結実 その四

「でも、本当にクチナシ様なんてものがいたとして、どうやって見つけて、そして、どうやって祓うんですか?」

『見つけ方は正直分からん。でも、あの猿渡とかいう使用人の聴取を読んだか?』


 猿渡……たしか、黒田家につかえる使用人で、クチナシ様の誕生に立ち合い、そして精神が錯乱し村人を喰い殺したという男の名だ。確かに、報告書に猿渡への事情聴取の内容がまとめられていた。


「はい。読みました」

『あの爺さん、死ぬ間際に『鳴らない鈴を持て』って言い残してるんだよな』

「確かにそんなことが書いてありましたね。それがどうしたんですか?」

『その鳴らない鈴ってのを探してみようかと思う』

「なぜですか? それでクチナシ様の居場所が分かるんですか?」

『いや、たぶん違う。おそらくこれは魔除けの類だ』

「魔除け? だとしたら、クチナシ様を見つけようとする私達にとっては不要じゃないですか」


 むしろ寄ってきて欲しいのである。


『そうなんだが、鈴ってのが気になってな』


 鈴と言えば、神社で参拝の際に鳴らすものだし、お守りにも必ずと言っていいほど付いているものだ。詳しくは知らないが魔除けとしてはありがちなシンボルなのではないのだろうか。


「鈴って魔除けとして良く用いられるものなんじゃないんですか?」

『ああ、まあそうだな。でもな、鈴の魔除け効果ってのは一般的にはその宿ものなんだよ。でもな、この爺さんが言ったのは鳴らない鈴だ。これじゃあ、魔除けの効果はないに等しい』

「じゃあ、逆に悪いモノを呼び寄せる力があるんですかね?」

『いや、それも違うだろう。あの爺さんの一言は明らかに警告だった。やはり魔除けの類と考えるのが自然だ。これは俺の単なる思いつきなんだが……なあ、敷島さん、ってどんなときだと思う?』

「鳴らない鈴が鳴るとき……分かりません。でも、そんな事あり得ないんじゃないですか? だって、鳴らない鈴なんですから」

『そう。あり得ないよな。だから、なんじゃないか?』


 彼が何を言わんとしているのか、なんとなく分かった気がした。


「鳴らない鈴が鳴るときっていうのは、つまり……」

『クチナシ様が近くに居るときなんじゃないか? つまり一種の警報装置なんじゃないかと考えているんだ』


 ありえなくは無い話だ。いや、十分に説得力がある。


 そして、それが本当だとしたら、その鈴を持っていればクチナシ様の接近を感知できる、つまり探し出せるのだ。


 その鈴が手に入るとしたら、一体どこか? やはりあの村であろうか。すべての家屋を調べたわけではない。まだ調べていない家のどこかにそのような鈴が置いてある可能性はある。


「なるほど……その鈴があるとしたらやっぱりあの村でしょうか?」

『可能性としてはそれが一番だろうな、あるいは……』

「あるいは?」

『咬ヶ島か』

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