

こじんまりとしたログハウスが建ち並び、集落の中央には樹齢千年を越えているであろう太い巨木が佇んでいる。

足元には木の葉の影がさわさわと揺れ、オレンジ色の光を放つランタンが掛かる木々からは小鳥の歌う声が聞こえてくる。

奥では小さい子供たちが木登りをしたり木の枝に座って遠くを眺めていた。



「初めて来たけど、すごく素敵な場所だね」

とエレン。

ラティも「落ち着く感じだな」と首を縦に振った。



すると、「あ、アレクだぁ!」と上の方から声が降ってきた。

一行が見上げるとツリーハウスらしきものがあり、そこからひょいひょいっと軽い身のこなしで男の子が木の枝を上手に飛び移りながら降りてきた。


「あ、ラルム!この子は僕の家の隣に住んでるんだ」とアシュレイ。


────この子には彼はアレクと呼ばれているらしい。


「ラルムです。初めまして、四聖星シエル様。」

と男の子──ラルムはエレン達にぺこりとお辞儀をした。


「シエルって呼ばれるのまだ慣れないな……普通に名前で呼んでいいよ」

とラティが笑った。







ラルムと一行は別れ、四聖星のみ立ち入ることが許可される神聖な場所、"ピュルテの丘"へ向かった。



しばらく進むと次第に斜面の傾きが急になってきた。

丘と言っても思っていたよりも高く、行くまでの斜面には木材の階段が続いている。


アシュレイがその階段の始まりに足を置こうとすると草のつたとおせんぼするように絡まってきた。



「僕らは四聖星です!通させて」

とアシュレイが言うと、蔦は彼のポケットを指さすように伸びてきた。


「ポケット?……あ、こないだ貰った鍵?」


アシュレイがポケットから以前女王様に貰った、ピュルテの丘に咲く花をモチーフにした四聖星専用の闘技場の鍵を取り出す。


はい、とアシュレイが蔦に鍵を差し出し、蔦がその鍵に触れた途端に、奥まで続く木の階段の両脇にドミノのように連続的にぽぽぽっと色とりどりの花が咲いた。

その様子はまるで結婚式のバージンロードのような華やかさがあった。


「わぁ……!」


四人は驚いて立ち尽くす。通せんぼしていた蔦も花に変わった。

「四聖星しか入れないってそういう事だったんだ」





階段を進み、頂上が近くなった頃、エレンがふと周りの芝生に点々と光るものがあるのに気付いた。


上を見ると丘周辺だけが淡く雲がピンクがかった夕焼けになっている。

時計を見てもまだ午前八時半過ぎ。

さっきも同じような時刻だった。どうやらこの丘は時間が経つのが遅いのかもしれない。


光る点々にアシュレイも気付き、

「もしや、これが……?」

と呟く。


「これって?」とラティが訊く。


「村の言い伝えで、ピュルテの丘には幻の花が咲いているって聞いたんだ。頂上にある大樹を越えた先にはその花が沢山あるんだって。早く行ってみよう!」

と頂上を指差すアシュレイの目もキラキラしていた。

四人は早足で頂上を目指した。






「……着いた……!!」


ふぅと汗を拭って目を開けると辺り一面に百合のような形の"それ"が咲いていた。


五枚の純白な花弁の周りにポワっと光が生まれてはフッと消え、まるで蛍のように辺り一面が暖かな光に満ちていた。

まるで花のカーペットのようにその"淡光花たんこうか"は遥か向こうの地平線まで咲き誇り、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐった。花自体も、それから放たれる小さい玉も淡く発光していた。


四人の口から自然と感嘆の息が漏れる。

「綺麗……」


四人がそれぞれ視線で光を追いかけ、まるで夢のような幻想的な空間に浸っていた。




「ねえ、皆には光が何色に見える?」

とアシュレイが噂を確かめるために訊いた。


「え、オレンジ色?」とラティが言い、

「同じく」とルークとアシュレイが言う。



すると、エレンだけ他の回答を言った。

「私には、虹色にも白色にも見えるけど……」


目を見合わせる男性陣と、一人だけ違う視覚に戸惑うエレン。


「虹色に光ったと思ったら、急にたんぽぽの綿毛みたいに白色になって消える……」


それを聞いてムッとした表情を浮かべるルーク。


「虹色に見えるのはいいなぁ、僕にもそう見えたらなぁ」

と言うアシュレイ。



「オレンジ色も夕日を凝縮したみたいで綺麗だぜ。空の色ともよく合ってる」

とラティ。


「人によって色が変わって見える噂は本物だったんだ」というアシュレイに、


「こいつが居なきゃ本当の事だって分からなかった」

とルークがエレンを指差して言った。


「私も夕日色の光見たかった……」とエレンがぼそっと言った。






四人はそれぞれ視える色で、時間を忘れて花々と光のカーペットと夕暮れに包まれた空間を楽しんでいた。




ラティの「そろそろ次の都市も行くか」の言葉で他三人も現実に引き戻された。


「四聖星になれて良かった」とアシュレイは満足気に微笑んだ。


「そうだな、本で文だけ読んだけど、これ程綺麗だとは思ってなかった」とルーク。



「じゃ、次ここから近いのはルークが住むゼフィールだな」とラティが言い、一行は丘を降りた。

一段一段降りるうちに、シャラ…と音を立て花びらが舞った。


後ろを振り返るともう淡光花は見えず、花弁だけがアシュレイ達を見送るように吹き抜けて行った。

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