第三十六話 「Четвертая редакция(第四編集局)」

「(どうしたらいいか分かんねえな...)」


「あ、太田デスク! 面下の記事、明日も


 「礼文、ゆかりのデートスポット巡り!」


 で平気っスよね?」


「ああ、オッケー、全部、OKだ」


ロシア、モスクワ、藻須区輪亜部新聞第四編集局。


「それにしてもおかしいなー」


「・・・何がだ?」


「いや・・・」


とりあえずの所、この所


この藻須区輪亜部新聞から姿を消した


河野に代わって、第四編集局の


編集長代理を任せられた太田だったが...


「いや、河野支局長、もうかなり


 こっち(藻須区輪亜部新聞)に


 顔出してないスよね・・・


 何かあったんじゃないですか?」


「(・・・・)」


第四編集局の中央に並べられた、一般社員が


机を並べている編集長席寄りの席に座りながら、


太田は自分の斜め前の席で


憮然(ぶぜん)とした表情を浮かべている


巨漢社員、中根を見る


「・・・一応、今は、ドイツのEarth nEwsの


 本社にいるとかっつってましたよね?」


「・・・・」


この所、この第四編集局に姿を見せない


河野の存在を気にかけ、中根がその事を


現在編集長代理をしている太田に向かって


問い質すが、その太田としても二週間程前に


河野が「Earth nEwsに向かう」


と言っていたのは覚えているが


それ以来この部署に対する連絡はまるで無い


「・・・いつもだったら、社を空けても


 一週間くらいのモンじゃないスか。


 それが今回は河野支局長...


 二週間くらい、こっちに


 顔見せて無いスよね...」


「(・・・・)」


"分からない"


アロハシャツに身を包んだ太田は、


中根の言葉に河野の事について考えてみるが


何も分からないし、分かっても


仕方が無い事だと思い、暖房をかけ過ぎて


室温が上がり過ぎた局内で、


ビーチサンダルを履いたまま


露出している足の親指の毛を引き抜く


「・・・ああ、あれじゃないか?


 あの... 忙しいとか....


 色々、あるんだろう。」


「でも、こんだけ長く社を空けてると


 河野支局長に許可取らなきゃ


 いけない事とか結構あったりするんスが...」


「分かんねえな...


 オッケー...たぶん、オッケーだ」


「あ、太田デスク――――」


「礼文....」


二人が河野の不在について話し込んでいると、


局外から同じく太田と同じ役職のデスクである


礼文 健一が、机の前まで


書類を持ちながらやって来る


「いや、大変ですよ...」


「・・・何がだ?」


引き抜いた親指の毛の数を数えながら、太田は


自分の机の上にあるハワイに見立てて置いた


花飾りや、様々なハワイ調に施した


机の上の物を動かしながら


自分の側に立っている礼文を


気の無い表情で見上げる


「いや... 河野局長も


 こっち帰って来てないみたいですけど、


 一局の... あの酒飲みのロシア人...」


「スサケフスキか?」


"ガシャッ"


机の上に置いたマカデミアナッツの箱を開けると


ハワイに行きたいと思いながら、


その箱に入ったチョコレートを太田が一つ取り出す


「あ、それ、一ついいスか」


「いいけど・・・」


「――――すまんス。」


"ガササッ!"


食べたい、と思い斜め前の席に座っていた


中根がチョコレートの箱に手を伸ばして来る


"ガサッ! ガササッ!!"


「(この野郎・・・)」


「別に、一つじゃ無くて二つとか、


 三つとか食べても構わんスよね?


 どうせ、ハワイ土産か何かなんでしょう?」


「ああ、でもあんま、取り過ぎんなよ」


「へへ、すまんス....」


「・・・それで、一局に行ったら、


 スサケフスキ編集長もここ最近


 出社してないみたいなんですよね・・・」


「ああ、そうか」


礼文の一言を聞いて、太田は


ハワイのビーチを思い浮かべる


「・・・・」


「礼文、お前は何か食べ物を持ってないのか?」


「い、いや、俺は食べ物は持ってないです」


「そうか・・・ あ、太田さん。


 チョコレートもっと食っていいスか」


「いや、もうダメだ」


「・・・・」

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