第29話 Clock-24

 朝。英治は目を覚ました。

 だが、目の前にやわらかい何かがあって何も見えなかった。


”なに?・・・いったい、ここは・・・どこ?”


 だんだんと記憶が鮮明になってきた。

 昨日、楓さんの部屋に泊めてもらうことになった。

 なにしろ、来ていた服を洗濯したあと乾いていなかったのだ。


 しかし、一緒の布団に寝ることはさすがにまずいと言って英治は断った。

 英治が床に寝ると言ったのに、楓さんは自分が床に寝ると言ってきかなかった。


 はずなのに・・・


 今はベッドの中で楓に抱き枕にされていた。 

 やわらかい胸に抱きしめられ、顔をうずめている。


”SJH"#&'$!!!”


 声にならない声を上げようとしたが、しっかりと抱きしめられている。


 う・・・やばい・・・・

 生理現象による反応下半身に感じて腰を離そうとした。


「う・・・ううん・・」

 しかし、楓が英治に足を絡めてきて、それもままならない。


 その後、スマホのアラームが鳴るまでの15分間。なんとか楓の拘束を逃れようとする英治と寝ぼけている楓との無言の争いが続いたのであった。




「あ!英治兄ちゃんおはよう!」


 帰ってきた英治を見つけた隣の家の美緒が、ててて・・・とやってきて抱きついてきた。


「おっと・・・おはよ、どうした?」


 抱きついてきた美緒を受け止めた英治。

 美緒は、英治のジャンパーをクンクンとにおいを嗅いで顔をしかめた。


「・・・いつもとにおいが違う・・・」

「え・・?」

「なんか、このにおい嫌!」

「ええ・・・」


 ふくれっつらの美緒。


「あぁ・・せ・・・洗剤を変えたからかな?」


 答える英治に対し、美緒はさらににおいを嗅ぐ。


「洗剤じゃないもん。英治兄ちゃんのにおい。いつもと違う!それに・・・なんか、女の人のにおいがする!」

「いやあ・・・気のせいだよ。あはは・・・」


 ボディソープも変えたと言って、何とか美緒をなだめ・・・家に帰ったのはさらに15分後であった。




 自室のベッドに倒れこむ。

 だが、むくりと起き上がり、デスクの上のパソコンを立ち上げる。

 何しろ、持っていたスマホはずぶぬれになって動作しなくなっていた。


 まず、目に入るのは・・・少年が撃たれて行方不明とのニュース。

 タクシーの運転手は無事だとのこと。


 昨日見た、どのニュースとも異なる結果であった。


「あの占い師さんおかげかな・・・」

 こんど、お礼に行かないと・・・と思う。


 そして・・・机の引き出しから取り出す・・。


 フィイイイイイ

 カチッ・・・カチッ・・・・


 ファンの音と主に立ち上がるスマホ。

 そこに表示されたニュース。英治は、愕然とし・・・悩んだ。

 

 殺人事件。

 今日の夜、21時ごろに事件は起こるらしい。


 いつもなら、ここまでは悩まない。

 だが、スマホの電源を落とした後も・・・英治は悩み続けるのであった。


 

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