5章。最終決戦。勇者の最期

42話。決戦、教皇クレメンス。最強のスキルを修得する

「……それにしてもまさか、真の平和を実現させたのが、勇者ではなく魔王であるとは……【暗黒の紋章】を持つ者が邪悪であるなどとは、とんだ偏見であったということだな」

「聖王陛下、その偏見はまだまだ根強く続くでしょう。もしよろしければ、【暗黒の紋章】持ちは、魔族領に送ってください。俺が引き受けましょう」


 俺と聖王は笑いあった。


「そこまですでに考えておるとは……おぬしはまさに王の器であるな」


 その瞬間、ゾクッとするような殺気を感じた。


「……カイ様、危ないのじゃ!?」


 地を蹴ったグリゼルダが、俺とコレットを突き飛ばした。

 光の一閃がよぎり、バルコニーが縦に大きく切り裂かれる。

 グリゼルダの右肩が裂かれ、鮮血が噴き上がった。


「グリゼルダ!?」

「魔王との和平を、我が許しもなく勝手に決めるとは……その罪、万死に値するぞ聖王ラムサス」


 バルコニーに着地したのは、光の剣を手にした勇者アレスだった。

 柄の部分しか残っていない聖剣から、光の束が伸びて刃を形成していた。

 なんだあの剣は……!? 光属性の魔力が凝縮されて、物質化しているのか?


「【ダーク・ヒール】!」


 俺は倒れたグリゼルダに回復魔法をかける。

 だが、なぜか効き目が極端に悪い。傷口がまるで塞がらなかった。


「……カ、カイ様。ご無事じゃったか?」


 グリゼルダの目は、虚ろで焦点が合っていなかった。


「ああっ、無事だ! 俺もコレットも……!」

「カイ! 彼女は【回復阻害】の力を受けているみたいよ!」


 コレットがグリゼルダの容態を見て叫んだ。

 【回復阻害】!? ということは、回復魔法も回復薬も効果が極端に悪くなるということか。


「……がっ。ま、まさか、あなた様は教皇クレメンス様!?」

「お父様!?」


 聖王も身体を深く斬られて、血の海に倒れていた。

 アンジェリカ王女が、聖王に取りすがっている。


「コレット、アンジェリカ王女を避難させてくれ!」

「……う、うん!」


 コレットが俺の一言で弾かれたように動いた。


「姫様、急いでこちらへ!」

「嫌ッ! コレット、お父様を助けてぇええ!」


 アンジェリカ王女が懇願するが、敵が【回復阻害】の能力を持っているなら、いくらコレットでも無理だ。


「その光の剣は……スキル【生贄の聖剣】を発動されたのですか? おおっ、ま、まさか……」


 身を震わす聖王は、絶望に打ちのめされているようだった。


「そうだ。魔王の軍門に下った愚かなる聖王国の者ども。その罪を、我が光の聖剣【ブリューナク】の一部となって贖うのだ」


 声音はアレスだが、口調となにより性格がまるで違う。

 コイツは一体、何者だ? 教皇クレメンスだって? いや、それよりも……


「まさか、【生贄の聖剣】とは、人々を生贄にして力を得るスキルか!?」


 俺は問い質した。

 バルコニーから見える聖王都の様子が一変していた。路上に人々が倒れて、喉を掻きむしるようにして、苦しんでいる。

 彼らの身体から光の粒子が立ち昇って、光の剣に集まってきていた。


「察しが良いな魔王。そうだ。聖王都中の者たちから生命エネルギーを奪い、この光の聖剣を形成しているのだ。これこそ、我がクラス【審判者】のユニークスキル【生贄の聖剣】。邪悪を討つために、神より与えられし力なり!」


 アレスが誇らしげに掲げた光の聖剣からは、勇者の聖剣【デュランダル】より、はるかに強大な力を感じた。


「余は人類を救済する究極の戦士を生み出すために、ずっと魔法薬の研究をしてきたのだ。今の余こそ、その答え。勇者の身体を奪い、【勇者】と【審判者】ふたつのクラス能力を合わせ持った最強無比なる存在だ。魔王カイ、2週目の世界に入り【隠しクラス】を得たというお前で、この性能を試させてもらうぞ」


 教皇クレメンスは嘲笑った。

 その身から強烈なプレッシャーを感じる。

 魔法薬【レベル・ブースター】を服用してレベル800まで上昇している上に、俺と同じく複数のスキルで強化されているようだった。


「アレスの身体を乗っ取ったのも、その魔法薬の研究成果という訳か……? 究極の戦士を生み出す。そのために、お前もコレットの力を欲しているんだな!?」

「そうだ。なにより、【時の聖女】は、世界の救済に必要な者なのだ。これからは、余が直接、【時の聖女】を管理する。貴様はここで消えるが良い」


 俺の全身に怒りがみなぎった。


「お前の思い通りにさせるものか!」

「……カイ様、もうこれ以上、わらわに魔力を使うのは……」


 グリゼルダが俺の手に触れた。

 俺は駄目元で、【ダーク・ヒール】をグリゼルダにかけ続けているが、出血は止まらず容態はどんどん悪化している。

 クソッ、これでは助からない。


「グリゼルダ、お前が死んだら、俺もサーシャも悲しむぞ。魔王の娘はどんな逆境でも、弱音を吐かないじゃないのか?」

「……カイ様のお役に立って死ねるのじゃ。父上もきっと、あの世で褒めてくれよう。じゃから……」

「この光の聖剣【ブリュナーク】に斬られた者は、神に召される定め。その娘は決して助かりはせんぞ」


 教皇クレメンスが光の聖剣を構えた。

 【回復阻害】は、どうやらあの剣の特殊効果のようだ。

 そうか、なら……一か八かだ!


「さあ、余と戦え魔王。いつまでも、そのようなゴミに関わっているな。余を楽しませろ。究極のクラスの力を見せるのだ」

「ゴミだと……?」


『【イヴィル・ポイント】1000を消費して、スキル【光耐性】を修得しました!

 スキルレベルがアップしました!

 スキルレベルがアップしました!

 スキルレベルがカンスト! 

 【光耐性Lv5】になりました。

 光属性攻撃に対する耐性を得るスキルです。光属性攻撃のダメージ、特殊効果が50%軽減されます。』


「カイ様……?」


 俺は修得した【光耐性Lv5】をグリゼルダに貸し与えた。

 それによって、【ダーク・ヒール】が効果を発揮し、グリゼルダの怪我が回復に向かいだす。


 やはりか。この【回復阻害】の力は光属性。なら、【光耐性Lv5】で弱めることができるかも知れないと考えたが、当たりだった。


「……な、なぜじゃカイ様! 奥の手の【イヴィル・ポイント】を、な、なぜ、わらわのためなんぞに?」


 グリゼルダが涙声になった。


「当たり前だ。グリゼルダは俺にとって、大切な存在だからな」

「あっ、ああぁ……!」

「それに、俺は他人をゴミ呼ばわりする奴が、死ぬほど嫌いなんだ。ゴミの力がどれほどのモノか、コイツに教えてやる!」

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