5次会 月へ
敗者復活戦を会場まで見に来ていなかった山崎先生に電話で報告すると、すごく喜んでいた。
敗者復活戦を終えた足で、そのままムーンライトドームへ連れてこられた。
現地の見学会が行われた。
「ここがムーンライトドーム……」
「こんなでかい会場でやるのかよ……」
久保田さんが少し自慢げに答えた。
「私たちは去年も来たから、二度目なんですよ。緊張していつものパフォーマンスができないなんて言わないでくださいね」
「……ちょっとビビっちまうな……」
とても広い会場。客席からなら眺めたことはあるが、実際に見られる側、ステージの立てられる場所に来ると、全然景色が違って見えた。
「最終決戦。会場に人も入るから、本当の酒姫と変わらないぞ」
「まぁ人がいっぱいいたところで、私たちにはあまり関係ないな。私たちを知る人なんていないだろうし」
「あれ、言ってなかったっけ? 予選からネット配信されただろ、あれでファンがついてたりするんだ。そのためにだけ全国品評会に出てる連中もいるくらいだし」
「そうは言っても、ここまで来れることを想像してなかったからな……」
「やっぱり固定ファンがいる方が声援もあって良い評価をされやすい。それは明らかだ」
「ここまで来ても厳しい戦いに変わりは無いってことだな。けど、 泣いても笑ってもこれが最後だな。何があっても笑って終わろうぜ!」
◇
敗者復活戦の後は、あまり練習の日数も無く、最終ステージが行われる段取りとなっていた。
本当に、ただ首の皮が繋がっているだけなのかも知れない。
記念に出させてもらっているような感覚でもあった。
それでも、出るからにはきちんとやり切りたい。
そう思って、みんなで練習に励むと、最終ステージの日になっていた。
観客が入る前に、簡単なリハーサルが行われた。
どこから出てくるか、どこへ退場するか、自分たちの出る順番等を確かめていった。
客席から眺める僕と部長にとっては、当事者たちの緊張はわからなかったが、できるだけのことはやろうと、二人で決めて、リハーサルが終わった彼女たちの元へと向かった。
◇
段々とお客さんが入ってきていた。その様子がモニター画面に映し出されている。
大部屋の控室が用意されており、そこで出場するメンバーや関係者が集まっていた。推し活部は一緒になってモニターを見ていた。
「人、やっぱり多いんですね……」
「あまり気にしてもしょうがないってわかってても、緊張するな……」
「人多いの怖いね……」
清酒祭等とは比べ物にならないくらいの大人数。こんな観客の前でやるのはやはり緊張が凄いようだった。
部長から提案してくれた。
「久々にやる? 円陣!」
推し活部のメンバーは輪になって、部長は円の中心に手を突き出した。
「初めてだよ、こんな気分。緊張の中にも楽しさがあって、怖い気持ちの中にも、みんながいるって力強さがある」
そういうと茜さんも部長に手を合わせた。
「私たちの歩んできた道はあっていたでしょうか」
「ここまで来れたんだから間違ってなかったよ」
泡波さん、白小路さんは見つめ合いながら、片手を輪の中心に突き出した。
「ここにいるみんなと出会えてよかったです」
「私も、こんなに夢中になれて、熱くなれて、楽しくて、嬉しくて、途中少し悲しかったり……。妨害なんで受けてないですけど、ライバルたちと争いました。みんなともに戦った仲間です。みんなに会えて良かったです」
僕と南部さんが手を突き出した。
「おいおい! なんか楽しそうなことしてるな。混ぜろ混ぜろ」
酒姫部のメンバーもやってきたかと思うと、早速二階堂さんが手を合わせてきた。
「シロちゃんと手を合わせて、抜け駆けしないでくださいね」
八海さんが白小路さんと、泡波さんの間に手を差し込んできた。
泡波さんは、迷惑そうにしながらも、三人で手を握り合わせていた。
「清酒祭で啖呵切ってきたときは驚いたぞ、南部。あの時のお前のおかげで、私もあらためて頑張る気力が湧いた。ありがとう」
獺さんが南部さんの手の上に、自分の手を重ねた。
「手段を選ばずに酒姫になりたい。それは今も同じだけど、もっと前向きな方向で手段を選ばないから。もう邪魔はしない。みんなで頑張りたい」
久保田さんも南部さんに手を重ねた。
「行くぞー!! 酒姫ファイトー!!」
「おーー!!」
◇
最終決戦の演目の紹介が始まった。
観客の反応も含めての戦い。
全国から集まってきただけあって、それぞれのチームにはファンが多い。ドームの真ん中にステージは構えられているのだが、ファンから声援が飛んでくる。
「お待たせしました。本日決勝ステージまでやってきたのはこの酒姫候補たちだー」
大きなスクリーンに、ファーストステージの様子が映し出されて、順番に各チームが紹介されると、その都度歓声が上がった。酒姫部のチームも呼ばれたが、相当な人数の歓声が聞こえた。学校内だけではない。全国にファンがいるのだ。
みんなのパフォーマンスを客席から見たいと、僕と部長は控室から客席席へと来ていた。
「うちのチームが呼ばれても、こんなに歓声はあがらないよね……。知名度なんて無いに等しいもんね。それでも、やるだけやるしかない。いつでも、挑戦者の気分でいよう。ここまで来れただけで奇跡だよ」
部長がそう言っていると、推し活部が呼ばれた。
僕と部長は声援を送ったのだが、それ以外にも大勢の声援が飛んできていた。
「敗者復活戦良かったよー!」
「応援しているー!」
オーディションの様子も全国中継されていたことで、それを見てファンになった人たちもいたのだろう。 他チームよりかは劣るものの、極端に少ないわけではなかった。
「良かった! 初出場にしては、ファン多そうだね! 茜氏たちは緊張するかもしれないけどいつも通りやって欲しい。自分たちの1番良いパフォーマンスを出せば、結果はついてくるはずだもん」
僕と部長は、観客席から祈るしかなかった。
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