閑話「その頃のリエル」
学年合同授業での魔法実習。
クラス別で魔法を使うのだが、上級生たちも見守っている。
今後合同実習で学年を超えた編成に備えて。
「今日はスターシューティングをおこなう!」
中年の男性教官がいかつい顔にふさわしい声で宣言する。
スターシューティングとは宙に多数飛ぶ星を狙い、魔法を撃ち出す訓練だ。
いくつの星に、どれだけのダメージを与えたかを競う。
「順番にやっていけ!」
最初の男子生徒がヒット数六〇、ダメージの下が四〇〇、上が七〇〇と出る。
「ほう、優秀だな」
見ていた教師が感心した。
ヒット数で魔法の演算能力、発動速度を、ダメージで出力の安定性、命中精度を主に測定する。
一流魔法使いからすれば物足りないが、新入生としては上出来だ。
「平均ヒットが五五、ダメージが六〇〇くらいか」
「今年はなかなか優秀な生徒がいるな」
と最上級生が語る。
「現トップは生徒会長で、ヒット数一〇一。ダメージ上限が一二〇〇だ」
と教師が一年生たちに告げた。
「ヒット一〇〇⁉」
「ダメージ一〇〇〇って何?」
一年生たちから驚愕と悲鳴が起こる。
自分たちや仲間がやっているのを見たからこそ、生徒会長の数字が別格だと理解できた。
「歴代最高は……言わなくてもいいか」
どうせ破れないだろうと判断した男性教師は、
「最後にリエルだったな。お前の番だ」
と指示を出す。
「はい」
リエルが前に出ると、上級生たちに困惑が浮かぶ。
「リエルって飛び級の子か?」
「サーラ様の推薦って言う」
彼らは情報を持っている。
「見た目は案外普通だな」
という評価をリエルは意に介さない。
「はじめ!」
多数の星が宙を舞う。
「光の刃よ!」
リエルが一節呪文を唱え、きらめき無数の刃が乱舞する。
唖然とする生徒たちをよそに、刃は星に殺到した。
「ひ、ヒット数三〇二! ダメージ数二、四七〇〇⁉」
計測していた女性教師から悲鳴まじりの結果が伝わる。
「三〇〇⁉」
「四七〇〇⁉」
生徒たちの誰も信じられないという叫びが響く。
「それって歴代記録の更新では?」
最初に立ち直った老教師が同僚に聞く。
「は、はい。過去最高は二〇〇、一七〇〇ですから」
と答える教師の声が震える。
「サーラ様が数百年にひとりの逸材だとおっしゃった意味が分かった……」
教師たちは衝撃から何とか立ち直っていた。
「とんでもない子が来たな。俺たちが教えられるんだろうか?」
という疑問は誰も答えない。
彼らの視線の先では、リエルが一年に囲まれている。
「すごいわね!」
「信じられない!」
「君こそ本物の天才だ!」
彼らにやっかみがあったとしてもごくわずかだ。
それより歴史に名を残しそうな逸材が同じ学年にいる、喜びと興奮のほうがはるかに上回っている。
「え、違いますよ」
ところがリエルは真顔で賞賛を否定した。
「お姉ちゃんはわたしよりずっとすごいので。天才なのはお姉ちゃんです」
と告げる。
「いやいやいや」
「さすがにそれは……」
誰も彼女の言葉を信じない。
リエルはこの反応に慣れきっているので怒らず、
「お姉ちゃんってわたしがかなわない悪魔を瞬殺したりするんですよ? 子どもの頃、実際に守ってもらいましたもん」
と淡々と話す。
彼女にとって姉・アイリのすごさは、すぐに理解できるものじゃない。
わかるまで布教し続けるものである。
「あの子のお姉さんなら、すごい人かもだけど」
「そんな人が無名なのはおかしいよな……」
離れた位置にいる上級生は、遠慮がちに否定した。
完全に否定しないのは、「リエルの姉」という点に問答無用の説得力を感じるせいだ。
「お姉ちゃんがすごいエピソード、いっぱいありますよ?」
とリエルは目を輝かせて話し出す。
無口の印象が強かっただけに、同学年たちはギャップに驚く。
「……まさかと思うけど、姉の話を広めるために、この学園に入ったとか言わないよね?」
一年女子のひとりがある予想を口にするが、いくら何でもと聞いた全員に無視された。
もしリエルが聞いていれば「ほぼ正解」と言っただろう。
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