第11話「適任かなぁ?」

「一、二、三……」

 アイリは両手で目を隠してゆっくり数える。

 エルは彼女の隣に浮かんだまま真似をしている。

「五十」

 になったところで彼女たちは子どもたちを探す。

「村の中だけってルールだけど、難しいかな」

 とアイリはつぶやく。

 何しろ彼女は昨日来たばかり。

 生まれたときから暮らす子どものほうが土地勘はある。

「どこから探してみる?」

 エルは何も考えずワクワクしている。

「そうね」

 アイリはつられて笑みをこぼす。

 せっかくの遊びなのだ。

まずは楽しんでみよう。


「……子どもってすごいね」

 開始五分程度でアイリは泣きそうになった。

 まだひとりも見つからないのである。

 五十程度で何ができる? 

 なんて思っていた過去の自分に苦笑するしかない。

 子どもの敏捷さをあなどりすぎた。

「あたし、手伝おうか?」

 とエルが提案する。

 いままでアイリのあとをついてきただけだ。

 退屈させていたかと思ったので、

「うん。魔法とかはなしでね」

 と条件付きで依頼をする。

「うん、目で探すんだよね」

 エルは返事した。

 彼女が妖精の力を使えば遊びにならない。

 伝わっているようでアイリは安心したが、

「じゃあ上から探そっと」

「へっ?」

 最初からエルは彼女の予想を超えた。

 飛べるという特性を活かして、上空から村を見下ろす。

「おっ? あそことあそことあそこにいるね」

 そしてたちまち三人を見つけてしまう。

 エルが指摘したのは立派な木の上の葉の陰。

 次に近くの家の裏に立てかけてある薪の裏。

 続いて家の屋根の上に寝そべる生意気な男子。

「そんなのアリ⁉」

 子どもたちは不満たらたらでアイリたちの下に来る。

 負けを認めたのではなくて、抗議しに来たらしい。

「どうしよう……」

 アイリは悩む。

 飛ぶのは禁止というルールはたしかに設定しなかった。

 反面、子どもたちが不満を持つのも理解はできる。

 エルは気にせず残りの子どもたちを見つけてしまうが、

「飛ぶのってありなの⁉」

「魔法が禁止なら、飛ぶのもなしなんじゃ?」

 子どもたちは誰も納得していなかった。

「そりゃそうよね」

 アイリだって同じ立場だったら釈然としない。

「えー、ルールは守ったよ?」

 エルはにこりと笑う。

 わかっててやったな。

 なんて考えがアイリに浮かぶ。

 そこに村長を含めて六人の大人たちがやってくる。

 昨日と違い、腰が引けた印象なのはエルがいるからだろう。

「おお、本当に妖精様じゃ」

「初めて見た。ありがたや」

 涙を流す者と手を合わせて拝む者に分かれる。

「ええ……」

 さっきまで楽しそうだったエルは、一転していやそうな顔になった。

「エル?」

 とアイリが声をかけると、彼女の背中に隠れた。

「ああいうの苦手なのよね」

 何とかして、とエルに言われる。

「何とかってわたしが?」

 できるわけない。

 アイリはぎりぎりのところで言葉を飲み込む。

「あのう」

 仕方なく先頭にいる村長に話しかける。

「おお、魔女ちゃん」

 名乗ったはずなのに覚えてもらえてない。

 ちょっと悲しくなりながら、アイリはエルの気持ちを伝える。

「苦手みたいなので、ひかえていただけないかなと」

「す、すまない。初めてお会いできたのでつい」

 村人たちは我に返って反省する。

 理性的な判断力が残ってて何よりだ。

「珍しいですよね」

 とアイリは理解を示す。

 故郷でも彼女が妖精と出会ったとき、初めて見たと驚く大人があとを絶たなかった。

「うむ……」

 村人たちはソワソワしている。

 エルに姿を見せてほしいらしい。

 アイリは察したが、彼女に頼まなかった。

 珍獣あつかいをいやがる妖精は多いし、彼女も似たような経験をしている。

「そっと遠くから見守るってできませんか?」

 アイリは妥協案を言ったつもりだ。

 妖精を見るなと村人に言うのは酷だろう。

「そうだな……」

 大人たちは仕方なくアイリたちから距離をとる。

「平気?」

「うん。ありがと」

 エルはようやく機嫌を直し、

「アクシデントだったね」

 と笑みをこぼす。

「大丈夫そうね」

 アイリが答えたとき、

「お前たち、妖精様と知り合えたありがたみをわかってるか?」

 子どもたちが大人たちに言われていた。

「うへえ」

「わぁあ……」

 エルとアイリの声が重なる。

「せっかく楽しかったのに」

 エルのつぶやきに不満がたっぷりだ。

 友達感覚で接してもらえてうれしかったらしい。

「何とかしてくれない?」

 とエルが頼む。

「わたし?」

 アイリは彼女と目を合わせ、自分を指さす。

「適任でしょ?」

 エルは何を言ってるのかという顔だ。

「適任かなぁ?」

 アイリは懐疑的だった。

 妖精という存在を知っている程度なのに、大丈夫だろうか。

「あたしが言ったら、どんな反応されるかわかんないし」

 というエルの言葉はおそらく正しい。

 大人たちが過剰反応を示すのは、アイリでも想像できる。

「たしかに妖精ってどういう存在か、教えておいたほうがいい気はするかなぁ」

 とアイリは考えはじめる。

 妖精がほかの妖精を引き寄せることもあるらしい。

 エルだけであの態度なのに、増えたりしたらどうなるか。

「わたしがズレてたらエルが止めてね?」

 とアイリは条件を出す。

「そりゃそうよね」

 エルは自分しかできないと引き受ける。

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