9-1.【事例6】マシンガンのように説教する先輩

 この事例は、私が工場に勤務していた時に起こったものです。


 ある時、私に、本社にいる先輩から仕事の電話が掛ってきました。その先輩は、非常に癖のある人で、部下の誰かを捕まえては、些細なことをネタにネチネチと何時間でも叱り続けるといったタイプの人でした。


 さて当時、私のいた会社では、計画されているプロジェクトで、A法を選ぶか、B法を選ぶかという局面にさしかかっており、近々、どちらにするかを最終決定しなければなりませんでした。


 ただ、この選択はそんなに難しいものではなく、誰が考えてもB法が有利と思えるようなものでした。部分的にはA法にも有利な点があったのですが、プロジェクト全体を考えるとB法が優れていたのです。


 そんな時、私にその先輩から電話がかかってきたわけです。その電話の内容は、「お前はA法かB法か、どちらが良いと思っているのかを聞きたい」という確認でした。


 私はもちろんB法にすべきだと考えていました。そこで、私は、その先輩に「〇〇

という観点を考えるとA法になりますが、ここはプロジェクト全体を考えてB法を選ぶべきだと思います」と答えようとしました。


 そして、「〇〇という観点を考えるとA法になりますが、しかし、ここはプロジェクト全体を考えて」というところまで、しゃべった時に、突如、その先輩が私の話をさえぎって、次のように、まるでマシンガンを乱射するがごとく、猛烈な勢いで、しゃべり始めたのです。


 「永嶋。それはまったく違う。A法はこういう問題があるんだ。だからA法は選ぶべきではないんだ。A法にするというお前の考えは間違っているぞ。いいか・・・」


 そして、先輩は、まさにマシンガンのような勢いで、私に話をさせる余裕を一切与えず、一方的に実に30分以上話し続けたのです。30分というのは決して誇張ではありません。その時、私の机の正面の壁に大きな時計がかけてあり、私はその時計を見ながら電話で話していたのですから。また、マシンガンというのも決して誇張ではなく、その先輩は私に話す余裕を一切与えず、しゃべり続けたのです。


 その間、私の電話の応答は次のようなものでした。


 「・・・はい。はい。・・・ですから、私もB法がいいと・・・・・はい。そのとおりです。・・・・だから、B法がいいと私も考えています・・・・・いえ、A法がいいといっているのではなくて・・・・あの、少し、話を聞いていただけませんか・・・はあ・・・はあ・・・だから、私もB法が・・・いえ、同じことを言っているのですよ・・・・あの、少し、私にも話をさせていただけませんか・・・ですから、私もB法がいいと・・・・・いえ、A法がいいのではないのです・・・」


 この私の電話のやりとりから、お分かりいただけると思いますが、先輩は、私がA法がいいと言っているという前提に立って延々と30分以上しゃべり続けたのです。途中、私が「私もB法に賛成です」とか、「少し、しゃべらせてください」と言っても、先輩は一向に話すのをやめませんでした。


 そもそも、私は「〇〇という観点を考えるとA法になりますが、しかし、ここはプロジェクト全体を考えて」という言い方で話を始めています。逆説の接続詞の「しかし」が入っているわけですから、後に続く文は「B法がいいと思います」に決まっています。


 しかし、先輩は、マシンガンのように話を続けて、最後は「・・・とにかく、お前の言うA法はダメだからな」と言って、一方的に電話を切ってしまいました。私は、30分以上の長電話で心身ともにすっかりくたびれ果ててしまい、もう一度、その先輩に電話をする気力もなくしていました。ただ、もう一度電話したとしても、再び同じことが繰り返されただけでしょう。


 そして、それから少し経ったときのことです。本社から工場に出張でやってきた人が、私にこう言ったのです。


 「XX君(その先輩の名です)が、『工場の永嶋はA法がいいと言っている。あいつは馬鹿だ』と本社で言いふらしているよ。ところで、永嶋君、君はなぜA法がいいと思うんだね?」


 私は、さすがにばかばかしくなって、その人には簡単にいきさつだけを話しました。その人は、「ふ~ん」と言って、私の話を聞いていましたが・・そんなに親しい人ではなかったので、「私がA法がいいと言っている」という話がウソだと思ってくれたのかどうか、ということまでは私には分かりませんでした。


 そして、私がその件でもうその先輩と話すことはありませんでした。しかし、30分以上にわたり相手のマシンガンのような話を、それも意図して私の考えを曲げようとする話を、休みなく聞かされたのは大変な苦痛であり、私は大きなストレスを受けたのです。


 実は、この話には後日談があります。


 そのあと、そのXX先輩とは何回も顔を合わせましたが、幸いにも同じ職場になることもなく、仕事を一緒にすることもなく、私は電話事件のようなことを再体験することはありませんでした。


 さて、その話からもう10年は経った時のことでしょうか? 私は、後輩社員の一人からある相談にのってくれませんかというメールをもらいました。さっそく、仕事が終わってから、彼と一杯飲みに行き、話を聞きました。彼の相談の内容はこの話には関係がありませんので省略します。そして、相談が一段落ついて、後輩と雑談していた時でした。彼がこんなことを言い出したのです。


 「実は、前々から不思議に思っていたことがあるんですよ。永嶋さんとXXさんの間に、一体何があったんですか? XXさんは、事あるごとに、いろんな人に『永嶋には管理能力がない』とか『永嶋は最低だ』とか、永嶋さんの悪口を言いまくっていますよ。私から見て、永嶋さんに能力がないとは、とても思えませんので、あれはXXさんが永嶋さんを悪く言っているだけだと思うのですが、一体二人の間に何があったのですか?」


 私は、この話を聞いて、びっくり仰天しました。


 そのXX先輩とは、例の電話事件以来、何度も顔を合わしていましたが、普通に会話をかわしており、XX先輩からはそのような悪口は出ませんでした。毎年、お互いに年賀状も出していました。このように、XX先輩とはごく普通に接しており、仕事での接点もなかったので、私には悪口を言われるような覚えはまったくありません。


 しかし、後輩の話ではXX先輩は、どうも電話事件以来10年間に渡り、陰で私の悪口を言い続けてきたようなのです。私にはどうしても、そのXX先輩の攻撃の理由が分かりませんでした。しかし、10年も陰で悪口を言い続けた陰湿さを考えると、大きなストレスが頭や肩にのしかかってくるような、重苦しい圧力を感じたのでした。


 以上が【事例6】の私のストレス体験です。


 さて、皆様には、この【事例6】とよく似たご経験はありませんか? また、もし皆様がこの【事例6】の私の立場だったら、皆様はこの事例のストレスから逃れるにはどうしたらいいのでしょうか?


 それでは、次回にこの【事例6】を、エリック・バーン(Eric Berne)のゲーム分析で振り返ってみたいと思います。


 エリック・バーン(Eric Berne)のゲーム分析につきましては、『2. なぜゲーム分析で人間関係が改善するのでしょうか?』に記載していますので、読者の皆様は適宜読み直していただければ幸いです。

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