第15話 衝撃💥の別れ

 完全に気を失っていたはずのロキヤン・ガタラ第1番伍長が何事もなかったように立ち上がり、先程までの激昂げっこうした表情ではなく冷静な能面みたいな顔で再び円形の闘技台に、まるで亡霊のようにゆっくりと無言で上がってきたので、うーピリ(剣)がひどく驚いたような怯えたような声音で俺にこう言ってきた。


「なんかヤバくない? ちょっと張り切ってやり過ぎちゃったかな? あの人キレてない? ・・・・・・っていうか、なんか目付きとか別人なんですけど!」


 うーピリ(剣)の言う通り、その目の表情はうつろで明らかにそれまでとは違っていた。


 それで、俺が動けずに固まっていると(動いたら何かとんでもない目に遭いそうな予感がしたのだ!)、

 

「ルーフェンスくん! 今すぐその闘技台から下りてください。とちょっとお話ししたいことがあるので・・・・・・」


 と、ヘッケルト教授が俺に言ってきたのだった。


「いや、でも・・・・・・」


 と、俺がちょっとだけ抵抗すると、


「いいから退きなさい! その人は君のかなう相手ではないのですから!」


 と、ヘッケルト教授は出会ってから一番鋭く大きな声で言ったのである。


 そのヘッケルト教授のいつもとはまるで違う声の迫力に完全に気圧けおされて、俺はもうそれ以上抵抗せずに闘技台から素直に下りていった。


 すると、すぐにヘッケルト教授は闘技台に上がり、ロキヤン・ガタラ第1番伍長に向かってこう言った。


を返してください! 代わりにわたしの体をあなたにあげますから! ・・・・・・その中にいるのでしょう? 聞こえているのでしょう? わたしの声が!」


 それから少しの沈黙があって、ロキヤン・ガタラ第1伍長はで喋り始めた。


「ほぅ。・・・・・・よくわらわの存在に気づきましたね」


 それからの2人の会話は驚きの連続だった。


「・・・・・・あなたは魔王さんですね? それも体を乗っ取るのが得意な・・・・・・闇属性の魔王さん・・・・・・ですよね!」


「ほう! そこまでわかっているなら話は早い。妾もこの体よりあなたの体の方に興味があるのですが、さすがに妾でも、の体を簡単に乗っ取ることはできませんからねぇ」


「大丈夫ですよ。わたしも協力しますから。魔術力を極限まで小さくしてあなたが乗っ取りやすいようにしてあげます! ・・・・・・そのかわりに、わたしの生徒の体を返してください。・・・・・・そしてさっさとこの国から出ていきなさい!」


「さすがは人族一の魔術師ですね! そうやってすごまれると、妾でも、少し怖いくらいです」


「ふざけないでくださいっ! イエスかノーか返事を早く聞かせてください!」


「おー怖い怖い! ・・・・・・もちろん答えはイエスですよ。でも、これはあなたに、いや、あなたのその体にとっても幸運なことなのですからね! 妾と一緒になれば、あなたのその老いぼれた体も、うんと若返って、あと1000年は長持ちするはずですから!」


「それはうれしいですね。・・・・・・じゃあ、無駄話はそれくらいにしてそろそろ始めてください」


「せっかちな人ですねぇ。・・・・・・でも、いいのですか? 別れのあいさつもしないで? 少しだけなら待ってあげてもいいのですよ?」


「魔王さんなのに随分と優しいんですね。・・・・・・でも、大丈夫です。そんな甘いこと言ってないで、魔王なら魔王らしく早くわたしの気が変わらないうちにやっておしまいなさい!」


 ヘッケルト教授はあの時そう言っていたが、本当はその魔王らしき魔物と話しながら同時にテレパシーのような不思議な力でこんなふうに俺にも語り掛けてくれていたのだ。

 

「・・・・・・ルーフェンスくん、聞こえますか? 聞こえますね! ・・・・・・さっきは偉そうに指示してすいませんでしたね。でもわたしにはこうするしか自分の生徒を守るすべがないのです。それほどこの魔物の力は強大で、おそらく本気を出せばこのツーツンツ王国ごとわたしたちを消し飛ばすこともできるはずです。・・・・・・でも、約束は守ると思いますよ。あるトラップを仕掛けておきますので、その点は心配しないでください。・・・・・・じゃあ、ルーフェンスくん、娘のことをよろしくお願いしますね。・・・・・・大丈夫ですよ、君たちがまだ付き合っていないことはわかっていますから! ・・・・・・娘は悪意やたくらみこそありませんが、結果的に多くの交際相手を駄目にしてきました。・・・・・・でも、君はそんな娘が好きになった中で唯一出世した男なのですよ! それは偶然かもしれませんが、わたしはその君の強運に勝手に賭けたいと思っています! ・・・・・・もちろん付き合うか付き合わないかは君の自由です。ただわたしがいなくなってからの娘のことを少しだけ今より近くで見守っていてほしいんですよ。大変身勝手なお願いですが、どうかよろしくお願いします。・・・・・・あと、暇があったらでいいんで、わたしのこの体もできれば奪還だっかんしに来てください。・・・・・・もちろん君が今と比べものにならないくらい強くなってから来てくださいね。・・・・・・では、ルーフェンス・マークスくん、せっかく来たんですからを存分に楽しんでくださいね! それでは、またね。ムフフフフフ・・・・・・」


 ここに来てから強くなりたいと本気で思ったのはこの時が初めてだった。


 強くなりたい。

 それもできるだけ早く!


 俺はその後もしばらくその魔王らしき魔物と話していたヘッケルト教授の背中を見つめながら何度も何度もそう思っていた。



※※※

第15話も最後までお読みくださりありがとうございます!


もしおもしろいと思っていただけたら、作品フォローや★評価してもらえるとうれしいです!(応援コメントやレビューコメントもお待ちしております!)


【次回予告】

第16話 傷心のジュナ・ヘッケルト💕


傷心のジュナ・ヘッケルトと俺(ルーフェンス・マークス第142番伍長)は二人きりに!


どうなるどうなる第16話っ!


どうぞ続けてお読みくださいませ

m(__)m



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