2-8 恋のキューピット!?ベルテちゃん

バザールの期間は無事終了した。

 一行はグレイス王国に来てから忙しなく活動してきたので、今日一日、休日にすることにしたのだが……

 

「お嬢様、デートに誘ってみましょう」

「で、でも、断られたら…… 

「大丈夫です。この世にお嬢様からのお誘いを断るような男はいませんよ」

「で、でもでも、恥ずかしいところたくさん見られちゃってるし……」

 

 現在、女子部屋は作戦会議の真っ只中である。

 行ける行けると押しまくるベルテに対し、トワはでもでもと、自信が無いようだ。

 それもそのはず、トワは日本にいた頃を含め、恋なんて一度たりともしたことがないのだ。 

 

「では、こう考えてみましょう。

 ご主人様は、アクセサリー職人のアズーラ夫妻と親しくされています。

 アクセサリーというのは女性に人気で、その立場目当ての卑しい方が言い寄って来るかもしれません。

 もし、そこでご主人様がはいと言ってしまわれたら、他の女性に取られることになるんですよ。

 そうなってから後悔しませんか?

 それでいいんですか?」 

「……絶対に嫌です」

「なら勇気を出して誘ってみましょう。大丈夫です。

 作戦は考えてありますから!」

 

 偉そうに語るベルテだが、彼女も恋やデートなどしたことは無い 

 こうして、残念な二人のちょっと不安な協定が結ばれた。


 

「お、おはようございます。アランさん、今日はどこか行く予定はありますか?」

「おはよう。特に決まった予定は無いけど……別の国へ売りに行く商材でも見てみようかな」

 

 ブルーノ車両工房に頼んでいる馬車が完成次第、次の国へ移ろうと考えているが、まだ何処にするかは決まっていない。

 そのため、良い商材があればそれが売れやすい国へ行こうと考えているのだ。

 

「それっ、一緒に行っていいですか?」 

「いいよ。それじゃあ、休日にしたところで悪いけどネジャロたちを、」

「二人きりで行きたいですっ!」

「そ、そうかい?じゃあ、呼びに行くのはやめようか」

 

 ――よく頑張りましたねお嬢様。作戦の第一段階、[ 二人きりでお出かけ ]成功です。

 

 二人きりとは言ったものの、作戦の進行を見守る係として、ベルテはトワたちの後をつけることになっている。

 商材を見るために宿を出た二人と、それを尾行する一人。

 早速、作戦第二段階開始である。

 

 □□■■□□■■

 

「いいですかお嬢様。街に出たらまずは、ご主人様と腕を組んで胸を押し付けるんです!」 

「ほ、ほんとにそんなことしなきゃなんですか?」

「奴隷商のテントにいた頃、きれいな奴隷の方が、こうすれば男はイチコロだと言っているのを聞いたので、間違いないです!」

「わ、分かりました。恥ずかしいけど、頑張ってみます!」

 

 □□■■□□■■

 

 ――街に出たから、腕を組まないとだよね。

 えっと……どうやるの!?

 ベルテさん!助けて!

 

 恋愛初心者のトワには、隣を歩いているアランと腕を組む方法なんてものは皆目見当もつかないのである。

 

 ――こうッ。こうですよ、お嬢様。強引に腕を絡めるんです!

 

 振り返るトワの目には、街灯にガシッとしがみつき、豊満な胸を押し付けるベルテの姿が映っている。

 恋愛初心者の二人、早速雲行きが怪しくなってきた。

 

 ――こ、こうですね!?

 

「トワちゃん!?いきなりどうしたの?」

「え!?い、嫌でしたか……?」

「嬉しいけど、珍しいね。こんなことしてくるなんて」

 

 ――嬉しいって言われた。えへへ

 

 ――お嬢様!作戦第二段階、[ 腕を絡めてメロメロ ]大成功です!

 これでもうご主人様はお嬢様にメロメロなはず。

 あとは綺麗な夜景の見える場所で告白するだけです!

 ということは、私にできるのはここまでですね……

 あとはご自分の力でご主人様のハートを射止めてくださいませ。

 

 作戦としてはガバガバもいいところだが、アランは元からトワのことを意識しているため、結果上手くいってしまっている。

 

 ――んー……歩きにくい。

 もうちょっとアランさんにくっついた方がいいかな?よいしょっ

 あ、アランさんのにおい……


「好き」

「え!?」

「…………」

 ――あれ?今声に出てた?出てたよね。

 え?どうしよ、誤魔化す?でも、誤魔化したらこの後どうやって告白するの?

 ……いいや、もう言っちゃおう!


「アランさん。好きです!私とお付き合いしてください!」

 

 

 ――えぇー!?お嬢様ー!? 

 綺麗な夜景は!?

 こんな往来のド真ん中、夜景のやの字もないんですけど!?

 

 驚いて、隠れていた茂みから飛び出すベルテ。

 突然の告白に、目を丸くするアラン。

 思ったより声が大きくなってしまって、耳まで真っ赤なトワ。

 トワの告白が聞こえてきて、集まる野次馬たち。

 

 さっきまでガヤガヤと騒がしかった往来が物音一つしなくなった。

 

「僕で、良ければ、喜んで……」

 

 アランが返事を返すと、静まり返っていた往来が大歓声に包まれる。

 

「大胆だねぇー!お嬢ちゃん!」

「羨ましいぞー!爆発しやがれ!」

「見せつけやがってー……こちとらさっき振られたばっかだってのに……」

 

 祝福の中に何件か悲しい声も聞こえたがそれは置いておいて、晴れてトワとアランは恋人同士となった。

 

「お嬢様、計画とは違いますが、とにかくおめでとうございます」

「ありがとうございます、ベルテさん。

 アドバイス通りにやったら上手く行きました」

 

 ――いえ、一番大切な第三段階、[ 綺麗な夜景の見える場所で告白 ]をすっ飛ばしてます。

 でも、流石はお嬢様ですね。

 私たちのような凡人には到底真似できませんよ。

 

「さぁ、本来のデートの目的がまだですから、この騒がしい場所から離れましょう。

 ここからはお熱いお二人でどうぞ」

 

  作戦の進行を見守るという役目を終えたベルテは、二人を路地へと引っ張り、騒がしい往来から立ち去って行った。

 

「えっと、じゃあお店を見て回ろうか?」

「はい!行きましょうか、アランさん!」

「もう恋人になったんだから、さん なんてつけなくていいんだよ」

「分かりました……アラン。

 じゃあ、その……私のこともトワって呼んでください」

 

 早速恋人らしい呼び方に変えた二人は、ピッタリとくっついて店を巡ってゆく。

 

「やっぱり武器や防具の質がいいよね。

 次はダンジョン都市にしようかな?」

「ダンジョン都市ですか?」

「そう。ダンジョン都市国家アウロ・プラーラ。

 冒険者ギルドが統治する国で、高貴な血筋が通用しない、力こそ全てって感じの国かな」

 

 つまり、ネジャロみたいなのがたくさんいて、ダンジョンで得た素材を売って生計を立てる、そういう国である。

 

「ダンジョン!いいですね!そこにしましょう!」

 ――無双しまくって、一気にランクを駆け上がるお決まりのやつだね!

 しかも権力が届かないなんて最高じゃん!

 

「よし。じゃあ武器に防具と、ポーションや携帯食糧辺りを揃えようか」

 

 目的だった商材は決まりイチャイチャ、テキパキと物を揃えてゆく。

 その後、ちょっとオシャレなお店で昼食を摂った二人は、現在アズーラ工房に来ている。

 

「それで、晴れて恋人になったから贈り物をしたいんだけど」

「それはおめでとうございます!

 でしたら、オーダーメイドはいかがですか?

 あぁ勿論、お代なんて受け取りませんからね!」

 

 それはさすがに悪いと伝えたが、恩人への祝いの品として、ささやかな贈り物だと断られてしまった。

 結局、お言葉に甘えて[ 白い毛並みに真っ赤な瞳の犬、トワ ]を模した髪留めを作ってもらうことにした。

 好きな人から大切なトワを模したプレゼントを貰う。

 そんな幸せなことを想像しながら、その日は帰路に着いた。


 

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