13話「やはり二人は一緒」
無事に手荷物検査やら除霊具の確認を終えると、優司は一枚の紙を手に持ちながら学園の寮内を徘徊していた。中はそれなりに綺麗で築年数が新しいのか改装したかは分からないが、ボロくて至る所が老化しているという事は少なくとも今の所は見えない。
そして既に寮の中には彼と同じく新入生と思われる人達が多数居て、その多くは男子生徒達であった。……しかしそれは無論の事である。
何故ならここは男子寮であり、女子寮はこの寮の隣の建物になるのだ。
そこで優司が視線を周りに向けると、ここの新入生の男子達は皆一様に個性が高そうな輩だと直感的に悟ってしまった。
その理由としては一人の男子は手に大量の指輪を付けていて、髪が赤色をして尚且つトゲトゲしているのだ。恐らく絶滅危惧のヤンキーと言われる部類の人種なのだろう。
取り敢えずこの手の人とは関わってはいけないと優司は祖母から言われているので関わる事はないだろうと静かに思いながら目を逸らした。
だが更に他を見れば別の男子は超絶イケメンフェイスの持ち主も居たりするのだ。
しかしイケメンフェイスと言ってもそれは優司から見ての感想なので、他者から見たらどうかは分からない。だが明らかにその男子からは何やらモテオーラなるものが溢れているような気がして優司にはならなかったのだ。
「はぁ……何かとんでもない学園に足を踏み入れてしまったのかもな」
ため息を吐きながら歩いていると優司は紙に書かれていた寮部屋の前へと到着した。
「いや、いかんいかん。こんな気分でこれから共に過ごす相手に挨拶したら失礼になってしまうぞ!」
彼は自分の頬を二回叩いて気合を入れ直すとこれから一年共に過ごす相手にこんなみっともない姿を見せられないと、気持ちを新たにして部屋の扉を数回ノックしてからドアノブに手を掛けた。
実はここ名古屋第一高等学園は相部屋制度を採用しているのだ。
「失礼するぞ。今日からこの部屋で共に過ごす事になったゆ……えっ?」
「あっ……ゆ、優司?」
なんと彼が扉を開けて部屋へと入りながら挨拶をするとそこには居たのは……
「な、なんで幽香がこの部屋に?」
そう、優司の目の前には幽香が荷ほどきをしている所がしっかりと映っていたのだ。
当然その急な出来事に優司は部屋に踏み入れて足を止めてしまうと、幽香もキョトンとした顔をしながら固まってしまった様子だ。
◆◆◆◆
「えーっとつまり、俺の寮部屋の相手は幽香で間違いないって事か?」
「そ、そうだ。僕と一緒の部屋で間違いないな。まあ、この紙に書かれてる番号が正しければだけど」
二人は部屋の真ん中で何気なく正座しながら話すと、幽香は検査の時に貰った紙を手に持ってひらひらと揺らしなが言ってきた。しかしこれは何たる奇跡的な出来事だろうか。
最初は手荷物検査なんて無いだろうと優司は息巻いていたが、いざ学園へと来てみるとその結果は言わずもがなだ。
……だけど最後の最後で彼の願いは届いたのか、幽香と同じ部屋と言う願望は叶ったのだ。
流石にこれは仏の加護があると言ってもおかくしないだろうと優司は心中で両手を合わせた。
「さて、俺も荷ほどきをしたい所だが……。もう直ぐで学園の教師が迎えに来るみたいだし、最低限幽香の
優司はそう言いながら腰を上げて立ち上がると、幽香の女体化した時の下着類が入っているバッグをベッドの上に乗せた。
「そ、そうだな。……なんかごめんね。初っ端から色々と迷惑を掛けてしまって」
だが横からは幽香の弱々しい声が聞こえてきた。その声に優司は顔を彼の方へと向けると、
「気に病む必要はないぞ。これも卒業する頃には良い思い出になっているだろうしな!」
とだけ言って幽香をフォローするように軽い感じで受け流していた。
そのまま彼はバッグのチャックを下ろすと、そこから溢れんばかりの女性用の下着を適当に掴んで近くの備え付けのタンスに仕舞い始めた。
取り敢えず入れておけば後で幽香が綺麗に整頓してくれるだろうと優司は考えていたのだ。
「う、うん。……にしてもこの学園って流石は政府が大きく関与しているだけの事はあるよね。この部屋だって凄く内装が綺麗で元からパソコンだって置いてあるんだよ!」
幽香が目を輝かせながらこの部屋の事を褒めまくると、優司は下着類を一通りタンスにしまってから改めてこの部屋の全貌を確認するように視線を全体へと向けた。
確かにこの部屋は他の寮部屋と比べたら圧倒的に良い環境だろう。
木製のベッドは二つあって、床は断熱性なのか暖かく、更に幽香が言っている通りにはパソコンが標準で置かれているみたいなのだ。恐らく自習用として使うようになっているのだろう。
この自習用のパソコンもちゃんと二台あるのでかなりのお金が掛かっている事が伺える。
「これだけの設備が俺達に提供出来るって事は……金の出処は税金か?」
「……優司ってたまに現実的な事を言ってくるよね」
至って真面目な事を言ったつもりの優司だったが、幽香にはそれが微妙だったのか冷やかな視線を向けてきた。そして幽香がタンスやラックに持ってきた服を収納し始めると同時に、
「犬鳴優司、御巫幽香、入学式へと案内する。速やかに事前に貰った紙を持って廊下に出てこい」
と言った声と共に部屋の扉がノックされた。恐らくこの学園の教員なのだろう。
声質からして十代でないことは優司とて直ぐに分かった。それと男性ではないという事も。
二人は互いに顔を見合わせると幽香は服をハンガーに引っ掛けた所で手を止めると直ぐに紙を持って部屋を出る準備をしていた。
優司は元々入学式を終えてから荷物の整理を行う予定だった為に特に慌てる必要はなかった。
◆◆◆◆
そのあと寮部屋を後にすると、同じく寮の男子達と共に列を作って優司達は入学式が行われる会場へと進んでいった。
勿論引率しているのは先程部屋に尋ねてきた人で、その女性は自らが学園の教員だと公言していたのだ。名前までは語らなかったが、その容姿と見た目は色濃く優司の中で残っているのだ。
瑞々しい黒色の長髪は腰まで伸びていて、表情は氷の雰囲気を纏っているように常に冷静そうなイメージだ。更に胸は大きくて女体化した時の幽香以上の物を持っている。服装は黒色のカッターシャツに黒色のタイトスカートを履いていて如何にも教員と言った感じの見た目だったのだ。
「ふむ……。流石は名古屋第一高等学園だけの事はある。教師のレベルも一級品だな」
「なにを言っているんだ優司? もう直ぐで式が始まるんだから静かに前を見てなよ」
彼の呟きに横に座っている幽香が呆れた声でそんな事を言ってきた。
現在二人は体育に並べられたパイプ椅子に座っている状況だ。
窓辺はカーテンで閉められていて全体に薄暗い。唯一の証明は壇上へと注がれているのだ。
ちなみに事前に貰っていた紙はこの体育館に入る時に引率の教員に回収されている。
しかし除霊具の詳細を書けと言われていた事に二人は忘れていたらしく、この場について急いで書いていた事から周りから変に浮いていた。
「……おっと、もう直ぐで始まるみたいだな」
優司がとある箇所を見ながら幽香に言うと、彼の視線の先には多数の教員が椅子に座って並んでる光景が広がっていたのだ。
恐らく新入生を誘導する為に寮へと向かった教員達が全員戻ってきたのだろう。
そして優司の発言通り、体育館のスピーカーからこんな声が聞こえ出した。
「ただいまより入学式を執り行います。まず最初に理事長からのご挨拶です」
その男性の声と共に一人の年配の女性が壇上へと上がっていくのが見えると、雰囲気的には物腰が柔らかそうなイメージが伝わってきた。何というか近くに居るときっとほのぼのする感じだろう。優司がそうやって勝手にイメージを付けて頷いていると、
「んんっ。……初めまして皆さん。この学園の理事長をやらせて頂いてます、【
理事長の時子は壇上に着くとそのままマイクに向かって気さくな感じで挨拶を始めた。
だが優司はその挨拶の中にあった数ある学園という部分に引っ掛かりを覚えると、それは飛行機に乗っている時にも幽香が言っていたが他にも似たような学園があると言う事なのだろうか。
彼はそんな疑問を抱きつつ静かに頭を悩ませていると再び時子が口を開いた。
「この名古屋第一高等十字神道学園の他にも第二、第三がありますがそれらはこの学園と違って――」
だがしかし、優司は時子のこの発言を耳にすると視線が彼女の元へと釘付けとなった。
何故ならそれは彼が今もっとも気なっていた事の回答のような発言だったからだ。
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