第30話 こいつ置いて3人で行こうか

アシュレイの手から離れたタルトが、食べ終わったスパゲティの皿に落ちてカランッと鳴った。


「っ!……す、すみません」


彼の周辺に座って食事をしている貴婦人たちが一斉にこちらを向き、彼は謝りながら小さくなった。





ルークの方を見やるともう彼はこちらを睨んではいなかった。


─────なんなの……


アシュレイは内心不服気味にティーカップの中のオリジナルブレンド紅茶をこくりと飲んだ。






食事会も終わり、任命式は閉会した。

招待客もそれぞれほほほと笑いながら別れを告げていた。



四聖星シエルは女王様に会場に残るよう言われ、貴婦人や紳士がお帰りになったのを確認した後に、女王様から四人に一つずつ鍵を渡された。


それぞれマントにつけてもらった都市バッジと同じ柄の鍵だった。

このアンヴァンシーブル城から徒歩圏内にある、昨日のエスペランスバトルを行った闘技場の鍵らしい。


「魔法の腕を磨きたい時にいつでも使ってどうぞ」


と女王様が仰った。





無事に式も終わり厳かな雰囲気から解放され、四人はそれぞれ小部屋で行きに着てきた服に着替え直して女王様と別れた。


外に出た四人はそれぞれ伸びをした。


四人の手には四聖星の式典服とマントが入ったレザー調のトランクがある。

これも四聖星に支給されるもので、トランクの取っ手部分に付いた革のタグには各都市の紋様が刻まれている。



「はぁー、めっちゃ疲れたぁー!」

とわざとらしく溜息をつくラティ。


ルークが腕時計を見て、

「もうすぐで一時半くらいか……」

と呟く。


ラティが「うぉっその時計カッケー!」

と言いながらルークにずいっと近寄り、ルークが見るからに嫌そうな表情に変わる。



ルークは背が高くてすらっとしている。ラティはエレンより少しだけ背が高く、でもまだ発展途上のようだ。

ルークがラティを見る時は自然と上から目線になる。アシュレイはルークほど高くは無いが、クラスの平均で言えば高い方だった。


つまり、今の四聖星を背の高い順で言うと、ルーク、アシュレイ、ラティ、エレンとなる。




「さっきのメシ、少なくなかった?

あまりガツガツ食べれそうな雰囲気でもなかったし……オレ、ラーメン食べたいんだけど、今から中華屋食べに行かね?おすすめの店あるから」


とラティが提案した。


「食べるとしたら俺は塩」とルーク。

「え、うーん、じゃあチャーハンかなぁ」とアシュレイ。


ラティが「エレンは」と訊いた。

「私普段からそんな食べないから今お腹空いてないんだけど……じゃあ杏仁豆腐だけ」

とエレンが答えた。




「じゃあ今から行こう」と、ラティはにんまり笑顔でルークを見る。


「ん、何、早く行けよ」とルーク。


「え、調べてよ」とラティが何食わぬ顔で言う。


「何を」ルークの眉間にシワが寄る。


「今から行く店を」



「さっきオススメの店あるとか言ってなかったか」






ラティが手を後ろに回して言った。

「今考えたら今日定休日だったなーって」





アシュレイはラティを『失礼な人だな』と思った。

同時刻、エレンもラティを『なにこの男子』

と思っていた。

そしてルークもラティを『コイツ……』と、同じ感情を抱いていた。






ルークがキレ気味に言った。

「こいつ置いて3人で行こうか」



「え」と声を出すラティを横目にルークは黒いカバーがつけられたスマートフォンで

『近くの中華屋』

と調べ出した。


「あ、こっちにある」というなりラティには目もくれず歩き出した。





アシュレイとエレンはその様子を見て少々不安になった。







ルークのスマートフォンに内蔵された地図機能を使って着いた店は見るからに"地球"の中の"中国"のような雰囲気をまとっていた。



店の前には種類が豊富なメニューの置き看板がある。



「どれにしようかなー、味噌ラーメン?あっ、豚骨もいいな~」

と三人の後ろを付いてきたラティが食い気味にメニューを見ている。



そんなラティを無視してルークは店の戸を開けた。戸の上に付いたベルがチリンと鳴る。


「いらっしゃいませー」

と中からエプロンと三角巾を身につけた店員が出てきた。




四聖星の四人を見るとぱあっと笑顔になり、

「四名様ですね、あちらの席へどうぞ!」

と奥の四人席へ案内してくれた。






席に着く前にとある親子を見かけ、エレンはその小さい女の子と目が合った。


「シエルの人だぁ!」

とその子に言われ、エレンは小さく手を振った。


親が後ろを向き、エレンに気づいた。

「わわっエレン様!!」

エレンと親は互いに軽く会釈した。



すると「こちらの席になります」という店員の声と同時に、エレンの前を歩いていたルークが急に立ち止まった為、よそ見していたエレンはルークの背中にドンッとぶつかった。


「わぶっっ!!」



────鼻折れるかと思った……



顔を歪め鼻をさする彼女を気にすることなくルークは何事も無かったようにスっと席に着く。






席に着いた四人は注文をし終えると会話を始めた。といっても半分はラティの独り言だ。



四人の学年をラティが確認し、ルークは中学三年生、アシュレイは中学二年生、ラティとエレンは中学一年生だと分かった。


途中、アシュレイがラティの1個上だと聞いた時、

「あ、そうなんだ!気弱そうだから会ったことない同級生だと思ってた」


とラティが無神経なことを言い、アシュレイを笑顔で怒らせた事は言うまでもない。





ラティにエレンが小学二年生の時に転校してきた時に、四聖星の卵だと判明し、他クラスでも噂になっていたことを言われ、エレンは狼狽えた。


──────何処の街から来たのって訊かれたらどう答えよう。宇宙泳いで来ましたなんて言えるはずがない……


というエレンの杞憂も、ラティの「あ、話変わるけど」で無駄に終わった。






話はラティのせいでころころ転換し、週末の予定の話になった。


「オレ、アストル出身なんだけどさ、ピュルテとゼフィール行ったことないんだよね」

とラティがアシュレイをチラチラ見ながら言う。




「何、僕に『連れてけ』って言いたいの?」

と睨むアシュレイ。




「ピュルテは行ったことないだけだけど、ゼフィールは空中に島が浮かんでるから、風術使える人じゃないと行けないんだよね~。

オレ、雷と炎しか使えないからさ~」


とラティは隣の椅子に座って本を読んでいるゼフィール出身のルークに言った。


ルークは無言を貫いていた。



「エレンとルークは四聖星の卵だろ?

アシュレイは何術が使えたっけ?」

とラティが尋ねる。



アシュレイが分かりやすく目の奥を揺らした。やや間があって彼が口を開き、口を尖らせて呟く。

「緑術と…………風術……」



「え!じゃあ」とラティが何か言い出す前に「お待たせしました~」と店員がそれぞれの頼んだ料理を運んできた。




そしてラティを除く他三人は「「「いただきます」」」と早々と食べ始めた。



「……いただきます」とラティも食べ始めた。



ラティが一番食べ終わるのが早かった。スープを飲み干し、ラーメンの皿をテーブルに置くとパンッと両手を合わせて、


「ご馳走様でした!」


と満面の笑みで言った。



ラティがアシュレイを見つめて、

「風術使えるなら連れてってくれない?」と言い、アシュレイが思わずむせた。




アシュレイが何か言い出す前にラティがすかさず

「え、OK?やった!アシュレイありがとう!!」

と言い、アシュレイはもう何も言わずに呆れ笑いをしていた。



「ついでにエレンとルークもどう?」


「「ついでに・・・・?」」

ルークとエレンの声が重なった。


「えっあっなんかすみません……」

しゅるしゅるとラティが小さくなった。





結局、次の週末に四人でそれぞれの出身の四都市を巡る事になった。

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