1-9 水嫌いの珊瑚

ガッシャアァァァン──────



氷のシャンデリアは粉々に砕け散った。


辺りには氷の破片が散らばり、床に刺さっている欠片もある。




エレンは目をつぶってうずくまっていたが、やがて自分の体が痛くない事に気付き目を開けた。


エレンの顔のすぐ横に男の子の顔があり、男の子は天井を見ながら守術でバリアを作っていた。





私…はさっきの男子の上…に…乗っかってる!?


エレンはすぐさま飛び退いた。


「いった……」


男の子は腰をさすりながらエレンを軽く睨んだ。

見たところ身体に氷は刺さっていない。



「だだ大丈夫ですか……?なんか、あの、ごめんなさい!!」




あわあわと動揺しながらエレンが謝ると


「俺は別に大丈夫だから。それより、ここ使いたいから先生呼んで片付けてくれる」


と男の子は如何いかにも嫌そうな顔でそう返した。



「は、はいぃ…」


男の子のアメジストの瞳に睨まれたエレンはビクビクしながら周りに散らばった氷の破片に手をかざし、

「ice,melt」と呪文を口にする。


すると、破片たちは自我を持ったように一箇所にパキパキ集まり、溶けた。




エレンはふわふわのタオルをイメージし、ぽんっと現れたタオルで水溜まりを拭いた。


「これでいいですか?」


振り返って言うと、男の子は目を見開いて「お前、何者?……あんなでかいシャンデリアを一人で、しかもタオル何処どこから出てきたんだ………お前もしや四聖星シエルの卵…?」と疑問を口にした。






「なんか、そうみたいですね…」

アハハ…と苦笑しながらエレンが呟く。しかし男の子の耳にはその言葉は入ってない様に見えた。



「シエルの卵でしかも異能持ちだと?…これじゃあ5年後のバトルで勝てない…」


男の子は一人でぶつぶつ言いながら頭を抱えていた。

5年後のバトル…?四聖星を決める大会の事だろうか。

エレンがどうしようか迷っていると下校チャイムが鳴った。


「それでは、お先に失礼します」

とエレンは足早にその場を去った。








そんな事もあったが、それからは大きな問題も無く平凡に過ごす事ができた。



常にエレンの傍には珊瑚がいて、小学校生活の行事ではいつも同じ係になった。

教室移動の時も一緒。


時に意見がすれ違い喧嘩をすることもあったけれど、理由を互いに話し認め合う事でよりいっそう中が深まり、やがて”心友しんゆう”という関係になった。


珊瑚もこの学校にエレンよりも前に引っ越して来た身であり、引っ越し当初はなかなか友達ができなかったらしく、同じく転校してきたエレンとは仲良くなれそうと思ったと微笑みながら珊瑚は言った。



エレンは、珊瑚には逃げてきたとは言わず、別の学校から転校してきたと伝えた。



前の学校の事を聞かれた時は、不自然にならないように作り話をした。

それがエレンにとって苦しい行為であり、本当の事を話しても引かれるだけだと思い込んで、嫌われないように振る舞っていた。



魔力が高いがために他の人からは近寄れない存在だと遠ざけられることも多かった。




珊瑚はそんな事は気にせず、いつもエレンをお出かけやお買い物に誘っては色んなことを教えてくれた。




だがエレンは珊瑚と過ごすうちにある疑問を抱いた。




一般的に水魔法を操る者は水遊びを好むものがほとんどで、水泳も得意な子が多い。

しかし、珊瑚は水魔法を操る身だが、水泳の授業はいつも欠席、身体が水に濡れることを極端に嫌った。




「本当は珊瑚、カナヅチなんじゃないの~」


と言いながらエレンの横をすり抜ける子の言葉を聞いて、心友を悪く言われるのは腹が立ったが、

「一緒に特訓しよう」

と珊瑚に言ってもぶんぶんと首を横に振られるだけだった。




珊瑚が濡れるのを嫌う理由も分からないまま、5年がたった。

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