第2話――ホトケの姿

「名前は。西野裕子にしのゆうこ

 ファッション家具を扱うカタログ雑誌の編集長。突然、悲鳴が聞こえたので社員が駆けつけると、トイレで倒れている彼女を発見。救急車を呼んだが到着時には既に死亡が確認されています。年齢は三十六歳で独身、都内のマンションに住んでいたみたいです」


「……何だって?」


 五分刈りで無精髭面の九十九つくも刑事は聞き間違いかと咄嗟に相棒の松村まつむらに訊き返した。

 対照的に綺麗な面構えをしている二十代後半の松村は戸惑いながら読み返した。

 

「年齢は三十六歳で独身、都内のマンションに住んで……」


 松村は困惑した表情で免許証を九十九に渡した。

 四十代半ば過ぎの九十九はその女性の顔写真をマジマジと眺めた。

 その小さな枠の中には長髪の黒髪を上に上げた三十代ぐらいの、いかにも仕事のできる気の強そうなキャリアウーマンが黒のスーツ姿で収まっている。


「どう見ても、別人だろ」


 事実、今、目の前に横たわっているのは、白髪頭で顔がせ細った八十代、……いや、九十代過ぎにも見える女性だった。

 

「彼女、俺より一回り近くも年下に見えるか?」


 九十九は松村の方をちらっと向きながら言った。

 

「じゃあ……この遺体は一体、誰なんですかね?」


 松村は呆気にとられるばかりだ。

 九十九は遺体に向き直りながら呟いた。

 

「……それを言うなら、本当の西野裕子はどこだ?」


「九十九刑事。彼女の携帯です。この画面のままトイレの床に」


 鑑識かんしきの男性捜査員が携帯を差し出してきた。

 九十九はそれを受け取りロックのされていない画面に顔を近づけた。

 見るとメールアプリの画面がそのまま表示されたままだ。

 九十九は目をらしながらその内容を読みあげた。

 

「『西野さんへ。村上です。先日は、突然あんなこと、ごめんなさい』」


 そばにいた松村が顔をのぞかせながら続きを声に出した。

 

「送り主は、『村上加絵』……」

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