第12話「妖精とは」

 「何か人が増えてる……」

 アイリはへたれていた。

 村長をふくめて数人のはずが、いつの間にか四十人を超えている。

「妖精様を見るなんて珍しいし、妖精様の話を聞けるなんて、もしかした今後二度とないかもしれないからね」

 照れくさそうに笑ったのはターニャの家の隣の男性だ。

 みんな同じ意見だとアイリは察する。

「えーっと、簡単に言うと精霊の子どもですね、妖精は」

 とアイリが言うと、

「全然わからない」

「もうちょっとわかりやすく頼む」

 村人たちには不評だった。

「うーん……」

 アイリは考え込む。

 魔女としてサーラから知識はある程度学んでいる。

 それを知識のない人たちに教える難しさに彼女は直面した。

「まずは精霊の説明が先じゃない?」

 とエルが笑いをかみ殺して助言する。

 彼女はアイリの肩に乗っていた。

 村人の視線を集めているが、ただそれだけなら平気らしい。

「あ、そこから……」

 アイリはハッとした。

 ターニャの反応が最初悪かったのはもしかして。

「精霊っていうのは自然の化身。神様と同一と考える人も多い存在です」

 と説明する。

「それなら何となくはわかる。神様だもんな」

「呼び方が違うってことか」

 村人たちはうなずきあう。

 神様と同じと言うとわかりやすいらしい。

「その子ども、もしくは分身と呼べるのが精霊なんです」

 アイリはここぞとばかりに話す。

「子ども?」

「そうだったのか」

 村人たちの視線がエルに集まる。

「あたしの感覚じゃたしかに子どもかな。あたしたちって自分の意思をそれぞれ持ってるからね」

 エル自身が認めたので、妖精は子ども説の勝ちが決まる。

「エルは大地の娘ってことは、大地の精霊が親なのよね?」

 とアイリが聞く。

「そうだよ。ちゃんと許可とって遊びに来たよ」

 エルは胸を張る。

「おお……」

 村人たちが感激の視線を妖精にぶつけた。

「許可をとってるのね」

 アイリが意外そうに言うと、

「とらない子が多いのは否定できないかも」

 エルも苦笑いする。

 アイリのイメージは的外れではないらしい。

「妖精様と仲良いなんてすごいね」

 と女性のひとりがアイリに話しかける。

「そうでしょうか?」

 アイリが首をかしげてエルを見ると、

「どうだろうね」

 エルはニヤニヤと悪い表情ではぐらかす。

「もう、いじわる」

 アイリは頬をふくらますが、彼女は態度を変えない。

 村人たちはやはりアイリを畏怖の念で見る。

「そう言えば」

 アイリはふと思い出す。

「みなさん、集まってよかったんですか?」

 貧しい村は毎日忙しい。

 これだけの人数が集まるなんて珍しいはずだ。

 妖精はそれほど大きいだけでは、彼女はなんか納得できない。

「ああ、いまは仕方ないんだ」

 と村長が苦い顔で答える。

「トラブルですか」

 アイリは昨日の様子を思い出す。

 村の大人の男性がいっせいに戻ってくるなんてあり得るだろうか。

 ないと断言する根拠はなかったので、昨日はスルーしたのだが……。

「うむ」

 村長は肯定したあと黙ってしまう。

 村人たちはみんな暗い顔で沈黙する。

 どうしよう、とアイリは思う。

 あたたかく受け入れてくれた人たちに何か恩返しをしたい。

 だが、はたして自分は役に立つのか。

「リエルがいたら……」

 誰もが天才と認める妹がいれば、どれだけ心強いだろう。

 自分を思えば複雑だけど、困ってる人たちの前では些事だ。

「リエルって?」

 エルが聞きとがめる。

「わたしの妹。天才なのよ」

 とアイリは自嘲を抑えて答える。

「ふうん」

 エルはじっと彼女を見て、

「あなたはどうしたいの?」

 と聞く。

 アイリはうつむいた。

「……力になりたいけど、わたしなんかじゃ」

 何もできない。

 ただの泣き言だと思えたので言葉を飲み込む。

「あなたがその気なら、あたしも手を貸してあげよっか?」

 とエルが申し出る。

「え、いいの?」

 アイリは目を丸くした。

 妖精たちはとても気まぐれだ。

 さっきまで仲良かったのに、いまから絶交なんて珍しくない。

「エルが協力してくれるなら何とかなるかも?」

 アイリは村人に聞こえない声量で言う。

 エルはあくまでも大地の娘で、苦手もあるはずだ。

「ふふ。ドラゴンに乗った気持ちでいなさいって、ニンゲンは言うんだっけ?」

「うん。詳しいね?」

 「安心しろ」という意味の言葉をエルが用いたことに、アイリはびっくりする。

「ふふん、ちょっとね」

 エルは意味ありげに微笑む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る