5次会 補習授業
中間試験期間も終わり、いつも通り部室に集まって練習の準備を始めていた。
部長はすごく上機嫌で中間テストを手に持って茜さんと話をしていた。
「茜氏、テストの結果返ってきた? どうだった? 僕は結構よかったよ! じゃーん!」
「すげーな、クロは。私も頑張ったんだけどな? このくらいしか取れなかったよ」
高得点のテスト用紙を見せあっている。
間違えている問題ないは数問しかない。部長はやはり勉強ができるようであった。
テスト前はあんなに沈んでいた白小路さんも、テストが終わって笑顔が戻っていた。こちらも泡波さんとテスト用紙を見せあっている。
「私もね、レイに教えてもらったからとても点数良かったの! ありがとう! 持つべきは親友だね、レイ大好き!」
「……え、私もいつもより良かったよ……。シロちゃんと勉強できて、成績もっと上がった……だ、大好き……」
泡波さんは、絶対違う感情を抱いているだろう、顔が真っ赤になって今にも湯気が出てきそうだった。
そんな泡波さんは満点のテスト用紙もあったりした。
どんな勉強をすれば、その域まで達成するのか……。ひたすら白小路さんに教えるために教科書を読み込んだのだろう。
「やっぱり、文武両道だね! 山崎先生が来たら報告しよう! ちなみに藤木君と南部氏はどうだった?」
話を振られたが、顔が引きつっているのが自分でも分かった。
あれだけ気をつけろと言われていたのに、赤点を取ってしまったなんて言えない……。
案の定、数学のテストの点数は赤点であった。
他の教科はなんとか平均点くらいは取れたのだが……。
「だいたい平均点位だったんですが、一つだけ出来が悪くって……」
「あちゃー……。そうか、最初はそうなるよね……、どんまい!」
部長が慰めてくれる。
同じテストを受けていた南部さんだったが、僕のテスト用紙をまじまじと見つめてきた。
僕の点数が信じられないようで、自分のテスト用紙と見比べていた。
「……あれ? おかしいですね、私よりも点数が良い……? 私はもっとできる子のはずなのに? もっと頭が良かったはず……」
南部さんもテスト用紙を見せてくれたのだが、数学は赤点であった。他の教科も赤点に迫る点数だった。
やっぱり僕の思った通りの結果だった。
南部さんは、ずっと不思議そうに僕の答案と比べて、どうしても現実を受け入れられないといった表情だった。
「……南部さん、しょうがないです。一緒に補習を受けましょう」
「……うう」
「……あ、そうか。補習って夏休み中だもんな……。南部が練習抜ける日もあるのか? ちょっと痛いな。次のポップのメインは南部が適任だと思ったんだけどな……」
「……しょうがないよ、茜。……ポップは私がやる?」
「うーん……」
「レイ、合うかもしれないよ! 可愛いもんね!」
横から話に割り込んだ白小路さんに褒められ、泡波さんはまた赤くなってる……。
泡波さんのポップも見たい気もするが、やっぱり南部さんの方が良い。
「ポップは南部さんが良いですよ、やっぱり。南部さん、補習なんてすぐ終わらせちゃいましょう!」
「……うう。ここ、正解だったりしないですか……?」
南部さんはいつまでもテストの点数を受け入れられないようだった。
◇
「皆さん、明日から夏休みですが、ハメを外しすぎないようにしてくださいね! 高校生の夏休みは限りがあります。是非とも良い思い出を作って下さい。では、良い夏休みを!」
夏休みに入ったのだが、赤点を取ったものはすぐには休みが無く、補習が実施される。
わざわざ休みの日に学校へ来て勉強をしなければいけないのだ。
普段からちゃんと勉強しておけばよかった……。
幸いにも推し活部での活動があるため、勉強だけしに来るということは避けられた。
夏休み初日、炎天下の中、高校へと来る。
日向を歩くいていると、ワイシャツが汗でベタベタになる。
校舎の中も暑い。やっぱり夏に授業はするべきではないなと思っていると、南部さんが廊下を歩いているのが見えた。
耳にはイヤホンをつけて、小さく手を振って歩いている。
小さい動きだったが、いつも部室で見る動きだった。どうやら次の演目の振付を練習しているようだった。
……南部さんはこういったところでも振付練習をしていたのか。
勉強はできなくても、振付を覚えるのは早いのも納得できた。
声はかけず、練習に集中させてあげた。
補習授業が行われる教室へと入る。
先生が来るまでの間、机に置かれたプリントで自習をするようだった。
白州先生と直接顔を合わせる時間が少なくて済みそうと、少しほっとしてプリントの置かれている席へと着き、もくもくと自習を始めた。
南部さんは相変わらずイヤホンを着けて、ダンスの連取をしながらプリントをしていた。
――ガラガラガラ。
「みんなプリントやってるか? 終わったら解説の授業するからなー」
白州先生が唐突に教室へとやって来た。
チラッと教室内を見渡したと思ったら、驚いた顔でこちらを二度見してきた。
「おい、藤木、南部。お前たち成績悪いのか?! こんなところで補習受けてる場合じゃないだろ。もう大会2日目近いぞ!?」
気まずかった。
南部さんは、イヤホンしてしまっているので白州先生が教室に来たことすらわかっていなかった。
「南部……は、いいや。ちゃんと練習しているようだな。藤木! お前がプロデュースしたいって言ってたんだろ。しっかりと導いてやれ!」
イヤホンで音楽聞きながら自習している南部さんは怒られなかったが、僕の方が怒られてしまった。
「ちょうどいい機会だ、酒姫のプロデュースがどういう事かを教えてやる。次の曲はポップだろ? どういうところが良いか言ってみろ!」
「えっと、はい。ポップは可愛いを前面に押し出して、見ている人に愛でたい感情を抱かせるようにしているものだと思います」
「違う! 根本が違う! 酒姫のポップはガールズポップに由来する。女子のありのままの心情を歌い、女子を元気づけたり応援するような、女子が頑張りたいと思うような気持ちにさせるのがメインだ! 男子は女子のありのままの姿を勝手に愛でているだけに過ぎない」
何やら違う科目の補習を受けさせられている……。
「きっとお前たちのことだ、ポップは南部がメインで歌うんだろ? 南部のどこがいいか言ってみろ!」
急にドキッとすることを言わされる。南部さんはイヤホンをしていて、こちらの声は聞こえてないはずなので正直に……。
「……南部さんはまず見た目が可愛いです。それでいて、ありのままでいる。何も取り繕わず、等身大の自分で生きている。そんな姿にみんな心惹かれる存在です」
「……うむ、まぁ良いだろう。では、どこが好きかもっと言ってみろ!」
……なんで南部さんの好きなところを言わされるんだ……。すごく恥ずかしい。これハラスメントに当たらないんですか……。
「……えっと、瞳が澄んでいます。全く濁りがない。ピュアなハートを持っています。誰に対しても素直に自分の気持ちを言う子です。勉強はできないですけど、何事にも一生懸命で、今だって補習しながらも次の楽曲の練習をしているくらいです。やっぱり僕は、そんな南部さんを推したいです!」
「うん、いいぞ。南部のいいところを引き出してやるのがお前の役割だ。歌やダンスを上手くさせるだけが酒姫じゃない。いかにその子の魅力を引き出せるかが、プロデューサーの仕事だ! では、追加の補習として南部の好きなところを400字詰めの作文用紙10枚程度にまとめて私のところまで持ってくるように!」
「……えぇと、なんの補習でしたっけ、これ……」
「ん? 茜と、泡波分も必要だったか。追加で書いて来るように。あと、5演目分の分析と、チームの作戦。演目が終わるごとに他チームの感想文も書くように! 毎日付き合ってやるから安心しろ!」
僕は、この日から毎日酒姫補習を受けさせられることになってしまったのだった……。
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