第29話 絢爛たる食事会

女王様に四聖星マントを貰い、正式に四聖星シエルになった後は招待客や女王様と一緒に同じ会場で豪華な昼御飯を頂いた。






煌びやかな刺繍が施された布が掛けられた長テーブルのちょうど中間地点に一際豪華に彫刻された玉座ぎょくざがあり、その席に女王様が丁寧に座る。


女王様の右にエレン、左にルーク、エレンの前にアシュレイ、ルークの前にラティが案内された。

女王様の、テーブルを挟んだ目の前にも同じような玉座があったが、そこには誰も座ることは無かった。




四聖星と女王様が席に着いたのを確認すると執事のように畏まった正装の執事のような見た目の家来が、凡人とは縁遠い高級食材を使った食事を次々と運んできた。






エレンが女王様の前の席は国王陛下、すなわち女王様の旦那の席だと悟ったが、なぜ国王が居ないのかを知らなかった。


エレンは前に座っているアシュレイに視線だけでその席に座るべき人の事を訊ねようとした。

アシュレイは最初彼女の目線の意味が分からなったが、『読心』の異能を使って理解し、


────ああ!そういうことか。


とでも言うように頷いた。


だがしかし、彼は国王が今いない真相を女王様の前で伝える勇気も手段も持ち合わせていなかった。



アシュレイがおろおろしていると、急に女王様がぽつりと呟いた。



「亡くなったんですよ」



エレンもアシュレイも、自分達が聞こうと(伝えようと)していた事が女王様にバレていた事に内心肝を冷やした。



「ちょうど今から五年前。前の四聖星が正式に四聖星となった数ヵ月後に。

原因不明の病気が流行ってしまって、私の旦那も亡くなってしまった」



女王様が小声で目を伏せがちに言った。

エレンとアシュレイの様子に気付いたルークも女王様の話をちらっと聞いていた。



「す、すみませんでした……」



エレンとアシュレイがしおれた花のように縮こまった。


「いいのよ、別に。さっ!私達も食事を頂きましょ」




二人は素直にその号令に従った。






淡い花の模様の皿に乗っている、キャビアあえバジルスパゲティはとても上品な味で美味しかった。

ティーカップには紅茶が注がれており、花の形のレモンの輪切りがぷかぷか浮いて香りを漂わせている。


テーブルには一人ずつに出されたメニューの他にスイーツや花々が中央レーンに『御自由にどうぞ』と書かれたメモと共に置いてある。




複数の種類のカトラリーを使う順番に戸惑っていたラティはアシュレイに小声で使い方を尋ねていた。


他3人がぎこちなくカトラリーを操り料理を口に入れるのを横目に、エレンは慣れた手つきで料理を食べていた。




アシュレイがその様子を見ていると、エレンと目が合った。




────いつなのかは覚えていないけど、前に誰かに教えてもらったの。



異能を使ってエレンの意思を読んだアシュレイは、眉を上げて驚いた顔を彼女に見せた。




エレンはアシュレイとの間に置かれたスイーツ類へ手を伸ばした。

一番手前にあるいちごのタルトを取り食べた。

内部にクリームがたっぷりと絞られ、その周りをいちごが囲み、巻いたチョコレートの細い筒がチョコプレートと共にあしらわれている。


彼女はそれを一口かじった。

上に振りかけられていた金箔がふわりと落ち、口に入れたクリームの中からはとろ~っとキャラメルや細かく切られたいちごのドライフルーツや苺ソースが出てきて口の中を幸せで満たした。


エレンは想像以上の美味しさに手を頬に当ててうっとりした。





嬉しそうに食べるエレンを見て、アシュレイも思わず頬を緩ませた。


「僕も食べちゃお」


アシュレイが頬を緩ませたまま同じタルトを手に取った。

「あーん……」


アシュレイがエレンと同じ幸せに満ちた表情になる。





ふと視線を感じ、アシュレイは斜め前を向く。

ルークが彼をじっ…と湿っぽい目で見ていた。




アシュレイはぎょっとして手からタルトを落としてしまった。


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