最終夜(?)

「あ、起きましたよー」

 うっすらと意識が戻り始める。わずかに開いた瞼が見せたのは、至近距離で俺を見つめている妹ちゃんの顔だった。

「おはようございます!」

「あー、うん。おはよう」

 重い頭を動かし、時刻を確認する。あれから三十分くらいは寝ていたみたいだ。入眠の深度から考えて部長の勝利は明白だった。

 しかし、この期に及んでまだ納得できていない人物がいた。

「ほ、本人に聞いてみないとわからないでしょ!」

「んー、それもそうだねえ。どうだった? 風太君」

 勝ち誇った顔で、部長は俺を見る。それに合わせて、一同の視線もこっちに集中することになった。……まぁ、結果は火を見るよりも明らかなんだけど。

「もちろんうちの部長の勝利ですよ?」

「うっ……」

 とどめを刺された水瀬さんが、その場にへたり込んでしまう。だというのに誰も駆けよらないのは、日ごろの行いのせいだろうか。少し同情する……いやさすがに自業自得だわこれ。

「さ、もういいでしょう。帰りますよ」

 寝具の入っているであろうバッグを持ち、秋野さんが水瀬さんを立ち上がらせる。どうやら俺が寝ている間に片づけは完了していたらしい。こんなにもしっかりしてるのに、なんでこの人が部長をやってないんだろう。

「つ、次はこうはいかないから!」

 そう言うと、彼女は逃げるように応接室を出ていった。追いかける様子もない二人も、俺らに軽く頭を下げ立ち去っていく。ホントに嵐みたいな人だったな……。ってか、「次は」ってことはまた来る気なのかあの人。もう勘弁してほしい。

「……ようやく帰りましたね」

「あぁ……」

 ほぼ何もしていないはずの側近君が、疲れ切った声で返事をする。部長に至っては、妹ちゃんにおぶられている始末だ。

「お姉ちゃんもこの調子ですし、帰りましょうか」

「だな……」

 力なく答え、応接室を後にする。

 部室までの道のりがやたら遠いような気がするのは疲れているからだろうか。

「ねー、風太君」

「……なんですか?」

「この部活、楽しい?」

 ふと、部長が俺に尋ねてきた。

 楽しい、か。この部活でそんなこと考えたこともなかった。改めて、今までの日々を思い返す。確かに刺激的な毎日だった。まぁ、ほとんどは振り回されているようなもんだけど。とはいえ、それが不快だったかと言われれば違う気がする。

 つまりは、あれだ。そう。

「ま、退屈はしないですよ」


 自然と口角が上がっていた気がするが、それは気のせいだと思いたい。

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ノンレム・スリーパーズ ~睡眠同好会は決して夢を見ない~ カラザ @karaza0210

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