第27話 いよいよ憧れへ②

「エレン・シャルム、ルーク・フォルス、ラティ・オラージュ、アシュレイ・トーネソル、貴方達を第五十代四聖星に任命します」


女王様がはっきりとした声でそう言い、何処からか優雅な音楽が流れてきた。





───四聖星は五年ごとに変わるし、任命式の会場の様子はリアルタイムでテレビを通じて放送されるから、その時の映像を何回も家で見て練習したから流れはバッチリなはず…


アシュレイは前回の任命式ダイジェスト版映像の様子を思い出しながら唾を飲み込んだ。




四聖星の四人は女王様の前でひざまずいた。招待客の視線がステージに集まる。アシュレイの手には緊張で汗が滲んでいた。







女王様の後ろの舞台袖から家来が出てきて白いマントを素早く女王様に渡した。


───四聖星しか羽織ることの出来ないマントだ。



そのマントは通常白い生地の方を外側に向けて着る。というのもそのマントはリバーシブルで着ることが出来るのだ。

”表”は白く、折り返した襟が黒い。右の胸元に紺色のリボンと四聖星バッジを付ける金具がある。

そのマントを裏返すと、黒生地に白い襟。まるで”表”が反転したかのような配色になっている。黒生地の方にも紺色のリボンと金具があった。





そのマントを女王様が順に四人に掛けた。

パーカーの紐のようにマントの襟元から出た赤色の紐のループタイを、金色のホームベース型の金具にはめ込まれた緑輝石エメラルドが真ん中に来るように結んでもらう。



そして四人が護るそれぞれの都市のバッジを、各々の胸元のリボンに付けられた金具にカチッと快い音を立てて四聖星バッジと一緒につけられた。


────ほ、本物のバッジだ……!


跪いたまま前を向かなければならないのに自然と視線がバッジの方へ向いてしまう。





四聖星バッジは四聖星全員が胸元につける証を指す。銀色の歯車に太陽が輝くデザインでとてもかっこいい。会場の照明の光を反射して光っている。




続いて四聖星バッジの下に繋げて付けられた都市バッジは各四聖星が守り神となる場所の都市章のことを指す。


エレンが付けてもらったスぺクタル・フェリックの証は六つの花弁を持つ花の枠の形で、各花弁の枠が赤・黄・黄緑・緑・水色・青の色になっている。

花の雌しべ雄しべのある中心部には雪の結晶のような模様があり、それも六色になっていた。


────あのカラフルなデザインは、街の十人十色な個性を表しているって5年前の任命式の番組でアナウンサーが言ってたっけ。



ルークが付けてもらったゼフィールのバッジは紫色アメジストの、両端が尖った回転楕円体に翼が生えたデザインだ。これはゼフィールの移動手段として遣われているドラゴンがモチーフになっている。


ラティが付けてもらったアストルの証は、人工知能や電子技術が発達したその都市を白と水色の六芒星ろくぼうせい型で表している。大きい白と水色の六芒星の中にまた小さい青色の六芒星がある。


そしてアシュレイの胸元に付けられたピュルテのバッジは『ピュルテの丘』に咲く、百合ゆりのような五つの花弁を持つ花をモチーフとしていた。ピュルテの花は昼でも夜でも淡く光ることから"淡光花たんこうか"とも呼ばれている。

見る人によって暖色の光か寒色の光かに変わるという噂話もあるが真相は不明である。

バッジは花が淡いピンク色で縁取られ、水色の菱形の飾りが各花弁に埋め込まれている。




女王様がバッジを四人に付け終わると小声で

「お客様の方を向いて」と言った。

四人がステージに一直線に並ぶと、目の前に並ぶ招待客達は皆笑顔になって拍手をしてくれた。

会場の両端にいるメディア班は大小様々なカメラでフラッシュを炊いて四人を撮り始めた。


───芸能人になった気分だけど結構眩しいな……


アシュレイがチラリと横を見ると、ラティは前を向いたままニカッと笑い、ルークは普段通りに無表情。エレンはカメラのフラッシュが炊かれる度に眩しさで目をつぶっていた。


三人の反応の差にふふっと笑ってしまったが、直ぐに「いけないいけない」と顔を整え、笑みを顔に貼り付けた。


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