第30話 Clock-25

 ああ。しくじった。


 西岡 仁は暗い空を見上げて思った。

 

 ゴホッ


 口の中から生暖かく、鉄臭い液体があふれてくる。


 腹に3発。胸に2発。

 生きているのが不思議である。


 思えば、自業自得である。

 いままで奪ってきた命を思えば、つけが回ってきただけ。


 だんだんと意識が暗くなってくる。

 そうして・・・意識を手放していった。



 ズキン!!!



 が、激痛によって意識を引き戻された。


 見ると、誰かが傷口にガーゼのようなものを当て・・・その上からビニールのようなものを当て、ガムテープできつく張り付けている。


「な・・・なに・・・しやが・・・・る」


 何とか声を出す。

 すると、そいつが仁の眼の前に顔を見せてきた。


 仁は、その顔に見覚えがあった。


 ついこの間、そいつを・・・その少年を仁は撃った。

 驚く少年の顔。忘れられなかった。

 仁は子供を撃ったのは前にも後にもそれが初めてであった。


 橋の下に消えていったその少年。

 それが目の前にいて、仁の顔を覗き込んでいる。


「へ・・・死神が・・迎えに来たって・・か・・・?」


 仁の言葉に、その少年は冷静に答える。


「救急車は呼びました。死ぬかどうかはあなた次第です」

「なに・・・かってな・・・」

「勝手にさせてもらいます。あなたにはこの間殺されかけましたから」


 あぁ・・やっぱり、あの時の子供か。

 もう、仁は声を出すこともできない。

 朦朧とする意識の中、救急車のサイレンを聞いた気がした。


「来たようですね。それでは、僕はここまでとします。では」


 意識を手放す前に、聞いた少年の声。

 仁は・・・少年が生きていたことに・・・らしくもなく安堵したのであった。





 再び、仁が意識を取り戻したのは白い部屋の中であった。

 仁の口を覆っている酸素吸入器。


 自分の体を見下ろすといろんな管がつながれている。



 どうやら、今回も死なずに生き延びたらしい。


 それは・・・おそらくは、あの少年に助けられたんだろうなぁ。

 

 あの少年の顔。

 仁の脳裏に焼き付いて離れなかった。


 

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