8-2.【事例5】「ねえ、君」のゲーム

 さあ、この【事例5】のゲームはどう解釈すればいいでしょうか? 

 

 実は、このゲームは「ねえ、君」と呼ばれるものなのです。これは、『親しい間や仲間内ではどんな無礼も許される』という点を利用するゲームです。


 状況は、【事例3】と極めてよく似ています。しかし、【事例3】は、事業部が「なんでも言いなさい」というゲームを仕掛けてきたもので、私に提案をさせて、もしも、、横取りしようと企んだのでした。この事例では、私は当初から「1日16バッチまでできる」と公言していましたので、「1日16バッチまでできる」というという点で、【事例3】とは異なることが分かります。


 つまり、【事例3】の「なんでも言いなさい」のゲームでは、提案を出させるためにゲームを仕掛けるというものでした。一方、この【事例5】の「ねえ、君」と呼ばれるゲームでは、初めから存在している提案を、悪意を持って利用するために、ゲームを仕掛けているのです。


 そして、この「ねえ、君」のゲームでは、ゲームを仕掛けるのに、人間関係が利用されるのです。

 

 例えば、男性社員が、会社で毎日顔を合わせている女性社員に「ねえ、君、最近ちょっと太ったね。いや、冗談だよ。冗談。アハハハハ」などと、軽口めかして話しかけるケースなどがあげられます。男性社員は冗談と言っていますが、実はその裏には、恨みや悪意が隠されているのです。これは、『毎日顔を合わせて、よく知っている間柄だから、冗談の一つも言っていいだろう』ということを利用して、悪意のある冗談を女性社員に浴びせるというものなのです。


 さて、私の事例を見てみましょう。


 私は1年間かけて、そのプラントのデータを採取したわけですから、そのプラントの課長、製造班長、技術班長も当然よく知っている間柄でした。これを逆手にとって、課長は「よく知っている間だから、どんな無理を言ってもいい」という「ねえ、君」というゲームを私に仕掛けてきたのです。


 しかし、そこには、やはり悪意が潜んでいました。うまくいかなかったら、すべての責任を私に押し付けよう、一方、うまくいったら、すべての功績を横取りしてやろうという悪意なのです。


 このゲームも、会社などの組織の中でよく見られるものです。先ほどの例のように、同じ職場の人とは、毎日顔を合わすわけですから、どんな人であっても、会社の中ではある程度は自然に親しくなるものです。その「親しさ」を利用して、面倒なことは押し付け、自分に有利なことは横取りしようという悪意に満ちた行為が、この「ねえ、君」というゲームを使って公然と実施されるわけです。


 課長は、よく知っている私に対して、「生産計画の調整に失敗したので、我々は明日から1日14バッチの運転に入りたいのだが、もし失敗して何か起こったら、お前が全責任を取ってくれ」と言っています。課長が一番言いたかったのは、「もし失敗して何か起こったら、お前が全責任を取ってくれ」という「無理な要求」であることは間違いありません。しかし、こんな「無理な要求」を初対面の人間に言えるわけがありません。こんな無理は、どうしても、よく知っている人間にしか言えないのです。そして、私は、課長にとって『よく知っている人間』というわけだったのです。


 こうして、課長は『よく知っている人間』である私との『親しさ』、『人間関係』といったものを利用して、「もし失敗して何か起こったら、お前が全責任を取ってくれ」という「無理な要求」を私に引き受けさせようとしたのです。


 このように、「ねえ、君」というゲームは、『親しさ』や『人間関係』を利用して、悪意を持って「無理な要求」を引き受けさせたり、先ほどの、会社で毎日顔を合わせている女性社員との会話のように、軽口めかして悪意ある冗談を浴びせたりするものなのです。


 しかし、そこには、必ず悪意が潜んでいます。


 したがって、もしこのゲームを仕掛けられたならば、相手が要求してくる「無理な要求」をがんとしてはねつけて、絶対に受け付けないという姿勢を貫くことが大切になります。また、悪意ある冗談は相手にしてはいけないのです。


 「無理な要求」をはねつけると、たいていの相手は「困っているんだから、何とか頼むよ」と義理人情の世界に引きずりこんで、なんとか「無理な要求」を承諾させようとしますが、そこには相手の悪意が隠されていることを絶対に忘れてはなりません。


 よく、友人にお金を貸して、その友人から、お金がないので代わりにこの品を受け取ってくれと頼まれ、結局、二束三文の品物で借金を帳消しにしてしまったという話を耳にします。これなど、『人間関係』をうまく利用した、悪意のある「ねえ、君」のゲームにほかならないのです。


 とにかく、私の事例のような「ねえ、君」のゲームを仕掛けられたら、絶対に相手の要求をのまないことを肝に銘じてください。私の場合は、自分の検討に自信がありましたので、課長の要求をのみましたが、現実には、こういった対応はあまりお勧めできません。というのは、このゲームは、すべて悪意でできていますので、あなたが相手の要求をのんで、良い結果を残しても、その結果は私のように横取りされる可能性が極めて高いからなのです。


 相手がもし、ということを、よく理解してください。


 「ねえ、君」のゲームの対処法

 相手の「無理な要求」に乗らない。相手がもし、あなたの真の友人ならば、あなたに迷惑のかかる「ねぇ、君」のゲームを仕掛けてこないということを肝に銘じる。

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