第15話 会合②

 「うん、美味い美味い」

 

 バイトが終わって、近くにあるファミレスに行く。目の前の響はさっきからずっと食べ続けている。もう、パスタを6皿は食べている。こっちはさっきから空いたドリンクバー用のコップを見つめている。


 「あの……結局どういう用事なんですか?」


 そういえば、兄師匠がどうたらこうたら言ってたな。


 「ん……?」


 カラカラと音を立てて、大男がスパゲティをすさまじい勢いで巻き上げる。


 「お待たせしました~」


 卓に更にピザが置かれる。まさかとは思うが、これ俺が払う訳じゃないよな?


 「あ~、もふほっとまって」


 スパゲティを口に詰め込みながら男が言う。


 ………


 「ふぅ……、いったんこれくらいで終わりだな、よっし、で……」


 あれから、更に追加で3皿ぐらいこの人は食べた。今は夕飯時で人が多く、周りからは数えきれないほどの視線が向けられていることがなんとなく分かる。


 ……


 でっと言ってから、なんだか少し上を見てそれ以降何も言わない。何を言うのかもしかして忘れたのか…?


 「まず、兄師匠って……なんですか?」


 こらえきれずにさっきから気になっていたことを聞く。


 「あ~、兄師匠な、お前やっぱり奏から聞いてなかったか~」


 「え?」


 「そう、俺はお前から見れば兄師匠……まぁ、つまりな、あいつの奏の同期だよ、おれは」


 この人が、奏さんの同期…。雄々しさを体現するような体格、風貌。それがまだ…20代後半……?見えない…。いや、歳は違うかもしれない…。


 「歳もあいつと同じだよ、あいつと同じ道場にいてな……あそこは糞みたいなとこだった、潰れて正解だよ…」


 …同じくらいの年だったのか。……道場。奏さんは自分の過去については何も教えてくれなかった。いや、俺は奏さんがそこにいてってことが当たり前だと思ってたから過去について気になりもしなかったんだ。そう、俺はあの人のことを何もしらない。


 …いなくなった今、あの人のことを……知っておくべきか?…………。思い出して…何が…。


 「なるほど…そうだったんですね……ところで、要件はそれじゃないですよね?」


 少し、面食らったみたいな表情でこちらを見る。


 「そうか…おまえ、偉いなぁ~」


 にかっという感じに歯を見せてこちらに笑いかけてくる。


 「なんかあったら俺を頼れよ~」


 ちょっと待てよ、なんだこの人。なんだこの流れ。もしかして、これを伝えたいがためだけに店に来たんじゃないだろうな。心配になってきたぞ。たんに心配で俺の様子を見に来たってわけじゃないよな。


 「あの……」


 「さて、お前の覚悟が分かったところで、本題に入ろうか」


 響がその重そうな腕を自分の顎に持っていき、髭をすこしなでる。単に心配されているだけっていうのはどうやら違った様だ。さっきまでのやたら軽い感じが少し変わった。表情はそんなに変わってないのにも関わらず。


 「まず俺たちの仕事…分かるよな?」


 仕事……?修羅之会のか?殺し……?いや、別に必ず殺さなきゃいけないわけじゃない……。なら…


 「真剣勝負ですか…?」


 「いや、そっちじゃないない、通り魔狩りだよ」


 通り魔狩り。前、何回か奏さんに連れていかれた。刀を使った通り魔を警察よりも先に捕まえて、こっちでどうにでもする。なぜなら刀で人を斬るという行為から俺たちの会まで万が一繋がれば困るからだ。刀に対する規制も強化され、いくらそもそもが不法だといっても締め付けがきつくなれば、外に刀を持っていくこともかなわない様になり真剣勝負自体ができなくなって存続が危ぶまれる。


 だからこそ、辻斬りを俺たちで狩る。


 「最近な、まだそこまで大事にはなってないんだが、全国で同時多発的に通り魔事件が発生したんだ」


 通り魔事件が発生した。…あまり、ニュースとかは見ないから世間知らずで知らなかった。だが、大事になってない…?人が斬りつけられたなんてことがあればそれこそすぐに大事になりそうなものだけど。


 「どうして、大事になってないんですか?」


 「それがな…、容疑者の持ってた獲物が…どうやら刀なんだよ…それも全員同じの」


 刀…。俺たちのえものであり、それを使う人間は敵でもあり友でもある。命をとるための道具。


 「なるほど……?」


 それで、それがどうして大事になってないことにつながるんだ?通り魔事件が発生しているってことは少なくとも何人かは死ぬまでいかなくともけがぐらいしている筈だ。


 「警察はこの同時多発的な通り魔事件に…おそらくテロである可能性を感知したんだろう、奴らは未だ負傷させるだけで殺せるにも関わらず、誰一人命は取っていない、今までの最大被害は指一つだと」


 …テロである可能性?


 「俺の予想が正しければ、奴らは人を斬りつけること自体は目的じゃない、むしろ生かすことで自分たちの存在をアピールすることが目的であり、大事にすればそれこそ奴らの思い通りだ、だから警察は必死に情報を抑え、メディアに圧力を加える事でこれだけセンセーショナルな事件が限定的な報道しかされてないんだろうな」


 …なるほど。だろうな……。全部、この人の予想か。でも、今のところこの人の言ってることに何かおかしな点は無い。すごく納得できる。確かにテロリストの主張を取り上げたり、その目的を達成させれば、さらなるテロの増加につながる。だからこそ、報道規制を引き、情報に制限を懸けることぐらいは確かにするだろう。


 …じゃあ、なぜこの人は通り魔の獲物が刀だと知っていたんだ?いや、といよりも


 「あの…どうやって事件の情報を…?」


 「あぁ、犯人1人とッ捕まえて拷問した」


 響がメニューを見て、数字を注文票に書き始める。


 「そいでな……ついに公式に会長からお達しがでたのさ」


 ピンポーんという間の抜けた音が急に耳に入って来る。それで、ふと我に返る。一瞬、この人の声だけが耳に届いていたかのような感覚に陥っていた。話を聞かせるということが……うまい。

 

 「奴らの目的は何か知らんが、俺たちの手で壊滅しろってな」


 


 


 


 

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