10 音楽祭

 音楽祭当日がやってきた。

 ソフィア達3人の出番は、3年生で注目度も高いため最後から2番目だ。

 ちなみにトリを務めるのは、2年生の子爵家の次男イーサンで、卒業後にプロデビューが決まっている未来のチェリストだ。



 3人は出番を待つ間、数日前の出来事を思い返していた。

「まさか、リリアーヌ嬢が私たちの三重奏に加わろうとするなんて驚いたわね」

「あの時ソフィーがフラグを立てていたもの」

「そんなつもりはなかったのよ。ちょっと反省しているわ」


 結局、リリアーヌは正式な婚約者候補にはなれなかったにもかかわらず、ダミアンのゴリ押しで王子妃教育に無理やり参加していたのだ。


 5日前、リリアーヌが急に音楽祭に出たいと言い出し、自分も同じ妃教育をうけているのだから参加する資格がある、三重奏を四重奏にしろ、と騒いだのだ。

 リリアーヌが使ったことのある楽器はリコーダーとピアノで、ピアノは片手で簡単な童謡のメロディーが弾けるようになったのだとか。


 3人はリリアーヌをなだめようと努力はした。


「今回は、婚約者候補としてではなくて、クラスメイトの3人として演奏しますのよ」

「この楽曲にはリコーダーのパートはありませんの。それに私たちも何カ月もかけてやっとここまで来ましたのよ。あと4日でこの曲をマスターするのは難しいと思いますわ」


「それなら、簡単な曲に変えてくれてもいいじゃない。意地悪ね」

 リリアーヌも食い下がる。


「直前になってエントリー曲の変更はできませんのよ。プログラムの印刷も終わっていますし、進行とか多方面に影響が大きいからなのよ。それに3年生は難易度の低い曲ではエントリーできないルールなのです」

「庶民上がりだからレベルが低いってバカにしてるのね! ダミアン様に愛されている私に嫉妬して、のけ者にするなんてひどい!」

 そう言って、リリアーヌ嬢は癇癪を起こし部屋から出て行ってしまったのだった。



「彼女の王子妃教育も、歩き方とか姿勢を正すとか、そこからですものね」

「私たち先生を取られてしまって、自習状態……」

「やっぱり一緒に教育を受けるのは無理があるわ。王妃様に直訴したほうがいいかしら」


「もうすぐ出番よ。こんな気持ちではいい演奏ができないわね」

「そうね、ベス。私たちは演奏を楽しみましょう。マリィのアレンジのところもきっと喜んでもらえるわ」

「そうね。頑張りましょう」



 結果として3人の演奏は、無事成功した。

 観客からたくさんの拍手をもらって一安心だ。



 レオナルドとルイスは、他国の王族・来賓として特別席で音楽祭を楽しんでいた。

 前評判通り彼女たちの演奏は息がぴったりで、婚約者候補に選ばれた令嬢としても相応しいものだった。

 その後の2年生イーサンのチェロも学生のレベルをはるかに超えており、感動で涙している観客もいたくらいだった。


 普段、芸術面では辛口のルイスも絶賛していたので、この学園の音楽祭は本当にレベルが高いと言えよう。


 ただ、レオナルドはあの令嬢がこのホールに姿を見せることがあるかもしれない、そんな可能性にかすかな期待を抱いていたため少しテンションが低めだった。

 この後のダンスパーティーでソフィア嬢と踊る約束はしたものの、「令嬢を探しているレオナルド」と踊るのは、ソフィア嬢にも迷惑がかかるので辞退するつもりだ。



 音楽祭のプログラムが終了した後、リリアーヌは、ダミアンを人気のない校舎の一室に連れ込んで、涙ながらに訴えていた。

「ダミアン様ぁ~、本当ならあのステージに私も立っていたはずだったんです。くすん」

「そうなのか?」

「でもあの3人が私のことをバカにして『平民上がりの下手くそが、私たちの演奏に加わるなんておこがましい』ってのけ者にしたのよ。私、婚約者候補として認めてもらいたくて一生懸命なだけなのに」

「なんということだ。もう少しマシな令嬢達だと思っていたがとんだ見込み違いだな」

「しかもぉ~、王子妃教育の時は、実技? とか言ってリリアーヌだけ、無駄に歩かせたり、きつい姿勢を強制したり、ひどいのよ。あの人たちはただ座って本を読んだりしていて、私のことを無視しているの。あれはイジメよ」

「ひどい奴らだ。リリアーヌの真剣な思いを踏みにじるとは。どいつもこいつも俺の婚約者にふさわしくないな。今までは父上の顔を立てていたが、今回ばかりは我慢ならん。一旦婚約者候補を白紙にしよう。そしてほとぼりが覚めたら、君を王子妃にしたいと父上に願い出よう」」

「本当!? ダミアン様ぁ、嬉しい~」

 リリアーヌはそう言ってダミアンに抱き着いた。

 本命はレオナルドなのだがキープも必要なのだ。

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