44話。教皇に勝利し、勇者を滅ぼす

「【全快(キュアオール)】!」


 身を焼くを魔剣の黒炎を、教皇クレメンスは最上級回復魔法で、一瞬で鎮火させた。


「はぁあああああッ!」


 俺は雄叫びと共に、斬撃を何度も繰り出す。

 【全快(キュアオール)】は、状態異常までは治せない。


 【黒雷(くろいかずち)】による麻痺と、【毒沼(ポイズン・レイク)】による毒が、教皇クレメンスを蝕み、その体捌きが格段に悪くなっていた。

 畳み掛けるなら今だ。


「おのれ、惰弱な闇属性クラス風情がッ!」


 教皇クレメンスが忌々しげに叫ぶ。

 光属性クラスより劣っているハズの闇属性クラスに追い詰められるのは、さぞかし屈辱だろう。


 教皇が俺を聖剣で弾いて、強引に突き飛ばす。

 俺は【瞬間移動】で、教皇の背後に回り込んで魔剣を振り下ろした。


「なにぃいいいッ!?」


 教皇は辛うじて直撃を避けるが、背中を浅く斬られて、たたらを踏む。

 ヤツの足元は毒沼と化しており、敏捷性が殺されていた。


「これが俺が積み上げてきたモノだ。極めた闇の力は決して勇者に劣らない!」


 例え神が、闇の力は光の力に劣ると定めていようとも、使い方次第で、その不利を覆すことができる。


 教皇が隙を見せた瞬間、俺は【ヘルファイア】を【自動詠唱(オートマジック)】に設定した。

 呪いの火炎弾が、雨となって休みなく教皇に降り注ぐ。


「ぬぅっ!? 【起死回生】!」


 教皇は勇者のスキル【起死回生】を使った。どんな傷や状態異常も24時間に1度だけ、たちどころに癒してしまう奥の手だ。


「残念だが、これで逆転だ。消えよ!」

「くっ……!」


 教皇が光の聖剣を振りかざす。

 【ヘルファイア】を教皇は光の魔法障壁で防ぎ切っていた。


 ヤツの斬撃を受け止めるも、腕が痺れて俺のラッシュが止まる。

 攻守交代とばかりに、教皇クレメンスは剣を連続で叩きつけてくる。

 クソっ、後衛職である俺にとって、接近戦は不利だ。


「カイ! 【時間倍速(タイム・アクセラレーション)】!」


 その時、戻ってきたコレットが俺にバフ魔法をかけてくれた。

 聞いたことも無い魔法だった。これは【時の聖女】特有の魔法かも知れない。

 教皇の動きが、ゆっくりと緩慢なモノになる。いや、これは……俺の動きが加速しているんだ。


「うぉおおおおお!」


 俺は教皇クレメンスの攻撃を、ギリギリでかわす。

 奴が剣を戻すより先に、カウンターで教皇の胴を斬った。黒炎が教皇の身を包む。


「離れよぉおおおッ!」


 教皇は俺に向かって、衝撃波を放った。

 ダメージを与えるのではなく、相手を弾き飛ばすことを目的とした光魔法だ。


「回復など、させるかぁああああッ!」


 俺は【瞬間移動】で、すぐさま距離を詰めようとするが、魔法が発動できない。

 これは……


「カイ、闇の魔法を封じる光の結界よ!」


 コレットの声が届く。見ればバルコニーの床に、闇魔法を封じる破邪の魔法陣が輝いていた。

 教皇も無策に戦っていた訳ではなく、この光の結界を密かに構築していたのか。


「今さら、気づいても遅い! 闇の魔法を封じれば、貴様の戦力は激減だ」


 バルコニーに生み出した毒沼も消えていた。

 俺は歯軋りしつつも、突進する。

 教皇クレメンスは余裕の笑みで、俺を迎え撃つ。


「させぬのじゃ!」


 グリゼルダが猛然と教皇に向かってダッシュした。


「バカめ、貴様なんぞに……!」


 光の聖剣で迎撃しようとした教皇が、目を剥く。

 グリゼルダが突如、疾風のごとく超加速したのだ。

 ……これはコレットが【時間倍速(タイム・アクセラレーション)】をかけたのか!?


「お前の相手はこっちだ!」


 挟撃を仕掛けるべく、俺も魔剣を振り下ろす。


「ぐぅ!?」


 教皇が俺の魔剣を弾いた瞬間、俺はグリゼルダに【魔剣召喚】のスキルを貸し与えた。


「来るのじゃ! 魔剣ティルフィング!」

「なんだとぉおおおおッ!?」


 グリゼルダの手に魔剣が移動し、教皇の胴を薙いだ。


「終わりだ教皇クレメンス!」


 さらに俺は手に魔剣を呼び戻す。苦鳴と共に身を折った教皇に、トドメの斬撃を浴びせた。


「まさか、人類の救済者たるこの余がぁああああ!?」


 教皇は身を裂かれ、黒炎に焼かれながら、バルコニーから落下していった。


『勇者を倒しました。おめでとうございます。歴史に残る大偉業です。【イヴィル・ポイント】5000を獲得しました!』

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