第九話 「ситуация(状況)」

"ザシャッ ザシャッ ザシャッ ザシャッ....


「(・・・・)」


"ビュオオオオオオオ......


「(とりあえず、レベデワ...


  あの、N/Sだとか言う、


  ロシアの諜報機関の捜査員達の


  姿は見えなくなったが....)」


閉ざされた世界、その、


ザクーティェ・ミーと呼ばれる世界の


奥深くにある岩肌の中へと入り、とりあえずの所、


自分達を追って来たN/Sと呼ばれる


警察組織の様な物から逃れた河野は、


軽く吹雪が吹きつける雪の中を


あても無く歩いて行く....


「(一応、追って来た奴らからは


  何とか逃れたが、かと言って状況が


  好転した訳でも無さそうだな....)」


"ヒュウウウウウウウウゥゥゥ....


「(・・・・)」


何の目的で存在しているかすら分からない、


この視界に広がった一面雪の世界を訪れる前、


河野は、自分の部下である江母井によって


"赤い槌"


と言う、旧ソビエトの


国旗の象徴となっていた国章の話を


レベデワとツベフォフがしていた事を聞かされ、


この場所に来る以前の数週間程、


自分の身の回りに不可解な出来事が


起きていた事と合わせ、自分の部下である


江母井と共に、このАбсолютная-Øで


働いていた"レベデワ"に


何か、通常の女性作業員からは感じない


違和感の様な物を感じ、その違和感が何か


確かめるため、この所頻繁に連絡を取り合っていた


ロシア通信省大臣、


"フォエドシー・エレメンコフ"


と密会していた....


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【Oh,Jesus...!

(おお.... まさかっ....!)】


【・・・?】


ロシア、モスクワに程近い場所にある


チェルノゴロフカ市。


【"Red Hammer"...! You just said so!

("赤い槌"....!


 君は、今、そう言ったのか....!)】


【Yes.

(...ええ)】


深夜、このチェルノゴロフカにある


"贈答品"の受け渡しのために


定例の密会場所となっている教会の中で、


河野はかなりの"受け渡し"を繰り返し、


ある程度親しい間柄となった


今目の前にいる通信省の大臣


フォエドシー・エレメンコフと向かい合う...


【Tzvefov. And the "Red Hammer"!

(....ツベフォフ...そして、"赤い槌"....!)】


【・・・・!】


"カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!"


【Oh...! Ohhhhhh!

(おお...! おおおぉっ...!)】


【・・・・】


カンッ、! カンッ、! カンッ、! カンッ、!


【(何だ――――?)】


河野の口から出た、"赤い槌"、


そして、自分もある程度は知別のある


"ツベフォフ"の名前が出た事に


フォエドシーは、革靴の音を響かせながら


教会の中を無暗(むやみ)に歩き回る


【I was told by my men in Moszogorlov that


 "Lebedeva" and "Tsubefov",the director of


 Абсолютная-Ø, had exchanged the word


 "red hammer" many times...!

(...どうも、モフソゴルロフにいる


 部下に聞いた話だとあの、"レベデワ"、そして


 Абсолютная-Øの所長である


 "ツベフォフ"はその赤い槌と言う言葉について


 何度もやり取りをしていたと...!)】


【Kono....!

(・・・、コウノ....!)】


"カッ!"


教会の中を歩き回っていたフォエドシーが


突然足を止め、少し離れた場所に立っている


河野に向き直る


【Perhaps this may be related to Krum...!

(もしかすると、これは、


 クラム※(ロシア中枢政府機関)が


 関わっているのかも知れないぞ...!)】


【・・・・!】


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


"ビュオオオオオオォォォォォ―――――


「(フォエドシー大臣の話だと、


  赤い槌、は旧ソビエトの国章....


  そして、現在でもその赤い槌、


  ソビエトの国章を組織の


  徽章(きしょう)として使用する組織が


  このロシアには存在する―――)」


"N/S

(нация・щит=

ノーツェ・シート[国家の盾])"


「(一見、隆和から聞かされた話は


  あまり意味の無い


  やり取りの様にも思えるが、


  この所の様子....そして、あの


  "レベデワ"の話を聞けばあの女が、


  何かN/Sと関りがある可能性は


  十分ある....)」


"ビュオオオオッ――――!"


「(・・・・)」


自分のアパートに置かれていた物の配置が


不自然に変わっていた事、


そして、隆和から何となく聞かされていた


レベデワの様子、ツベフォフ、


Абсолютная-Ø....


様々な周りの状況を考えると、


一つの推測が浮かび上がってくる――――


【(あの、レベデワだとか言う女は、


  ただの新人社員でも何でも無く、


  何か、別の....


  "目的"があって俺達に近付いて


  来たんじゃないか...?)】


自分がロシア通信省の大臣である


フォエドシーと不正な贈収賄をしている事が


露見したのでは無いか、


その事について考え、詳しい話を聞くため


自分の部下達には現在自分が在籍している


もう一つの通信社、Earth nEwsに戻ると


伝え、その足で河野は


Earth neWsの本社があるドイツとは


完全に反対の方角に走るシベリア鉄道、


Ахалтеки́нец линия

(アハルテケ・リーニャ)


に飛び乗り、長い列車の時間を経て


このモフソゴルロフまで来ていた...


「(レベデワ....)」


"ヒュオオオオオオオオオ....!


「(・・・・)」


だが、その話を聞くためにこの施設を訪れた所で、


レベデワ、そしてN/Sの捜査員達が


ツベフォフ、そして自分の部下である


隆和を逮捕しようとしている所に居合わせ、


成り行きで、河野はN/Sの捜査員に


暴行を加えていた....


「(・・・話を聞くだけのつもりだったが...)」


"ザッ!"


「(・・・・これから....)」


"ビュオオオオオオウウウッ――――"


吹雪が吹き付ける中、雪の中で立ち止まると


殆ど何も見えない、自分の先へと広がっている


暗い、表情を感じさせない様な


雪の世界を見上げる....


「(・・・・)」


ある程度


"そうでは無いか"


そう思っただけで、本当に


国家治安維持局であるN/Sが


自分に対して捜査をしているとは思っていなかった


「(・・・あの様子だと、なぜか


  あいつら(N/S)はツベフォフも


  逮捕するつもりだったみたいだな・・・)」


「ヘヘッ―――!」


「・・・・!」


"ザシャッ、ザシャッ ザシャッ


ザシャ――――ッ!


「スサケフスキ・・・」


「―――ドウシタッテンダイ?


 "ゴウナ"スワン・・・?


 ズイブン、ウカネェカオ


 シテルミタイジャネェクワッ?」


「・・・・」


"ヒュオオオオオオオオオオオ―――――"

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