第26話 いよいよ憧れへ
「最初はグー!!」
まだ声変わりしていないラティが急に大きな声を出した。
「えっ」
アシュレイが戸惑うのを気にも留めずにラティは言葉を続ける。
「ジャンケンポイッ!」
ラティはグーを出し、アシュレイはチョキを出した。
「あっち向いて~」
「えっえっ」
「ホイ!!」
アシュレイは勢いで上を向いた。ラティも上を指していた。「勝った♪」
ラティはヘヘッと笑った。
「最初は」
ラティがもう一回言おうとすると、
「うるさいっ」とルークがラティを睨んで一言で叱った。
ルークが突然大声を出した為、エレンも肩をビクッと揺らして怯えた目をルークに向けた。
ルークは自分が大声を出したことに気付き、はっとした表情をした後すぐに視線を本に戻した。「もう少し音量下げろ」
エレンは他三人の様子を確認してまた絵を描きはじめた。
ラティとアシュレイがびびって固まっていると、コンコンコンと誰かがドアをノックした。
アシュレイが「はーい」と立ち上がりながら返事をするとドアが静かに開き、女王様が顔を出した。
アシュレイとラティとルークはすぐさま立ち上がり、礼をした。
ちらっとエレンのほうを見やると、エレンは集中している様子でまだ絵を描いていた。
ルークが低い声で「エレン」と呼びかけると、彼女はスケッチブックから目を離した。
「わっ」
やっとエレンは女王様の存在に気付き、慌ててスケッチブックを閉じて立ち上がり、礼をした。
「もうすぐ始まるからスタンバイしときましょ」
女王様は両手を合わせて微笑んだ。
四人は女王様に案内されながらレッドカーペットがずっと奥まで続く廊下を歩いた。
前方左のドアから出てきた、小間使いの小柄な女の人がカーペットの端に
「あっ」と四聖星の声が重なるのと同時に、彼らの前を歩いていた女王様がさっと手を挙げ皿をふわっと掴んだ。
女王様は「はい、どうぞ」と女の人に皿を渡した。
女の人は「ももも申し訳ありません!!ありがとうございます」と言いながらペコペコお辞儀をした。
女の人が去っていくのを見送り、女王様はまた歩き出した。
女王様が右へ曲がったと思ったら次に左へ曲がり、四人は城の中を長いこと歩いた。
途中、「城ん中、広すぎね?」と小声でラティが呟いたが、ルークは無視をして歩いていた。
女王様があるドアの前でピタッと止まった。そのドアの奥には両開きのよくコンサート会場で見るような豪華な扉が見える。
女王様はくるりと後ろを向き、人差し指を口に当てて「ここは裏口。ここからは静かにね」と言った。
そしてまたくるりと前を向き、ドアをガチャと開けた。女王様に続き、
部屋の中は薄暗く、細長い道を通った。その空間の奥にあった黒いカーテンを女王様が小さく開けるととても眩しい光が薄暗い部屋に注いだ。思わず目を細めてしまう。
女王様は後ろに立っていた四聖星達を手招きした。僕達もそろりと向こう側を覗く。
そこは任命式が行われる会場だった。
任命式が行われる会場は広い食堂のような空間で、縦に長く三列伸びるテーブルには染み一つ無い真っ白な布が掛けられ、目を凝らして見ると細かく金色の刺繍が施されている。
各テーブルの両側には優雅な模様が彫られた栗色の椅子が数えられないほど並んでいた。
招待客の中にはテレビで見るような歌手や俳優、四都市の有力貴族、
どの客も着飾り、華やかな雰囲気を
各々が近くの席の客とお喋りをしており、ドレスを着た女性は皆笑う時に手を口元に当てて『オホホ』『うふふ』と上品な仕草をしていてその場の敷居を更に高くして見えた。
四聖星たちはそんな舞踏会のような雰囲気に包まれた会場の様子を舞台袖から見ていた。
「ヤバい、一気に緊張してきた」
と、さっきまで腕をぐるぐる回して意気込んでいたラティが打って変わって歯をカチカチ鳴らしながら震えていた。
「めっちゃ震えてんじゃん大丈夫?」とアシュレイが苦笑いして心配する。
「初めてだもん、みんな緊張するよ」とエレンも言葉を重ねる。
ふぅ…と隣でルークが自身の緊張を
四聖星の四人の後ろで四人の様子を見守っていた女王様が口を開く。「時間ね」
「手順は皆さんが予習してきた通りです。慌てず、丁寧にすることを心がけて下さい」
女王様が
「それから……」
女王様がエレンの方を向く。
「魔力の強い術師は男性の方に多い、それを当たり前だと思っている人達もいます。
女性が四聖星になるのを良くないと思う人も居るかもしれない。前の女の子の四聖星は誹謗中傷を受けて苦しんでいた。
それでも、決して下を向く必要はありません。
女性であることに誇りを持って下さいね」
そう、女王様はエレンに仰った。
「はい」とエレンもその期待に応えるように目を見てしっかりと返事をした。
女王様が舞台袖からステージの方へ向かい、会場の照明が暗くなると同時に、スポットライトが女王様を照らした。
先程まで会話を楽しんでいた人も喋るのを止めて彼女の方を向く。
会場の端でスタンバイしていたテレビ局のカメラも一斉に同じ方に向いた。
ステージの真ん中に置かれたマイクスタンドに手を掛け、取り付けられたマイクをトントンと軽く叩いて音量を確認していた。
「皆さん」
女王様が話し始める。
「
とても落ち着いた口調で女王様は話を続ける。
「先日行われたエスペランスバトルで見事四位以内に入りました四人を、今日、正式に、"四聖星"として任命致します」
女王様が四人に目配せした。
「それではこれより四聖星の印の授与を行います。皆さん、温かい拍手でお迎え下さい」
会場の人が皆ステージに現れる人を期待して拍手をする中、一位、二位…と順位の順番で四人は光が集まるステージの上へ歩み出た。
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