第51話 襲撃!魔将の罠

 郊外の、確かに王都の外れだけど、それでも此処は貴族街なんだよ?


 オズボーン家宅の庭で談笑しつつ、ミルキィ達はエリーの案内で邸内へ入ろうとしていたのに。

 門を越えて男達が乱入して来た。


「な、何!貴方達‼︎」


 門に衛士はいないけど、それでも庭を手入れする使用人とかはいる。

「お嬢様!」

 庭師って大地属性魔法を使える者もいて。

石飛礫ストーンブラスト!」

 庭から飛ぶ礫弾が乱入者を叩く。

「ぐはぁ」

「痛ぇ、ちっ!て、テメェらぁ‼︎」


 ピィー!ピィー‼︎


 私は2回口笛を鳴らすと、腕環アイテムボックスを煌めかせて『刈取の大鎌』を装備した。


「な、ど、どっから出した」

「構うな!あんなチビの持つ鎌なんぞ、物の役に立つものか‼︎」


 私は握りの位置を変えて。

 鎌の柄で彼奴らを叩きのめす事にする。


 皆んなの前で人を斬り刻みたくはないし、エリーんチの庭を、あんな奴らの血で汚すのは避けたいから。


 バキッ、バキボキ。


 身体付きはちっこくても、私の力は常人の数倍はある。

「ば、馬鹿な」

「私が魔人族って忘れてないー?」

 あ、顔色変わった。

 マジで忘れてた?それとも知らなかったの?

 え、逃げる?

 逃す訳ないだろー!


 踵を返した乱入者達。

 そこへ大網の蜘蛛の巣が被さってくる。

「な、なんだぁ?」

「ひっ、何?は?ギャアアアア、く、蜘蛛?魔物?」

「こっちにも、か、亀か?何で王都に魔物がいるんだ?」

 この人達、私が魔人族なのも従魔を持つ事も知らないの?


 口笛の合図で、目立たぬ様に後をついて来ていた従魔達タラちゃん・キラちゃんは、猛スピードで飛んで来てくれた。亀種キラちゃんを抱えて飛んでた蜘蛛種タラちゃんは、口笛が聞こえた途端にキラちゃんを離して飛翔したみたい。そしてキラちゃんも火焔放射の要領で後ろ向きだけど、ちょっとだけ放たれた矢みたいに翔べる。


 目の前で網に絡まり、ジタバタしてる乱入者。

 そのままオズボーン家の使用人達に捕縛されていく。

「は、離せ!俺達は貴族だぞ」

「その貴族の館に侵入した賊だ!大人しく観念しろ‼︎」

「な、何を?我々は貴族の名誉を守る為に立ち上がっ…、が、ぐはっ」

 うん、使用人達、ホントに賊としか思ってないね。網の上から叩きのめしてる。


 そして近衛騎士達がやってくる。

 王都の、外れとは言え貴族街での狼藉騒ぎ。当主の騎士オズボーンは不在だとしてもオズボーン家家宰の証言説明で事は足りる。

 私達も当事者として補足説明する。

 事情を聞いた近衛騎士達は、状況的にも私達の言い分のみを信じて、乱入者達を一方的に断じると詰所へと引っ立てていった。


「何なの?アレ」


 私とドリスは分かる。

 例の激震の当事者だし。

 でもエリーやライザは、オズボーン家も魔族の手先と化した裏切者が王都にいた事なんて知る由も無くて。

 秘密保持。

 私にしても、別に厳命された訳じゃないけど。ペラペラと暴露する話でもない。急に襲われて怖かったー、で通す事にした。


 やって来た近衛騎士の中には、先日の状況を知ってる者がいたし、夏期休暇前の魔族暗躍の件で見廻りしていた者もいて、暗に察してくれた。


「全く。こんな事初めてよ…、ね、ミルキィ?」

 エリーが話しかけて来るけど…。


 この気配は?やっぱり!


「暗躍していたの、魔将自ら動いていたって訳?まさかと思ったけど、そうかー!自分以外何も信じてないんだー‼︎」


「当然です。私以上に上手く事を成す者を、あいにく私は知らぬのですよ」


 現れたのは白髪紅眼。頭部両側に大きな曲り角、額に細く長い角を持つ貴公子然とした魔族。


 魔将ライガス。


「さぁ、帰る時が来ました。共に魔界へ帰ろうでは有りませんか」

「…何のつもり」

「もう、その様な魔人族の振りはいいのですよ。貴女の身体ステータスのそれは、誰が見ても魔族なのですから」


 ヒュン。


 パチン!


「私が動揺した隙をついて角でも付けようとしたのかしら?言葉巧みに動揺を誘い、いつの間にか意のままに操る。得意技だったよねー、魔将ライガス」


「ほう。それを何故知っているのですか?それに私の名も。以前会った時に貴女は魔将ダームも知っていましたね。何処で知ったのです?」


 やられた…。


「貴女は知り過ぎているのですよ。そう、まるで魔界に住んでいたの如くね。それに、その魔物!高位魔族でもない限り魔物が従う事はありません。その様な魔人族等いる筈が無いのです。さぁ、もう魔人族の振りは止めるのです。帰りますよ、我等が魔界へ」


 クックックッ。フ、フハハハハハ。

 内心の笑い声が聞こえる。


 …ライガス、よくも…。

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