第25話 Clock-20

 街灯も少ない暗い裏通りを、時田英治は一人で歩いていた。

 頭の中では、思考がフル回転していた。


 ブカブカのジャンバーの下では腹の上に厚い雑誌をベルトでくくり付けていた。

 そして、その上に金属性のトレイをガムテープで張り付けている。


 それだけやって・・・5回中3回は英治が死ぬことになっている。

 だが、残り2回は誰も死なない結果となった。

 そこまでが時間的に精一杯の状況で家を出てきたのだ。


 それでも・・・他にできることはないか、歩きながら考えている。

 だが、何も思いつかない。刻一刻と、その時間が迫っている。


 もうすぐ繁華街に近づく・・・その時。


「もし、そこの少年。ちょっとお待ちなさいな」


 突然、声をかけられて英治は驚きビクッと体を震わせた。


 声のほうを見ると、街灯の下の電柱の横に小さな折り畳みのテーブルを置きフードのようなものをかぶった人物が座っていた。

 机の上には四角い箱のようなものに書かれている文字。

 占い・・街角で占いをする、辻占い師のようだ。

 時代劇やドラマなどでは見たことはあるが、本物は初めて見た。


「少年、そんなに急いでどこに行くのかな?」


 フードと思ったのはショールのようなものをかぶっている。そこからの覗いている長い黒髪。顔を上げたため、街灯の明かりで見えた顔は・・・物凄い美女であった。


 英治はポカンと見てしまった。


「おせっかいかもしれないけどね、少年・・そっちに行ったら悪い運勢が出てるよ。結構な確率で死ぬかもしれない。悪いことは言わないからおうちに帰りなさい」


 カードをめくりながら、その占い師は微笑みながら言った。


 英治は、唇をかみしめた。

 まさか、この占い師はこれから起こることを知っているのだろうか。

 だとしても・・・行かないという選択肢はない。


「絶対死ぬというわけじゃないですから。死なない未来もあります」

「ほお・・・少年も危険があるってわかっているのかい。でも、それでも行くのは何のためだい?」


 占い師はカードをテーブルに広げ、めくりながら言う。


「・・・これは・・・呪いみたいなもんです」

「呪い?」

「だから、行かないという選択肢はないんです。大丈夫、8割くらいの確率で死なないですから」


 本当は違った。

 5回に2回は・・死なない可能性がある。


「へえ、少年。君は・・自分の未来を知っているのか・・・興味深いねぇ」


 赤く・・ルージュを塗られた唇で微笑み。占い師はカードをめくる。


「あなたの占いでは僕は死ぬでしょうか?」

「そうだね、高確率で・・・あんたが、どうやってそれを知ったのか、興味あるわぁ」


 占い師は、嬉しそうに言った。


「そうですか・・」


 英治は繁華街の方を見た。決意は変わらないようだ。


「あんた・・まだ若いのに面白いねぇ」


 すると、占い師はクックックッと笑った後、立ち上がった。

 どこから出したのか、英治に手渡したのは・・・缶コーヒーであった。

 まだ温かい。

 小さな、ブラックコーヒーの缶。


「これはラッキーアイテムだよ。ポケットに入れておくといい。私からのおごりだよ」

「はぁ・・」


 英治は手渡された缶を見る。何の変哲もない缶コーヒー。

 それをジャンパーのポケットに入れる。


「ありがとうございます。じゃあ、急ぎますので」

「少年とはまた会うこともあるだろう。その時を楽しみにしているよ」


 死ぬかもしれない。それでも、行かないわけにはいかなかった。

 占い師に話しかけられたことで、逆に覚悟は決まった。


 英治は占い師に背を向けて歩き出した。

 

 誰もいなくなったくらい路地裏で、占い師がカードをめくる。

 カードに描かれているのは、運命の輪。


「少年は間違いなく未来を知っているね。だが、魔法使いではない。興味深いねぇ・・」

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