第25話 昔からの夢
ユニカが言うには2人の共同作業で作ったらしいその家の中に入ってみて、俺はまた驚いてしまった。
「すごいっ! すご過ぎる! 大金持ちの家の書斎にあるようなデスク&チェアーに、キングサイズのふかふかベッド、それから壁一面の本棚! ここに俺の小説のコレクションを飾ったら最高だろうなぁ! 完璧だよ、完璧だよ、ユニカっ!」
前世で自分が読書好きだったことを強烈に思い出して興奮状態でそう言うと、ユニカは案の定その家の床を激しく踏みつけ始めたので、俺はまたしてもその口を両手で塞がなければならなかった。
と、またすぐにゴニョゴニョと言い出したので手を放してやると、ユニカは俺にこう不思議そうに尋ねてきた。
「師匠! ショウセツとはなんですか?」
「なんだ、ユニカは小説も知らないのか?」
「知りません。教えてください、師匠!」
真っ直ぐな瞳でユニカが訊いてくる。
俺はしばらく考えてからこう答えた。
「小説とは物語が
本すらも知らなかったら困るのであえてそう言ってみたのだ。
「物語が記された紙の束! ユニカ、師匠のショウセツを読んでみたいです!」
「俺のショウセツ?」
「はい! 師匠のショウセツはないのですか?」
「俺の小説は・・・・・」
ないと言おうとしたが、ユニカが瞳をうるうる潤ませて俺のことをじっと見つめてくる(かわい過ぎる!)ので、
「俺のこの頭の中にある! 後は紙に記すだけだ!」
と俺は答えてしまった。
すると、さらにユニカが、
「じゃあ、近々ユニカは師匠のショウセツを読めるのですね!」
と、やはり期待で瞳を潤ませて言ってきたので、
「ああ! 俺はこの世界で小説を出版するぞっ! そして、その小説の最初の読者はユニカ、お前だっ!」
とついつい言ってしまった。
そして、そう言ってから、この子が師匠師匠言ってくるからなんか師匠みたいな喋り方しちゃってるなあ、と思った。
ユニカは俺の言ったことがいまいちよくわからなかったらしく、少しの間、不思議そうな顔をして黙っていたのだが、しばらくするとこう言ってくれた。
「・・・・・・なんだかよくはわかりませんが、師匠のショウセツをユニカが最初に読めるのですね! 早く読みたいです、師匠のショウセツ!」
だから俺は自分の胸をドンと叩いてこう返したのである。
「よしっ! 必ず読ませてやるからな!」
まさか、昔からずっと密かに抱いていた小説家になる夢をこの異世界でもう一度目指すことになるなんて夢にも思わなかった。
というか、壁一面の本棚を見る前までそんな夢などすっかり忘れていたのである。
もうその夢を思い出した幸せな気分のまま、あのふかふかベッドで眠ってしまえばよかったのだが、その後ユニカに誘われて再び外に出ると、なんと俺はユニカにあの炎のブレスを教わることになってしまったのだった。
「そもそも人間で炎のブレスを吐けるやつなんているのか?」
と、俺はレッスンを受ける前にユニカに訊いた。
「いませんよ、今のところ。師匠が最初の一人になるんです!」
ここで俺はふと思ったことをユニカに尋ねてみたのだ。
「・・・・・・ちなみに炎のブレスも習得せずにユニカの親父さんに会っちゃったらどうなるんだ?」
「秒殺でしょうね」
とユニカはあっさりと言った。
「秒殺かぁ」
嫌すぎる。
落ち込むわ、マジで。
だが俺の気持ちが回復する前に、ユニカのレッスンは始まった。
「じゃあ、口を大きく開けてください、師匠!」
「こうか?」
「もっと大きく開けてください、師匠!」
「こうかっ?」
「もっと大きく!」
「こうかっっ!」
その時だった。
「ボォォオオオオオッ!」
俺は突然、炎のブレスを吐いてしまったのである。
「師匠! すごいっ! マスタードラゴン以外が炎のブレス吐いてるの、ユニカ初めて見ました! なんで吐けるんですか? 師匠っ!」
「えっ?」
もしかして吐いちゃいけなかったの?
そう思っていた俺にユニカはこう言ったのだった。
「冗談だったのに・・・・・・本当に吐いちゃうなんて・・・・・・師匠! よっぽどユニカと早く結婚したいんですね!」
とにかく俺はユニカという少女に出会ったその日、理想の家を手に入れ、炎のブレスまで習得してしまったのである。
しかし、炎のブレスはその後も何度か吐けたが、あの日以来あの家の中には一度も入っていない。
だってあの家は俺が人生初の炎のブレスで跡形もなく消し去ってしまったのだから。
※※※
第25話も最後までお読みくださりありがとうございました!
もし少しでもおもしろいと思っていただけたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとすごくうれしいです!
【次回予告】
第26話 冒険者になってみた!
いよいよ俺、冒険者となる!
いい加減そろそろあのことを思い出せるのか? の第26話っ!
どうぞ続けてお読みくださいませ
m(__)m
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