14話「初めまして一組」

 理事長が他の学園の存在について話し始めると望六は自然とその話を聞いて頷いていた。

 どうやらその話によるとこの名古屋第一高等学園の他にも【東京第二高等学園】や【大阪第三高等学園】があるらしいのだ。しかもそれらの学園は全て校風や方針が違うらしい。


 ここ、優司達が入学した名古屋第一高等十字神道学園の特質は陰陽師を目指している人達が多いらしいのだ。そして第二学園は祓魔師エクソシストを目指している人達が多くて、第三は陰陽師と祓魔師が半々と言った所らしい。


 更にここで祓魔師という言葉が出てきが学園の名前にもある通り、十字という言葉は十字架を意味しているらしいのだ。これも理事長が説明していた事だが第一から第三の学園は全てイタリアのバチカン、通称【カトリック教会】と日本の陰陽師達が共同で設立した学園らしいのだ。

 

 つまりイタリアにも同様の学園がある上に、祓魔師を目指す者が少なからず居るという理由もこれで納得がいくだろう。だが優司はそれらの話を一変に聞かされると……、


「色々と一気に言われるとなんか頭が混乱してくるな」


 他の学園についての所在は分かったが色々と疑問点も浮かんできて右脳が痛くなった。


「祓魔師って悪魔を払う人達だった気がするけど……。日本の悪霊って海外では悪魔と同等に見られているのか?」


 彼の隣で幽香が手を顎に添えながら考える仕草をして呟くと、確かに悪魔と悪霊では共に悪という漢字が付いているだけで本質は違うのではないだろうかと優司は何気なく思った。

 しかしそこで理事長が再び口を開いて新入生達へと語り掛け始めた。


「この歳になると話す事が長くなっていけないですね。ではこれを最後に私からの挨拶は終わりとさせて頂きます。世の中の科学的に解明できない事件や事故を解決する為に作られたこの学園で、新入生の方々の若い力を是非下さい。……以上です」


 その理事長の静かに力の篭ったような声は優司達、新入生に頼み込むような感じで決して強制力のあるものでは感じられなかった。そして挨拶を終えた理事長は静かに壇上から降りていくと、まるで入れ替わるようにして一人の女子生徒が壇上へと上がってきた。


「ん、あの人は誰だ? 次はなにが始まるんだ?」


 優司は壇上へと上がっていく女子に視線を向けて独り言を放つと、タイミングが合ったのか体育館のスピーカーから男性の声が聞こえてきた。


「次はこの学園の現生徒会長の挨拶となります」


 恐らくだがこの男性は司会役の人なのだろう。

 理事長の紹介の時にも同じ声だったことからそう予想出来るのだ。


 けれど今の彼はそんな事よりも、視線の先に映る生徒会長の事が気になってならない。

 その理由は至って簡単だ。生徒会長の容姿が余りにも美少女だからである。


 綺麗な茶色の長髪は光に加減によっては金色に見え、表情は凛としていて、身長はそこそこ大きく、そしてやはり二年という事で体の成長具合は圧倒的だった。

 そう、胸が大きいのだ。これは例えるならまるまると成熟したスイカに近いだろう。


 ……それから生徒会長と呼ばれた女子が壇上に設置されているマイクへと顔を近づけると、


「初めまして新入生の諸君。私が生徒会長の【天草夕香里あまくさゆかり】だ。学年は二年だが、気さくに”ゆかりん”と呼んでくれたまえ」


 自らの名前と学年を告げてくると、瞬く間に会場内には驚きとどよめきの声が木霊し始めていた。だがそれも必然と言えばそうだろう。


 何故なら壇上で挨拶をした生徒会長はあの三大名家の一つ、天草という名を持っているからだ。

 ……しかし彼女が最後に放った”ゆかりん”と呼んでくれも多少なりとも影響しているかも知れないが。


「えっえっ!? あの人があの天草様なのか!?」

「まさかこの学園の生徒会長をしていただなんて……」

「あのお方こそ、次期天草家を継ぐと言われているゆかりん様……。本物を見たのは生まれて初めてよ……」


 優司の周りからは驚愕の声と共にそんな言葉が入り乱れて聞こえてくると、彼の隣の幽香ですら冷静さを失いかけているのか口を大きく開けて固まってしまっている。


 多分だがこの会場で唯一冷静を保っているのは優司だけだろう。

 彼は三大名家と言われてもまだいまいちピンとこないのだ。

 何となく凄いんだなぐらいの感覚なのだ。


「んんっ、騒がしといて申し訳ないが静かにしてくれ。今から学園の概要を説明していくからな。よく聞いて覚えてくれ」


 夕香里のその言葉が会場内に響くと、周りで声を上げていた人達は一斉に口を閉じて静かになった。それはまるで声に魔力が宿っているかのような芸当で、これが三大名家のカリスマ性というものかと優司は思い知らされた。


「いいか? この学園には悪霊を退治する除霊科の他にも工学科という除霊具を作ったりメンテナンスをしてくれる科がある。それは私も含めて除霊師にとって大切なことであり、除霊具の状態悪くして我々に勝利なしだ。故に工学科と除霊科は互いに手を取り合い勉学に励むこと」


 確かに夕香里が言う通りこの学園には工学科なるものが存在すると、優司は事前にパンフレットを見て知っていた。だが具体的な内容はわからなかった。強いて言うなら工学科という文字からエンジニアという意味ぐらいしか伝わってこなかったのだ。


「そしてこれを最後に私、生徒会長からの挨拶は終わらせて貰う。……日々人々が何気なく暮らしているこの世界には悪霊や悪魔も共存している、だからこそ我々みたいな除霊師や工学師が必要なのだ。でなければ抑止力を失った悪霊共は人々に危害を加え出して死に追いやろうとするからだ。そのことを充分、心に留めておいて欲しい。以上だ」


 夕香里が生徒会長としての挨拶を終えて壇上を去っていくと、最後の言葉は優司の心に深く響いていて自然と拍手をして称えていた。だがそれは彼だけではなく周りも同じだったのか、手を叩く音はそこらじゅうから聞こえてきた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ……それから一通りの挨拶や連絡事項を終えると優司達新入生は教室へと移動することになった。しかし運命とはなんとも予測不可能なことで、なんと優司は幽香と同じクラス一組となったのだ。

 

 更には体育館から教室まで引率してくる人が担任となるらしいのだが、優司達の担任はあの表情に氷の雰囲気を纏っている女性教員だったのだ。

 

 もはや何かの因果律すら感じられるほどの出来事だが、優司は深く考えずに引率されるがままに教室へと向かうと席は自由とのことで窓辺の方に座った。

 

 すると幽香は何も言わずに無表情のまま隣に座ってきたが、彼の隣は既に指定席となっているのだろうか。それに対し優司は幽香に視線を向けて「これが信頼というものか……」っと心中で呟いていた。


「全員席に着いたな? ではこれよりHRも始める。あーあと、先に言っておくが今日は授業は無いから安心しておけ。HRが終わり次第解散となり各自で学園の中を見学してこい」


 全員が席に着いてから先生が教卓の前に立つとそう言ってきたが、初日から授業が無いとは随分とゆっくりしている学園のようだ。優司としてはこういう特殊機関はすぐにでも人手が欲しいと理由で、一分一秒も無駄にせず授業が行われるのではないかと少し思っていたのだ。

 

「でだ。HRと言っても最初は恒例の自己紹介からやっていく訳だが……。変に気張らずにそのまま名前とちょっとした趣味を添えるぐらいで構わん。たまに右腕が疼くとか封印されし邪眼がどうのこうの言う輩がいたが正直に反応に困るからな」


 先生が頭を抱えながら若干面倒くさそうに言うと、過去にそういう先輩方がいたのだろうと優司は想像してしまい親友の祐也を思い出してしまった。

 

 何故なら祐也もまた中二病を患っていたからだ。

 ……きっとこの場に彼が居たら、この話題に食いつくこと間違いなかっただろう。

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