第23話 王族留学

「申し訳ないが、もう一度言ってくれ」


 ティオーリアの前にいるのは王宮よりの使い。彼が私を訪ねてきた時点で、以前話していた『ミルキィ作の各種ポーションの王宮納品の件』を催促に来たのかと思っていたのだが。


「王太子殿下及び第2王子殿下、それに王女殿下の一時留学の申出をティオーリア学院長には受諾頂きたく、国王陛下たっての希望であると」


 今日は、特Aクラスの迷宮探索実習最終日。

 ジャック=シルバー先生より、胸のすく様な報告が聞けると心待ちにしていた矢先の事、王宮~国王より無理難題の申出を聞かされる事になった。


「王太子殿下は是非もなき事。譲って第2王子殿下迄はと思いますが」

「王女殿下は受け入れられないと?」

「私の記憶違いでなければ、王女殿下は8つだったと思うのですが」

「その通りです。ですが、学院長も王女殿下にかけられた期待をお分かり頂ける筈」


 リアンナ王女殿下の才は『剣聖』。8歳にして、近衛騎士達と互角に近い剣技の冴えを見せていると聞いている。

 またアロン王太子とアライズ第2王子の才は『魔法戦士』だ。


 この2つの才にかけられる期待は大きい。


 何故なら、昇華スキルアップがある。

 そして、勇者の才は昇華でしか現れた事は無い。最初から具現化する才ではないのだから。


 今のところ、昇華したのは『魔法戦士』と『剣聖』だけであり、歴代勇者の殆どが『剣聖』からの昇華だった。


 魔王の侵攻を水際で食い止めてきた歴代勇者。

 そして数100年前。

 勇者アレクが遂に大魔王ベルドを倒し、魔軍を退けたのだ。彼もまた『剣聖』からの昇華だった。


 今のところ、アレクが勇者として顕現して後、勇者の才が現れた事は無い。

 だが、魔族の動きがまた活発になりつつあり、大魔王ベルドの娘レベッカが大魔王として即位したとされている今、勇者への昇華が待ち焦がれているのは間違いない。


 クラリスの父君、モーガン=ケイン辺境伯以来の『剣聖』発現に王国中の期待は高まっている。その期待に応えるべく奮闘しているリアンナ殿下の御姿はややもすると痛々しく感じる場合もあるのだが…。


「実を言うと、これはアロン王太子殿下が言い出した事なのです。多少早いかもはしれませんが、リアンナ王女を同世代の中に置きたいと」


 『剣聖』の期待に応え、近衛騎士団と鍛錬している王女殿下の周りには確かに同世代の少女がいる筈もなく。


 そう。

 今、此処には同世代と言っても良い、ひょっとして勇者パーティの一員かもしれない首席の少女がいるのだ。


 魔人族MIXの錬金術師見習い。

 その戦闘力は学院一とも言える少女が。


 また次席も同じく。

 しかも辺境伯令嬢。王女の側近としても申し分のない存在。


「ミルキィとクラリス。今年度彼女達が入学してきたのも女神サンディアのお導きかもしれない。そう言う事なのですね」

「はい。王太子殿下はそうお考えです」


 事情は飲み込めた。

 とは言え、王族御子息御息女を一気に全て、預かる身にもなって欲しい。

 確かにレクタル学院は王立学校であり、その水準は王国一だ。殿下達の留学先が本校なのは至極当然の事であり、ウチ以外となると他国国立学校を考えるしかない。

 だが、平民亜人獣人も入学出来る門戸の広さがある為に人材の豊富さに於いて他校より1日の長があるのも確かなので、本校以外には国王陛下も考えられないだろうし、それ位の誇りと矜持は陛下は勿論、私を含め当校教授は持ち併せていよう。


「分かりました」


 また暫く、胃痛の日々が始まるのか…。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る