第4話――メールの主


「例のメールの送信元を辿りました。名前は村上加絵むらかみかえ、二十一歳の看護師で都内の病院で働いていました」


 サイバー捜査部の福留香織ふくどめかおりは、背後で画面を眺めていた刑事二人を振り返って言った。黒髪を後ろでまとめ社会人一年生を彷彿させるようなフレッシュさを感じなくもない。

 また画面に向き直ると、そのあどけない見た目を裏切るかのような目にも止まらぬ素早いタイピングを再開した。


「働いていました? 今はいないってことか?」


 九十九つくもが福留の後頭部を見つめながら訊くと彼女は画面に向いたまま答えた。


「一か月前から突然出勤しなくなったそうで」


 九十九はいぶかしげな表情で問い返した。


「看護師の仕事が嫌になって辞めたか?」


 福留は首をかしげながら淀みない口調で言った。

 

「何の連絡もなしに急に来なくなったと。携帯に連絡しても出ず職場の人が身内に連絡をとろうとしましたが、病院に届け出ていた電話番号は現在使われていないものでした。で、てっきり自主退職したものだと思い、病院側も放置してたみたいです。両親共に亡くなっているみたいで、親族とも連絡がとれません」


無断退職むだんたいしょく? ……最近の若い子って、こういうの多いんですか? せめて辞める時くらいの挨拶は常識でしょ。親の顔が見てみたい」


 そばにいた二十代後半の松村まつむら刑事が呆れた様につぶやいた。

 すると、すかさずその冗談めいた呟きに応えるように福留がキーボードを弾くような音を鳴らしながら真顔で返答した。


「親の顔はわかりませんが、のなら。病院関係者に問い合わせたら同僚が写真を提供してくれました。これが村上加絵むらかみかえです」


 松村は思わずまじろいで目を白黒させた。

 

 「仕事はえー……」

 

 男性刑事二人は、その画面に表示された写真に顔を近づけた。


 仕事の合間に撮ったものだろう。

 休憩室らしきところで白の白衣とズボンを履いた女性が三人写っている。

 二十代か、三十代くらいに見える女性二人が腰を掛けて笑顔でピースサインをし、その右背後で同じ年代くらいの女性一人が立っている。

 

 「村上はどの女性だ?」

 

 九十九が問い掛けると、福留は右端に立っている笑顔の女性を指差した。

 

 「彼女です」

 

 少し茶色がかった髪を後ろでまとめ、端正で面長な顔、大人びた雰囲気で外見では二十五、六歳ぐらいに見えた。

 写真を見た松村が、

 

「見た目はまともそうですね。もしや、病院に来なくなったのは事件に巻き込まれたとか?」


 そう言うと、九十九がその写真を見つめたまま呟いた。


「このメールの送信日時は事件の前夜だ。少なくとも、それまでは生きていたってことだ」

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