1-6 変わる色、淡い思い出

エレンは衣吹が学校に行った様子を2階の自分の部屋の窓から確認した後、自分の部屋(元は日葵の部屋だったらしい)の勉強机の上に置いてあるフクロウの置物を横目に見た。





その置物は雪のように白く、羽の模様が掘られており、首には紺色の艶やかなリボンが結われ、結び目にはハート型のきんに青く輝く宝石ラピスラズリのチャームが付いている。


目の部分にはダイヤモンドのようにキラキラする宝石が埋め込まれていた。



エレンが「ハク、もう行ったよ」と声をかけると置物はファサッっと白い羽を生やし、大きく真っ白な本物のシロフクロウの姿になった。




「あ〜、ずっと置物の姿だと肩こるわぁー」


と文句を言いながらそのフクロウ、すなわちハクは羽を毛繕いし始めた。


ハクはエレンがつくった動物だ。





一般的な魔術師は何かを操る事は出来ても、何かをつくる事は出来ない。


けれどエレンは複数の魔法を操れる上に、想像したものを具現化する特殊魔法も生まれつき操ることが出来た。




エレンの姉であるレオナもその特殊魔法が使えたが、そこまで規模の大きいもの──言い換えると”命を持つもの”などは作れなかった。


エレンがハクをつくったのはこの街に逃げてきたあとであり、ハクのことを衣吹は知らない。



真っ白だから名前はシロにしようと思ったが、それだと犬っぽい名前になる為、音読みのハクにしたのだ。


大きく変化したハクの首にも青い宝石ジュエリーが輝く。

『星空』の意味を持つ、姉も自分も好きな『ラピスラズリ』をリボンに付けてハクの首に結んだのだ。(ハクは嫌がっていたが...)





エレンがいつも肌身離さず身に着けている青い宝石のネックレスもハクの青い宝石と同じような色形をしているが、エレンのネックレスの宝石は、まだヴィルジール達に襲撃されて檻に入れられる前の、故郷の国に居た時にレオナがエレンとお揃いで作ってくれたものだった。






よく二人で遊んだ花が咲く庭である日、


「これ、お揃いでつくったの!片方エレンにあげるね!」


と満面の笑みでレオナがその物をエレンの小さい手のひらに渡した。


「お姉ちゃん、なぁに、これ、綺麗だね」

エレンがパッと表情を明るくして答える。



「これは気持ちで色が変わる宝石で、エレンが悲しんでる時にこの宝石見て青色だったらすぐに気づいてあげれるでしょ、そしたらぎゅって抱きしめてあげる!」


と当時4歳だったエレンに8歳のレオナが幼い子特有のあどけない笑顔でこの宝石をくれた思い出が鮮明に蘇ってくる。






「あれから2年も経ったのね.....」


自身の胸元に光る宝石を眺めながらぽつりと漏らすエレンの言葉をハクは気にも留めずに羽繕いしている。


貰った当時はダイヤモンドのような純粋無垢で透明だった宝石は、今ではもう澄んだ色だった日々を忘れたようにただ深海のように深くあおい宝石としていた。

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