1-3 学校と四聖星②
エレンは花先生に軽く学校を案内してもらった。
この学校は、初等部・中等部・高等部で建物が分かれているが体育館は共同らしい。
小中高を繋ぐ廊下を歩いていたら、中学生が廊下を走っていた。
「こらっ、廊下は歩きなさい」という花先生は怒ってはいるものの声は優しく、中学生はその言葉を気にも止めない。
「中学生になると小学生よりもやんちゃな子が多くなって、私が怒っても全然言う事聞いてくれないのよ」と花先生はため息をついた。
そりゃそうだ、とエレンは思った。
初等部の2-Aの教室に着くと、中から「転校生来るらしいよ」「男?女?」「なんの魔法が使えるんだろう」「可愛い女の子だといいなぁ」というクラスの声が聞こえてきた。
エレンは少し緊張で足が震えた。手に『人』の文字を書いてパクッと食べるフリをした。「こうすると緊張しないよ」と前にお母さんに教わったのを思い出したのだ。
最初に花先生が教室のドアを開け、エレンがみんなから見えないように先生だけドアからひょっこり顔を出した。
「みんな~、このクラスの転校生ちゃんを紹介しまーす!みんな早く会いたいと思うでしょう。でも席にちゃんと着かないと紹介しないよ~。
…はいっ、じゃあみんな着いたかな。
転校生ちゃんどうぞ~!!」
花先生がドアをガラッと開け、エレンが緊張しながら静々と教室に入った。
花先生は黒板に『エレン・シャルムちゃん』と書いた。
先生に頼まれ、エレンが軽く自己紹介をすると、クラスのみんなが興味津々な目で彼女を見てきた。
多くの人に見つめられるのは何処か懐かしさを覚えるのだが、その記憶が
思い出そうとしても輪郭が歪むように曖昧でぼやけている。
その後は質問タイムに入り、みんなが一斉に我こそはと手を挙げ、一番挙げるのが早かったと思われる人を先生が指した。
最初の質問は『なんの食べ物が好きか』という普通の内容だった。
エレンは「甘いものとハンバーグが好きです」と言った。
次の質問は『なんの魔法を操れるのか』というものだった。
エレンは生まれつき色んなものを操ることが出来たので、
「どれも同じくらいに操れます」と言った。
その途端、それまで騒がしかった教室は物音一つ聞こえないぐらいに静まり返った。
エレンはなぜみんながびっくりしているのか分からなかった。
口をぽかーんと開けたまま閉じようとしないクラスメイトを見て、何か変なことでも言ったかな、とエレンは思った。
シーンとした静かな空気が二、三秒漂った後、1人のクラスの子が大きな声で
「シエルの卵だ!!」と言った。
「し、・・・シエルの卵?」
初めて聞いた言葉に戸惑うエレン。
彼女は学校というものに通うのが初めてな為、自分以外の魔術師が、多くて二種類の魔法しか操れない事を知らなかった。
花先生が「あとの質問は他の時間にしてもらって、授業が始まるから、エレンちゃんは後ろのあの空いている席ね」と言い、エレンはその席についた。
みんなからの視線が痛くて縮こまるエレン。
前の席の女の子に小声で「シエルの卵って何?」と聞いてみた。
その女の子は薄黄色の髪を一本に編んで片側に垂らしており、星型のピンをこめかみの近くの前髪につけていた。
女の子はエレンの質問に丁寧に答えてくれた。
「『四聖星』って書いて『シエル』って読むんだけど、シエルは中学一年生から上の年齢の人で、魔法でバトルして4位以内に入った4人のことをいうの。
シエルになる為には技のバリエーションを増やさないといけないんだけど、生まれつき色々な術を操れる人はシエルになる確率がぐんとアップするから、その人たちの事をシエルの卵っていうのよ。
シエルの卵の人以外はほとんどが、術は一、二種類しか操れないのよ」と女の子。
「へぇ~、そうなんだ…!四聖星って書いてシエルって読むのかっこいいね。色々と教えてくれてありがとう。
えっと、名前なんて言うの?」とエレンが言うと、
「あたしの名前は珊瑚って書いてサンゴって読むの!
あたしは『水』を操る『水術』を使えるんだ。これからよろしくね、エレン」
と珊瑚は歳に合った屈託のない無邪気な笑顔で言った。
話しかけやすいオーラの子が近くの席で良かった。
今日の5時間の授業が終わり、珊瑚と途中まで一緒に帰った。
話してるうちに、珊瑚にもお兄ちゃんがいることを知った。
珊瑚も前に引っ越してきたのだという。
エレンと衣吹は血が繋がっていないけれど、珊瑚とその兄は血縁関係。
エレンは血の繋がった家族が今の生活に居ないことを寂しく思った。
交差点で珊瑚と分かれ、エレンは家に帰った。その日は明日の授業に備えて早めに寝た。
─────そして、ある夢を見た。
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