第53話 クラリス、帰省から帰って来て

「魔族が?それで、大丈夫だったの」


 夏期休暇で帰省した私達クラリスとジオ。学院に帰ってみれば、ミルキィが再び魔将と相対してたって。


 それに、襲われたのは王都で騎士オズボーン家に滞在中。近衛騎士団や魔導師団も動く大事になったみたい。魔将はまた不平貴族をも扇動してミルキィを襲わせていた。学院もだけど、近衛騎士団も事を重く見て、近衛騎士団長サムス侯爵の責任進退問題になっているとか。


「魔界へ帰りましょう」

 魔将はミルキィに、そう語り掛けたって。


 まるでミルキィが魔族であるかの様に。


 いくら魔人族とは言えミルキィの身体能力はおかしいって陰口になったみたい。


 噂にもならず陰口で済んでるのにはワケがある。

 ミルキィが魔人族なのは証明されてるから。


 彼女は平民一般入試で入ってきてる。

 高位貴族ならば、入試は在って無き様な物だけど、平民は点数は勿論生まれ育ちも考査に含まれる。ミルキィは只の平民じゃない。亜人枠だ。


 そして、ミルキィは王宮にも参内してる。

 王宮鑑定士に身体をも診られているの。彼の鑑定を誤魔化せる事は絶対にない。魔族の変化処か動物の擬態をも看過出来るんだから。


 だから上位クラスになるに従い、ミルキィ=魔族が馬鹿げている話って認識になるの。この噂を信じる者は、逆に『常識知らず』のレッテルを貼られてしまう。


 ただ、ランクSの魔物が2匹も従魔になってるのはおかしいって。

 これこそ常識外れだから。


「でも、当たり前に見えるのは何で?」

 久々に出会った無二の親友は、実験実習室で丁度従魔達に餌を与えていた。


 最強蜘蛛種魔物デスタラテクト鉱石亀種魔物アダマンタートルが小皿に盛られた人工餌ペレットをバクついてる姿は、やっぱりペットにしか見えないよ、ミルキィ。


「勿論、出来立てが美味しいから」


 うん、論点違うよ。


 ミルキィが言う事には、蜘蛛タラちゃんの方が美食家で食欲旺盛らしい。物凄い勢いで食べてるもの。鉱石亀キラちゃんは元が雑食性だから、あまり拘りはないとの事。ゆったり噛み締めて味わってる感じに見える。


「おかえりー、クラリス。今日だったっけ?」

「ううん、昨日だったんだけど、少し遅かったの。だから昨夜は王都別邸でね」


 見た感じ、ミルキィの様子はいつも通りだ。


 辺境伯領から急遽呼ばれたのは、王室からの特命で『自白剤』を作る事になったからだと。

 その薬で、王都は粛正逮捕拘禁の嵐になったと、私はケイン辺境伯お父様から聞かされた。その逆恨みで連座を免れた騎士達が、友人宅にいたミルキィを襲ったんだと。



「ミルキィは、私に謝罪に来たんです。彼女のせいじゃないのに。兄が愚かだっただけです。まぁ、ミルキィと一緒に泣いて、やっと気持ちの整理がついたのは確かですけど」

 錬金術科のドリスって娘から聞いた。

 この事からも、ミルキィは自白剤なんてモノの錬成製薬した事に後ろめたさを持ってると思えるし、只の女の子のメンタルでしかないって分かる。


 無敵の英雄ヒーローって訳じゃ無い。



「聞いたわ。魔族が?それで大丈夫だったの?」

「うん、まぁねー」

 流石に笑みに陰があるよ、ミルキィ。


 それでも、気になる事が1つ。

 ミルキィは、魔将を詳しく知ってる。これは知り合いの魔族が、魔界で知らぬ事は無いって程の博識な方だったかららしい。知識として知っているというのなら、多分王宮もそこまで問題にしてない。

 どうみてもミルキィは、魔将と面識がある。

 この間何度か現れている魔将ライガス。彼とは明らかに知己と言える位と思えるモノ。


「今少し、ミルキィの素性を聞いてみてくれ。とは言え友情が優先だ。だからクラリス。お前は絶対にミルキィの味方でいるんだ、いいね」


 分かってる、お父様。

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