第16話 傷心のジュナ・ヘッケルト💕

「・・・・・・ヘッケルト教授の奪還隊に志願しようと思ってるんです。実力不足なのはわかってるんですが、何もしないっていう選択肢は今の俺にはないので・・・・・・」


 と、俺はジュナ・ヘッケルトに告白した。


 しかし、ジュナ・ヘッケルトはずっと押し黙ったままだった。


 当たり前だ。

 自分の父親が魔王に連れ去られたのだ。

 それも体を支配された状態で!

 娘として心配でないわけがない。

 もっとひどく取り乱してしまってもおかしくないくらいの状況なのだ。


 そう思っていると、ジュナ・ヘッケルトは突然口を開き、こんなことを言ってきたのである。


「・・・・・・父はとても生徒さんのことを愛していました。実の娘の私が嫉妬してしまうくらいに・・・・・・。ルーフェンス・マークスさん、あなたのことを特に父は気に入って気に掛けていたんですよ! 家でもあなたの話を何度もしていました。いずれこのツーツンツ王国魔術軍の宝になる男だって! ・・・・・・でも、だからって父のためにそこまでする必要はないと思うんです。・・・・・・ジュナを一人っきりにしないでください! 父はきっと大丈夫ですよ! ああ見えてツーツンツ王国史上最強の魔術師マジシャンなのですから、どうにかしていつかきっと自力で戻ってきますよ!」


 ジュナ・ヘッケルトが俺の身を案じてそう言ってくれているのだということはこの時の俺にも理解できていたのだが、この後の彼女の発言は全く俺の理解を越えていた。


「・・・・・・それで、ルーフェンス・マークスさん、あなたのことをそろそろダーリンと呼んでもいいですか? お願いします! 私の母も父のことをずっとそう呼んでいたんです! ・・・・・・もうすぐ私たちも夫婦になるかもしれないんですから、いいですよね?」


 ヘッケルト教授が魔王に連れ去られたばかりで動揺していることを考慮に入れてもあまりに突飛で場違いなその発言に、正直俺は引きまくっていた。


 だが、魔王に体を乗っ取られる直前に一瞬こちらに向かって微笑んだヘッケルト教授の顔が突然思い浮かんできて、俺は咄嗟とっさにこう答えてしまったのだ。


「・・・・・・それであなたの心が少しでも安らぐんなら好きなだけ呼んでくれていいですよ」


 俺はこの時の自分自身の発言を未だに後悔している。


 なぜならその発言の直後、ジュナ・ヘッケルトがあの美しく大きなあかい瞳から大粒の涙を流してこう言ったからだ。


「・・・・・・どうして今日はそんなに優しいんですか? 私にだってプライドがあります! 父のことで同情していつもより優しく扱われるのはとても嫌です。どうせならビシっと断ってくれればよかったのに。その方が私は余程うれしかったのに・・・・・・」


 女心というものは本当に難しい。


 そして女という生き物はとても鋭いところがある。


 あの時、俺がずっと目の前のジュナ・ヘッケルトではなく、もうここにはいないはずのヘッケルト教授のことを見つめていたことを彼女はしっかりと勘づいていたのだ。


 そしてその夜、俺は彼女を、ジュナ・ヘッケルトのことを傷つけてしまったことを深く後悔しながら、それでもなお、ヘッケルト教授のことを思いながら眠りについたのだった。



※※※

第16話も最後までお読みくださりありがとうございます!


もしおもしろいと思っていただけたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとうれしいです!(応援コメントやレビューコメントもお待ちしております!)


【次回予告】

第17話 ミーファ・ガタラの恋心❤️


 ついにヘッケルト教授奪還隊が組織される。

 そのメンバーに俺(ルーフェンス・マークス第142番伍長)は入ったのか?

 ミーファ・ガタラとは誰なのか?

 いろいろ気になる第17話っ!


 どうぞ続けてお読みくださいませ

m(__)m


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