45話。真の英雄として祝福される

「……勝てたのか」


 俺はその場に膝をつく。

 魔力を限界近くまで消耗していた。


「うん! 勝てたのよ。すごいわ、カイ!」


 コレットが俺の肩を抱いてくれる。

 今にも崩れそな程に傷んだバルコニーから見える聖王都からは、人々の歓喜の声が溢れ出していた。


 教皇のスキル【生贄の聖剣】の効果が無くなり、みな元気を取り戻しつつあった。


「ほら、聞いて! みんなが、あなたの名前を呼んで、讃えてくれているわ!」


 コレットの言う通り、人々は地を揺るがす程の勢いで、カイの名を叫んでいた。


「ありがとう、カイ様!」

「俺たちの真の英雄!」

「教皇を倒してくれて、ありがとうぉおおッ!」


 ……こ、これは? 

 どうやら投影魔法が解除されておらず、ここでの会話は聖王都中に筒抜けになっていたらしい。


「ハハッ、まさか、こんな日がやってくるとは、思いもしなかったな……」

「お父様ぁあああ!」


 アンジェリカ王女が駆け寄ってきて、もはや虫の息の父王に縋りついた。

 王女は父が心配で、まだ近くにいたらしい。


「アンジェリカ……こ、これからは、お前が女王として立つのだ。そして、カイ殿と末永くよしみを結ぶがいい……聖教会とは手を切れ」

「待って下さい、お父様! わたくしにもこの国にも、まだお父様が必要です!」


 父とは憎しみ合うしかできなかった俺には、その光景がとても眩しく見えた。

 最後の賭けだ。


 俺は聖王を救う可能性があるスキルを、ステータスボードから必死に探し当てる。

 これだ……!


『【イヴィル・ポイント】1000を消費して、スキル【魔法ブースト】を修得しました。

 スキルレベルがアップしました!

 スキルレベルがアップしました!

 【魔法ブーストLv5】になりました。

 あらゆる魔法の効果を1度だけ5倍に強化できます。クールタイム24時間。対象を指定することで、自分以外の仲間の魔法を強化することも可能です』


 【魔法ブースト】。強力ではあるがは、クールタイムが長すぎる欠点のために、修得を後回しにしていたスキルだ。


「えっ、これは……」


 いたたまれなそうに聖王たちを見ていたコレットが目を瞬いた。

 俺がコレットに【魔法ブーストLv5】の効果を付与したのが伝わったのだろう。コレットの身体が、淡い光に包まれる。


「コレット、回復魔法を聖王陛下にかけてくれないか? 今なら、5倍の効果を発揮できるハズだ」


 光の聖剣の特殊効果は【回復阻害】であって、回復無効化ではない。聖女の回復魔法を5倍の威力で撃ち込めば、聖王を救うことができるハズだ。


「うん! わかったわ……【全快(キュアオール)】!」


 眩しい光のシャワーが聖王に降り注ぐ。

 これまで見たどんな光属性魔法よりも、強力かつ清らかな輝きだった。


「……なっ、こ、これは?」


 今まさに、死の淵に落ちようとしていた聖王は、狐につままれたような顔になった。


「お、お父様……!?」


 アンジェリカ王女は、身を起こした父王にビックリ仰天する。

 聖王の傷が塞がり、顔に血色が戻ってきていた。


「これほどの効果が出るなんて……!」


 魔法を使ったコレットも、唖然とする。


「聖女コレット殿の力なのか……? 歴代聖女の誰よりも優れた力ではないか!?」

「いえ、聖王陛下、違います。これはカイの力です。私ひとりでは、とてもこれ程の回復魔法は使えません」

「なんと! ……ふふふっ、そうか。聖女の力を最大限引き出す。まさにコレット殿の伴侶にふさわしいのはカイ殿ということであるな」


 聖王陛下が快活に笑うと、コレットは頬を真っ赤に染めた。


「改めて礼を言うぞ、カイ殿。そなたのおかげでワシも、この聖王都も救われた」

「ありがとうございます。カイ様!」


 アンジェリカ王女も頭を下げる。


「礼など不要です。俺はコレットとの幸せな未来を築きたかっただけですから。そのためには、聖王陛下にはご健在でいただかないと」

「はぅっ……ちょ、ちょっと、恥ずかしいわよカイ!」


 俺はコレットを抱き上げた。

 もう2度と離すものかという想いを込めて。


「……カイ様、本懐を遂げられ、誠におめでとうございますのじゃ。このグリゼルダ。これからも、どこまでも、魔王カイ様にお供いたしますのじゃ!」


 グリゼルダが片膝を突いて、俺に平服した。

 目尻に涙を光らせ、喜んでくれているようだった。


「ありがとうグリゼルダ。俺だけじゃ、教皇クレメンスには勝てなかった。俺にはグリゼルダが必要だ。これからも、四天王筆頭として、俺を支えてくれ」

「はい、なのじゃ!」

 

 教皇クレメンスは滅びた訳ではない。

 コレットを狙う聖教会との対立は、おそらく激化していくだろう。


 グリゼルダは本来なら魔王となっていた少女だ。まだまだ教えたい闇魔法がたくさんあるし、きっともっと強くなっていくに違いない。


 なにより魔王といっても、俺は魔族領のごく一部を支配しているに過ぎない。

 聖女であるコレットと結婚し、聖王国と同盟を結べば、俺に反発する魔族も数多く出てくるだろう。

 そういった面でも、グリゼルダの補佐が必要だった。

 グリゼルダが居てくれれば、俺も安心だな。


「じゃあ、コレット。約束通り、結婚式を開こうか」

「……うん、カイ! 大好きよ!」


 聖王都を揺るがす大歓声の中、俺はコレットと固く抱き合った。

 俺たちはもう決して離れることはないだろう。


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名前 :カイ=オースティン

クラス:黒魔術師(ダーク・スター)

レベル:999

スキル:【魔剣召喚】。【従魔の契約】。【アイテム鑑定】。【闇属性強化Lv10】【MPドレインLv5】

【死神の手】【斬撃強化Lv50】【ハッキング】【鑑定偽装】【高速詠唱】【光耐性Lv5】【魔法ブーストLv5】

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